「VLOOKUPがうまく動かない」「同じ集計を毎週手作業で繰り返している」「VBAは書けないけれど自動化したい」――Excel業務のつまずきは、ほぼすべてAIで解決できる時代になりました。本記事では、ChatGPTとMicrosoft 365 Copilot in Excelを使い分けて、関数・数式デバッグ・VBA・データ整形を一気に効率化する方法を、2026年5月時点の公式情報をもとに整理します。明日から貼り付けて使えるプロンプトテンプレも掲載します。
AI×Excelで何が変わるのか
AIをExcel業務に組み込むと、単に「速くなる」だけではなく、業務そのものの形が変わります。具体的には次の3つの変化が起きます。
1. 圧倒的な時短:30分の作業が3分になる
たとえば「シート間で名寄せして重複を消し、年月ごとの売上を集計したい」という処理。手作業や関数試行錯誤で30分かかっていた作業も、AIに自然言語で依頼すれば、数式の提案からPythonコードによる前処理まで数分で出てきます。「思いつく → すぐ試す → 直す」のサイクルが、Excelを開いたまま回せるようになるのが最大の変化です。
2. 属人化の解消:個人技が「再現可能な手順」になる
ベテラン担当者の頭の中にしかなかった集計ロジックや関数の組み合わせを、AIに説明させればドキュメントになります。「この関数は何をしているのか」「なぜこの順序で処理しているのか」を即座に解説できるため、引き継ぎや教育のコストが大きく下がります。
3. 教育コストの削減:質問できる相棒が常駐する
従来、Excelの関数やVBAでつまずくと、上司や先輩に質問するか、検索して情報を探す必要がありました。AIは24時間・即答で、しかも自分のデータの文脈に合わせて答えてくれます。新人教育や非IT部門のリスキリングにおいて、AIは「最初の先生」として最も費用対効果が高い投資のひとつです。
ChatGPTとMicrosoft 365 Copilot in Excel、どちらを使うべきか
「AIでExcelを効率化する」と一口に言っても、大きく2つのアプローチがあります。最初に違いを押さえておくと、無駄な試行錯誤を避けられます。
項目 | ChatGPT(OpenAI) | Microsoft 365 Copilot in Excel |
|---|---|---|
動く場所 | ブラウザ/デスクトップアプリ(Excelの外) | Excelの中(リボンに常駐) |
得意なこと | 関数・VBAコード生成、データの自由な前処理、説明・解説 | シート上のデータを直接分析・可視化、数式やグラフの提案、Python実行 |
ファイル要件 | ファイルをアップロードする方式 | OneDrive/SharePoint上のファイル(自動保存ON) |
主なプラン | ChatGPT Free/Plus/Team/Enterprise | Copilot Pro(個人向け)/Microsoft 365 Copilot(法人向けアドオン) |
業務データの取り扱い | Team/Enterpriseは既定で学習に使用しない | テナント境界の中で動作(Microsoft Graph上の権限を尊重) |
ざっくりした使い分けは次のとおりです。
- 関数やVBAコードを書きたい、CSVを整形したい → ChatGPT
- Excelファイルを開いた状態で、そのデータを直接質問・可視化したい → Microsoft 365 Copilot in Excel
- 機密度が高い社内データを扱う → 自社が契約している法人プラン(ChatGPT Team/Enterprise、または Microsoft 365 Copilot)に統一する
ChatGPTのデータ分析機能(旧 Code Interpreter)
ChatGPTには、Excel/CSVファイルをアップロードして直接分析・加工してもらえる機能があります。OpenAI公式ヘルプセンター上の現在の表記は「data analysis(データ分析)」で、社内ではかつて「Advanced Data Analysis」「Code Interpreter」と呼ばれていた機能と同じ系譜です。Pythonが安全な環境で実行され、ファイルの読み込み・整形・可視化・新しいExcelファイル出力までを行います。
2026年5月時点の運用上のポイントは次のとおりです。
- 使えるプラン:ChatGPT Plus/Team/Enterprise/Edu などログインユーザー向けプラン。Free でも一部利用できる場合があるが、ファイルアップロードや実行回数に制限がかかりやすい。業務利用は Team/Enterprise を推奨。
- データ学習:Team/Enterprise/Edu/Business のデータは既定でモデル学習に使用されない(OpenAI公式の「Enterprise privacy」記載)。Free/Plus は、設定で学習オフ(チャット履歴と学習を分離)にできる。
- 対応ファイル:.xlsx、.xls、.csv のほか、画像・PDF・テキスト等。
Microsoft 365 Copilot in Excel
Microsoft Learn の公式ドキュメントによると、Excel における Copilot は「数式・グラフ種類の提案、データに関する洞察の生成(Draft 機能)」を担当します。さらに、Copilot in Excel with Python を使うと、自然言語で書いた依頼から Python コードを生成し、Excel 内の =PY() セルとして実行できます(ローカルへのPythonインストールは不要、Anaconda 経由のクラウドランタイムで動作)。
利用条件で押さえるべき点は次のとおりです。
- ファイルは OneDrive for Business または SharePoint 上に保存され、自動保存(AutoSave)が有効であること(ローカルファイルは対象外)。
- 個人向けの「Copilot Pro」と、法人向けの「Microsoft 365 Copilot(Microsoft 365 E3/E5/Business Standard/Premium に対するアドオンライセンス)」は別プラン。法人テナントの組織データを Copilot に参照させたい場合は、後者が必要。
- Microsoft 365 Copilot は Microsoft Graph と連携し、ユーザーの権限を尊重する設計(テナント境界の外には出ない)。
4大ユースケースと具体プロンプト
ここからは、業務でとくに需要の大きい4つのユースケースを取り上げ、それぞれ実用レベルのプロンプト例を示します。ChatGPT・Copilot どちらでも応用できるよう、汎用的な書き方にしています。
ユースケース1:関数・数式の生成
「やりたいこと」を日本語で説明するだけで、適切な関数の組み合わせを提案してもらえます。VLOOKUP、XLOOKUP、INDEX/MATCH、FILTER、LET、LAMBDA など、用途に応じて最適なものを選んでくれます。
プロンプト:
「シートAのB列に商品コード、シートBのA列に商品コード・B列に単価があります。シートAのC列に、シートBから引いてきた単価を表示したいです。商品コードがシートBになかった場合は『要確認』と表示してください。Excelの関数で書いてください。XLOOKUPが使えない環境のために、IFERROR+VLOOKUP版もください。」
このように、「列構成」「やりたいこと」「例外時の扱い」「環境制約(古いExcelか)」の4点を伝えると、貼ってすぐ動くレベルの式が返ってきます。
ユースケース2:数式デバッグ
「動いているはずの式が動かない」とき、エラーメッセージや式そのものを貼り付けて聞くと、原因と修正案を返してくれます。
プロンプト:
「次のExcelの式が #N/A になります。原因と修正版を教えてください。データはB列に商品コード(テキスト型)、参照先のA列も商品コード(数値型)です。式:=VLOOKUP(B2, Sheet2!A:C, 3, FALSE)」
型不一致、絶対参照漏れ、配列の向き、循環参照など、人間が見落としやすいポイントをAIは網羅的に確認します。
ユースケース3:VBA・マクロの作成
VBAを一から学ばなくても、「何をしたいか」を伝えればコードを書いてくれます。重要なのは 「対象シート名」「列名」「想定するデータ件数」「実行頻度」 を明示することです。
プロンプト:
「ExcelのVBAを書いてください。アクティブブックの『売上』シートのA列に日付、B列に金額が入っています。これを月単位で集計し、新しいシート『月次』にA列=年月(YYYY-MM)、B列=合計金額として出力してください。既に『月次』シートがあれば中身をクリアしてから書き込んでください。コメントを日本語で多めに入れてください。」
受け取ったコードは、必ず テスト用のコピーブック で動作確認し、想定外のデータ(空セル、文字列の混入など)でも壊れないかをチェックしてから本番投入してください。
ユースケース4:データ整形・名寄せ
もっとも効果が大きいのが、CSVや汚いExcelデータを「分析できる形」に整える作業です。ChatGPTのデータ分析機能や、Copilot in Excel with Python に依頼すると、関数では難しい高度な前処理も自然言語で完結します。
プロンプト:
「添付のCSV(顧客リスト)を整形してください。要件は次のとおりです。(1) 全角・半角を統一(カナは全角、英数字は半角)。(2) 電話番号はハイフンなし11桁または10桁の文字列に揃える。(3) 会社名末尾の『株式会社』『(株)』を削除して別列に法人格として保持。(4) メールアドレス重複行を削除(最新の更新日時を残す)。整形後のExcelファイル(.xlsx)として出力してください。」
ChatGPTにExcel/CSVを読み込ませる流れ
ChatGPTのデータ分析機能を使うときの基本フローは次のとおりです。慣れれば30秒で開始できます。
- ChatGPT(Plus/Team/Enterprise)を開き、新しいチャットを開始する。
- 入力欄左のクリップ(または+)アイコンから、対象の .xlsx/.xls/.csv ファイルをアップロードする。
- 「このファイルの構造を最初に教えてください。各列の意味・型・欠損の有無・件数を一覧にしてください」と最初に指示し、AIに状況を把握させる。
- 続けて、整形・集計・可視化のプロンプトを入れる。
- 結果に問題なければ、「整形済みデータを .xlsx でダウンロードできるようにしてください」と依頼してファイルを受け取る。
ファイルサイズは1ファイルあたり数十MB程度まで扱えますが、行数が多い場合は サンプル抽出して試す → 全量に展開 の二段構えが安全です。
機密情報を含む業務データの扱い方
AI×Excelで一番つまずくのが「これ、社外に出していいデータなのか」という判断です。まず大原則として、個人情報・取引先機密・社内非公開情報を、無料の生成AIや個人アカウントの有料プランに直接貼り付けてはいけません。社内ルールがまだ整っていない場合でも、次の3点は最低限のラインとして運用してください。
- 業務データは法人契約のテナントで扱う:ChatGPT Team/Enterprise、または Microsoft 365 Copilot のいずれか。OpenAI公式によると Team/Enterprise/Edu/Business は既定で学習に使われません。Microsoft 365 Copilot は組織のテナント境界内で動作します。
- 個人プラン(ChatGPT Free/Plus、Copilot Pro)で機密データを扱わない:プライベート用途や、自分で作った疑似データでの検証に留める。
- マスキングを習慣化する:氏名・会社名・電話番号・金額のうち、業務上必須でないものはダミー値に置き換えてから渡す。AIに依頼する内容は「処理ロジック」であって「実データそのもの」ではないことを意識する。
会社として正式に導入する際は、利用規約・プライバシー設定(学習オフ、リテンション期間)、アクセスログの取得方針、入力禁止情報の定義を文書化しておくと、現場の判断負荷が一気に下がります。
業務でつまずきやすいパターンと対処法
導入支援で繰り返し見かける、典型的なつまずきポイントを整理しておきます。
1. 「動かない関数」を貼って終わってしまう
式だけを送っても、AIには 列構成・データ型・期待する結果が分かりません。「サンプル3行+やりたいこと+エラー内容」をセットで送るのが鉄則です。
2. AIの提案を検証せずに本番データに適用する
とくにVBAやデータ削除を伴う処理は、必ず コピーブックで先に試す。AIは「もっともらしいが微妙に違う」コードを返すことがあります。
3. ファイル形式・保存場所を確認していない
Microsoft 365 Copilot in Excel は、OneDrive/SharePoint 上で自動保存が有効なファイルでしか動作しません。「ローカルに保存している社内ファイルでは Copilot が反応しない」というのは、設計上の仕様です。
4. プロンプトが抽象的で、毎回違う答えが返ってくる
「いい感じに集計して」では、AIごとに解釈が揺れます。列名・粒度(日次/月次)・出力形式・例外処理を毎回明示する習慣をつけると、再現性が一気に上がります。
5. すべてをAIに任せようとする
AIは 最終確認の責任を負えません。とくに金額・日付・人名に関わる処理は、出力を必ず人間がスポットチェックする運用にしてください。
明日から使えるプロンプトテンプレ集
そのままコピーして、空欄を自社の状況に書き換えれば動くテンプレを集めました。
用途 | プロンプトテンプレ |
|---|---|
関数の作成 | 「Excelの関数を作ってください。シート構成は[ ]列に[ ]、[ ]列に[ ]です。やりたいことは[ ]。例外時は[ ]。Excel 2016でも動く形と、最新Excel(XLOOKUP・LET使用可)の両方をください」 |
数式デバッグ | 「以下の式が[エラー名]になります。原因の候補と修正案を3パターン提示してください。データの型は[ ]、列構成は[ ]、サンプル3行:[ ]。式:[ ]」 |
VBA作成 | 「ExcelのVBAを書いてください。対象ブックの[ ]シートに[ ]列があり、[やりたい処理]を行い、結果を[ ]に出力します。データ件数は約[ ]件。日本語コメントを多めに。エラー処理(On Error)も入れてください」 |
データ整形 | 「添付ファイル(.xlsx/.csv)を整形してください。要件:(1)[ ]、(2)[ ]、(3)[ ]。整形後のファイルを.xlsxで出力。整形ロジックを日本語で要約も添えてください」 |
ピボット集計 | 「このデータを、行=[ ]、列=[ ]、値=[ ]の合計でピボット集計してください。空白セルは0で埋め、合計行と総計を付けてください。結果は新しいシートに出力」 |
関数の解説 | 「以下のExcel式が何をしているか、初見の人にも分かるよう日本語で1ステップずつ解説してください。引数の意味と、ありがちな落とし穴も指摘してください。式:[ ]」 |
名寄せ | 「2つのリスト(添付AとB)をキー[ ]で突合してください。表記ゆれ(全半角、株式会社/(株)、スペース有無)を吸収。完全一致・あいまい一致・不一致の3シートに分けて出力してください」 |
レポート文章化 | 「この月次集計データから、上位3つのトピック(伸びた/落ちた/注目すべき変化)を、社内報告向けに3行ずつの日本語でまとめてください。数字は必ず引用元の値を使い、推測は分けて記載」 |
使うときのコツは 「列名・粒度・例外・出力形式」を毎回1セット指定する こと。これだけで、AIの回答品質は劇的に安定します。
関連トピック
Excelに限らず、業務全体でAIを使いこなす考え方や、ChatGPTを業務利用するときの設計の勘どころは、別のコラムでまとめています。あわせてご覧ください。
Mihataのサポート
Mihataでは、中小企業向けに「AI×Excel/業務効率化」の伴走支援を行っています。具体的には、(1)現場ヒアリングによる自動化候補の洗い出し、(2)ChatGPT/Microsoft 365 Copilotの選定と社内ガイドラインづくり、(3)よく使う業務のプロンプトテンプレ集の整備、(4)関数・VBAレシピの社内ナレッジ化までをワンストップで支援します。「何から手をつければいいか分からない」段階からのご相談を歓迎します。
まとめ
AI×Excelの本質は、ツールの目新しさではなく 「思いつく → すぐ試す → 直す」のサイクルを、Excelを開いたまま回せるようになる ことにあります。今日からできるアクションは次の3つです。
- 関数・VBA・データ整形のうち、いま一番時間がかかっている1業務を1つ選び、本記事のテンプレを使ってAIに依頼してみる。
- 機密データの扱いは、必ず法人契約のChatGPT Team/Enterprise または Microsoft 365 Copilotの中で行う。個人プランで業務データを扱わない。
- うまくいったプロンプトを社内Wikiやチームの共有ドキュメントに貯め、「個人技」を「チームの資産」に変える。
ExcelとAIの組み合わせは、もはや「やった人だけが得をする」段階を過ぎ、「やらない組織だけが取り残される」フェーズに入っています。小さな業務1つから、ぜひ今日試してみてください。