2026年10月15日、Linuxカーネル(Linuxの中核となるプログラム)に見つかった脆弱性CVE-2026-98432が公表されました。ログイン不要で、ネットワーク越しに届く通信だけでサーバーを乗っ取られるおそれがあるもので、深刻度はCVSS v3.1で9.8(10点満点)と評価されています。この記事では、VPSやクラウドでサーバーを動かしている中小企業の担当者に向けて、対象になるか、今なにをすればいいかを、2026年10月31日時点で確認できた一次情報をもとに整理します。
結論:CVE-2026-98432で今やること3つ(2026年10月31日時点)
何が起きたか。LinuxカーネルのIPv4のTCP処理に、解放済みのメモリを使ってしまう不具合(use-after-free)が見つかりました。Linuxカーネルの脆弱性を採番する組織(Linux CNA)は、認証なしでネットワークから攻撃でき、攻撃の難しさは低いとして、CVSS v3.1で9.8(Critical)と評価しています。
誰が対象か。Linuxカーネル4.4以降を使い、外部からの接続を受け付けているサーバーです。中小企業で多いのは、さくらのVPS・ConoHa VPS・AWS(Amazon Lightsail・EC2)などで、OSから自分で管理しているサーバーです。共用のレンタルサーバーは、カーネルの更新を事業者が行います。
今やることは次の3つです。
- 自社で管理しているLinuxサーバーを洗い出す。制作会社や保守会社に任せているサーバーも含めます。分からなければ、契約しているサーバーの一覧から確認します。
- OSの配布元が修正済みのカーネルを出しているかを確かめ、出ていれば更新して再起動する。カーネルは再起動しないと新しいものに切り替わりません。Ubuntuは10月30日時点で、サポート中の全版が「修正作業中」で、修正済みのカーネルはまだ出ていません。
- 修正が出るまでは、外に開いている入口を減らしておく。使っていないサービスを止め、管理用の接続(SSHなど)は接続元を絞ります。ただし、これは完全な対策ではありません。Webサイトのように誰からの接続も受ける入口は残るので、修正済みカーネルへの更新が唯一の対策です。
CVE-2026-98432とは:何が危ないのか
修正のもとになったLinuxの変更(コミット)の題は「ipv4: free inet_opt and ireq_opt after an RCU grace period」です。TCPの接続を受け付ける途中で、通信に付いている「IPオプション」という付加情報を保存したメモリが、別の処理で解放された後にも読まれてしまう、という不具合です。
項目 | 内容 |
|---|---|
CVE番号 | CVE-2026-98432(2026年10月15日公開) |
種類 | IPv4のTCP処理での解放済みメモリの使用(use-after-free) |
深刻度 | CVSS v3.1で9.8(Critical)。Linux CNAの評価。Ubuntuも9.8、優先度「High」 |
攻撃の条件 | ネットワーク経由。認証なし・利用者の操作なし。接続を受け付けているサーバーが対象 |
起きうること | カーネルのメモリの中身の漏えい、メモリの書き換え、サーバーの停止(Linux CNAの評価の説明による) |
影響する版 | 4.4以降で、各系列の修正版より前のもの(4.4より前は影響なし) |
悪用の状況 | 米CISAの「悪用が確認された脆弱性」一覧(KEV)には10月30日版の時点で載っていない |
発見者は「認証なしでroot権限を取れた」と公表
この脆弱性を見つけて報告したAnthropicは、10月27日の研究レポートで、MPTCP(複数の通信経路を束ねるTCPの拡張)で接続を待ち受けるLinuxサーバーに対し、認証なしでroot(管理者)権限のコマンドを実行できたと公表しています。レポートによると、検証ではカーネルの防御を外すまでに約48分、そこからコマンドの実行まで約5分かかりました。また、上流で修正され、保守中のすべての安定版カーネルに取り込まれたとしています。
一方で、CVEの説明や修正の内容にMPTCPの記載はありません。「MPTCPを使っていないから安全」と判断できる公式の根拠は、この記事の時点では見当たりません。
修正済みのカーネルの版と、配布元の対応状況
Linuxカーネルの上流(開発元)では、次の版で修正されています(CVEの記録による)。
系列 | 修正された版 |
|---|---|
5.10系 | 5.10.272以降 |
5.15系 | 5.15.223以降 |
6.1系 | 6.1.190以降 |
6.6系 | 6.6.159以降 |
6.12系 | 6.12.113以降 |
6.18系 | 6.18.56以降 |
7.2系 | 7.2.10以降 |
7.3以降 | 修正済み |
ただし、VPSやクラウドで使うUbuntuなどのOSは、上流の版をそのまま使わず、配布元が修正を取り込んだ独自のカーネルを配ります。「uname -r で出た数字が上の表より小さいから未対応」とは限らず、逆に数字が大きくても修正済みとは限りません。判断は、使っているOSの配布元の情報で行ってください。
Ubuntuの状況(10月30日更新時点)
Ubuntuの版 | 状況 |
|---|---|
26.10 / 26.04 LTS / 24.04 LTS / 22.04 LTS | 影響あり・修正作業中(修正済みカーネルは未公開) |
20.04 LTS / 18.04 LTS / 16.04 LTS | 影響あり |
14.04 LTS | 影響なし |
出典はUbuntuのセキュリティ情報(CVE-2026-98432)です。修正済みのカーネルが出ると、このページの状況が「Fixed」に変わります。
Debian・RHEL系・Amazon Linuxなど
Debian、Red Hat Enterprise Linux(AlmaLinux・Rocky Linuxなどの互換OSを含む)、SUSE、Oracle Linux、Amazon Linuxも、それぞれ公式ページで対応状況を公開しています。この記事の作成時点では、これらのページを直接確認できなかったため、状況は書いていません。使っているOSの公式ページで確かめてください。
- Debian Security Tracker(CVE-2026-98432)
- Red Hat CVEページ(CVE-2026-98432)
- Amazon Linux Security Center(CVE-2026-98432)
- SUSE CVEページ(CVE-2026-98432)
- Oracle Linux CVEページ(CVE-2026-98432)
サーバーの種類別:自社がやること
使っているもの | カーネルを更新するのは | 自社がやること |
|---|---|---|
共用のレンタルサーバー(エックスサーバー・さくらのレンタルサーバ・ロリポップ!・ConoHa WING など) | 事業者 | 利用者はカーネルを触れない。事業者のお知らせ・障害情報を確認する |
VPS(さくらのVPS・ConoHa VPS など) | 利用者 | 配布元の修正済みカーネルに更新し、再起動する |
クラウド(Amazon Lightsail・EC2 など) | 利用者 | 同上。アプリ入りのイメージは、提供元の案内も確認する |
制作会社・保守会社に管理を任せているサーバー | 契約による | 「CVE-2026-98432の対応予定」を問い合わせる |
Linuxを内部で使う機器(NAS・ルーターなど) | メーカー | メーカーのお知らせを確認する(この記事の時点で、機器メーカー各社の対応は確認できていない) |
実務でよく見るのは、「サイトを作ったときに制作会社がVPSを用意し、その後は誰も更新していない」というケースです。誰がサーバーを管理しているかが曖昧なら、今回をきっかけに決めておくと、次の緊急更新で慌てずに済みます。
VPS・クラウドでの確認と更新の手順
- 今のカーネルの版を見る。サーバーにログインし、
uname -rを実行します。表示された版を、配布元の情報と照らし合わせます。 - 配布元の修正済みカーネルが出ているかを確かめる。上の配布元のページで、自分のOSの版が「修正済み」になっているかを見ます。
- 出ていれば更新する。UbuntuやDebianなら
sudo apt updateのあとsudo apt upgrade、RHEL系やAmazon Linuxならsudo dnf update kernelが基本です。更新の前にバックアップやスナップショットを取っておきます。 - 再起動し、版が変わったことを確かめる。再起動後にもう一度
uname -rを実行し、新しいカーネルで動いているかを見ます。サイトや業務のシステムが正常に動いているかも確認します。
再起動でサイトが短時間止まるので、アクセスの少ない時間帯を選んでください。複数のサーバーがある場合は、外部に公開しているものから先に進めます。
修正が出るまでにできること(完全な対策ではない)
修正済みのカーネルが出るまでの間に入口を減らす方法として、次のようなものがあります。いずれも攻撃を受ける機会を減らすだけで、完全な対策ではありません。
- 使っていないサービス(古い管理画面、試しに入れたソフトなど)を止める
- SSHなどの管理用の入口は、VPSやクラウドの管理画面のファイアウォール(パケットフィルター・セキュリティグループ)で接続元を自社のIPアドレスに絞る
- 配布元のページを毎日確認し、修正済みカーネルが出たらすぐに更新できるよう、作業の段取りと担当者を決めておく
Webサイト(80番・443番ポート)は誰からの接続も受け付ける必要があるので、この方法では守れません。この記事で確認した公式の情報(CVEの記録・Ubuntu)には、特定の設定変更で防げるという回避策は書かれていません。
サーバーまわりの更新を自社だけで回すのが難しい場合は、保守ごと任せられる形にしておくのも一つの手です。Mihataでは、中小企業のホームページを、サーバーの準備から公開後の保守まで含めて制作しています。記事の途中で恐縮ですが、よろしければご覧ください。
まとめ:まず「自社のLinuxサーバーは誰が更新するか」を確かめる
CVE-2026-98432は、認証なしで外部から攻撃できるLinuxカーネルの脆弱性です。10月31日時点で、CISAのKEVには載っておらず、発見者のAnthropicは検証環境での攻撃の成功を公表しています。共用のレンタルサーバーなら事業者の対応を確認し、VPSやクラウドを自社で管理しているなら、配布元の修正済みカーネルが出しだい更新して再起動してください。
同じ時期にはPHPの重大な脆弱性への対応も続いています。レンタルサーバーやVPSの利用者が確認することはレンタルサーバー別のPHP脆弱性への対応状況に、普段の備えは中小企業のホームページで最低限やるセキュリティ対策にまとめています。
自社のサーバーがどこにあり、誰が更新しているのか分からない、という段階からでもかまいません。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
よくある質問
CVE-2026-98432とは何ですか?
2026年10月15日に公表されたLinuxカーネルの脆弱性です。IPv4のTCP処理で解放済みのメモリを使ってしまう不具合で、認証なしでネットワークから攻撃できるとして、Linux CNAはCVSS v3.1で9.8と評価しています。
共用のレンタルサーバーを使っている場合、自分で何かする必要はありますか?
共用のレンタルサーバーでは、カーネルの更新は事業者が行い、利用者は触れません。事業者のお知らせや障害情報を確認してください。
VPSやクラウドでは何をすればいいですか?
使っているOSの配布元が修正済みのカーネルを出しているかを確かめ、出ていれば更新して再起動します。カーネルは再起動しないと切り替わりません。Ubuntuは10月30日時点で修正作業中で、修正済みのカーネルはまだ出ていません。
uname -rの版が修正版より小さければ未対応ですか?
そうとは限りません。Ubuntuなどの配布元は修正を独自のカーネルに取り込むため、上流の版番号とは一致しません。判断は配布元のセキュリティ情報で行ってください。
実際に悪用されていますか?
米CISAの悪用が確認された脆弱性の一覧(KEV)には、10月30日版の時点で載っていません。発見者のAnthropicは、検証環境で認証なしにroot権限のコマンドを実行できたと公表しています。
修正が出るまでファイアウォールで防げますか?
管理用の入口の接続元を絞ると攻撃を受ける機会は減りますが、完全な対策ではありません。Webサイトのように誰からの接続も受ける入口は残るため、修正済みカーネルへの更新が唯一の対策です。