Mihata
仕事効率化(DX)2026.10.09

マルチタスクで効率低下は本当か|「40%減」の出所と並列可否の判定表

結論:効率は落ちる。ただし「40%減」は論文の測定値ではない

「マルチタスクをすると生産性が40%落ちる」という一文は、日本語のビジネス記事でも繰り返し引かれます。出所をたどると、米国心理学会(APA)の一般向けページ「Multitasking: Switching costs」の末尾にある 「Meyer has said that even brief mental blocks created by shifting between tasks can cost as much as 40 percent of someone's productive time.」=研究者 David Meyer 氏の発言を紹介した一文に行き着きます。

そして、その Meyer 氏が共著した大元の論文(Rubinstein, Meyer & Evans, 2001, JEP: HPP, 27(4), 763–797)の本文を通して読んでも、「40%」という数字も「productive time(生産的な時間)」という言葉も一度も出てきません。論文が実際に報告しているのはミリ秒単位の切り替えコストで、たとえば算数課題を交互に解いた実験2では、同じ課題を続けたときに比べて平均 653ミリ秒(SE 140ms)遅くなっています。

つまり現時点で言えるのは「切り替えのたびに0.5〜1秒前後のコストが実験室では確実に出る」「複雑な作業ほどコストが大きい」「回数が増えるほど積み上がる」までです。あなたの仕事で40%落ちる、という実測ではありません。効率が落ちるという結論自体は変わりませんが、根拠の射程は想像よりずっと狭いのです。

早見表:よく聞く話と、論文まで戻って言えること

よく聞く話

一次ソースまで戻ると

マルチタスクで生産性が40%落ちる

APAの一般向けページに載った Meyer 氏の発言。2001年の論文に「40%」の記載はない

切り替えコストは微々たるもの

実験室の数字でも1回0.5〜1秒。複雑な規則だと高複雑/低複雑の差だけで972ミリ秒

マルチタスクが得意な人がいる

自己評価は当てにならない。277人中193人(約70%)が「自分は平均以上」と答えた

人口の2%は本当にできる

200人の運転シミュレータ実験で2.5%が成績低下なし。ただし特定の課題1組での話

ながら作業が多い人は注意が散りやすい

12研究39効果量のメタ分析では d=.17。小規模研究の偏りを補正すると非有意(d=.07)

同時に2つ処理している

注意を使う作業どうしは並列されず、高速に切り替えているだけ

俗説①「マルチタスクが得意な人がいる」── 自己申告と実力は噛み合わない

この俗説のやっかいな点は、反証が「できる人はいない」ではなく「できると思っている人ほど、測るとできていない」という形で出ていることです。ユタ大学の Sanbonmatsu ら(2013, PLOS ONE)は、学生に自分のマルチタスク能力を評価させたうえで、作業記憶を測る Operation Span 課題を解かせました。

結果は、自己評価が平均より有意に高い方向へ偏っていました。内訳は「平均以下」54人、「ちょうど平均」30人、「平均以上」193人。約7割が自分を平均以上だと答えたことになります。そして自己評価と実測値には有意な相関がありませんでした。さらにメディアマルチタスクの頻度や運転中の通話頻度は、実測の能力と負の相関でした。

日常的にマルチタスクをしている人は、得意だからそうしているのではなく、一つの作業に注意を固定しておけないからそうなっている可能性が高い──というのが論文の示す向きです。「マルチタスクに向いてない」と感じている人のほうが、むしろ自分の限界を正しく見積もれていると言えます。

頻度が高い人のほうがフィルタリングが苦手だった研究

よく引かれるのが Ophir, Nass & Wagner(2009, PNAS)「Cognitive control in media multitaskers」です。メディアマルチタスク指数(MMI)が平均より1標準偏差以上高い群(HMM)と低い群(LMM)を比べたところ、HMM のほうが無関係な刺激や記憶内の無関係な情報からの干渉を受けやすく、課題切り替えテストでも成績が悪い(切り替えコストが167ミリ秒大きい)という結果でした。「慣れている人のほうが上手」という直感と逆向きです。

ただし、この研究を手放しで引くのは公平ではありません。群のサイズは19人対22人などと小さく、その後の追試は結果が揃いませんでした。Wiradhany & Nieuwenstein(2017, Attention, Perception, & Psychophysics)は2つの追試と12研究39効果量のメタ分析を行い、関連は d = .17 と小さく、小規模研究の偏りを補正すると d = .07(p = .81)で有意ではなくなったと報告しています。

したがって「ながら作業の習慣がある人は注意が散りやすい」は断定できません。断定できるのは一段手前、「マルチタスクが得意だという自己申告には裏付けがない」というところまでです。この記事でも、そこから先は踏み込みません。

「2%だけはできる」という話の出所

「マルチタスクができるのは人口の数%だけ」という話の出所はおそらく Watson & Strayer(2010, Psychonomic Bulletin & Review)「Supertaskers」です。200人を運転シミュレータに乗せ、単独条件と、聴覚版 Operation Span を同時に行う二重課題条件で比べたところ、大多数は成績が落ちた一方で 2.5%(200人中5人)は成績低下がまったく見られず、単独条件でも全指標で上位25%に入っていました。

この結果自体は堅いのですが、読み替えには注意が要ります。測られたのは「運転+聴覚の記憶課題」という特定の1組み合わせです。「あなたの仕事のマルチタスクができる2%」を保証するものではありません。同じ論文の導入部も、先行研究を引いて「ほぼ完全な時間共有の証拠はほぼない(virtually no evidence for virtually perfect time-sharing)」と断っています。確率で言えば、自分がその5人のうちの1人だと賭けるのは、まず合いません。

俗説②「生産性が40%落ちる」── 数字が独り立ちした経路

では「40%」はどこで生まれたのか。APAのページを読み進めると、構造がはっきり見えます。前半の「What the research shows」は Rogers & Monsell、Meuter & Allport、Rubinstein ら、Yeung & Monsell といった査読研究の紹介で、ここに割合の数字は一つも出てきません。

割合が出るのは後半の「What the research means」の最後の一文だけで、しかも 「Meyer has said that…(Meyer 氏は…と述べている)」という伝聞の形です。その直前の文は「switch costs may be relatively small, sometimes just a few tenths of a second per switch(1回あたり数十分の1秒程度のこともある)」で、実測は秒未満、40%はそこからの見立てという並びになっています。

実測として引けるのは、2001年の論文が報告した次の数字です。これなら出所も条件も明示できます。

何を測ったか

値

算数課題を交互に解いたときの平均切り替えコスト(実験2)

653ミリ秒(SE 140ms)

同じ測定の再現(実験3)

614ミリ秒(SE 237ms)

高複雑な規則と低複雑な規則での切り替えコストの差(実験1)

972ミリ秒(SE 51ms)

次の課題を示す手がかりがある場合/ない場合の差(実験2)

467ミリ秒(SE 278ms)

ここから実務に持ち出せるのは、割合ではなく向きです。切り替えは必ずコストを生む。作業が複雑なほどコストは大きい。次に何をするかが決まっていれば(手がかりがあれば)コストは小さくなる。この3つはどれも論文が直接測っていて、しかも段取りの設計にそのまま効きます。「40%」を暗記するより役に立ちます。

正しい構図:並列しているのではなく、高速に切り替えている

人間が本当に同時にできるのは、片方が注意をほとんど使わない自動化された動作のときだけです。歩きながら話す、皿を洗いながらラジオを聞く、といった組み合わせがそれにあたります。注意を使う作業どうしは物理的に並列されず、意識の焦点が片方からもう片方へ移っているだけ。その移動のたびに、上の表の数百ミリ秒が発生します。

では何が「ぶつかる」のか。人間工学で広く使われているのが Wickens の4次元多重資源モデル(2008, Human Factors, 50(3))です。論文は次元を次のように説明しています。処理段階(知覚・認知と、反応の選択・実行は別の資源を使う)、感覚モダリティ(聴覚と視覚は別)、処理コード(空間的な活動と言語的な活動は別で、知覚・作業記憶・反応のすべてに現れる)、視覚チャンネル。2つの作業が各次元で別の側にあれば時間共有はうまくいき、同じ側を取り合うと崩れるという読み方になります。

ただし同論文は重要な留保も付けています。資源が違えば完全に並行できる、という意味ではない──聴覚課題と視覚課題を同時にやっても干渉は残る、と明記されています。資源がぶつからない組み合わせは「ましになる」だけで、無料にはなりません。

判定表:並べていい作業・いけない作業

上のモデルを、机の上の作業に当てはめた早見表です。見方は単純で、同じ資源(言語/視空間/手/聴覚)を取り合う組み合わせは並べられない。○=ほぼ無害、△=できるが片方の質が落ちる、×=並べない。

組み合わせ

取り合う資源

判定

歩く+電話で話す(歩行のみ)

歩行は自動化。言語だけを使う

○

封入・ファイリング+ポッドキャスト

手と聴覚・言語で分かれる

△ 内容の記憶は落ちる

資料のレイアウト調整+歌詞のない音楽

視空間と聴覚で分かれる

○

読書・原稿執筆+歌詞のある曲

言語を取り合う

× 歌詞なしに替える

文章を書く+会議の音声を聞く

言語の入力と出力が同じ資源を取り合う

×

コードや設計を書く+チャットの返信

言語+手+同じ作業記憶

×

運転+ハンズフリー通話

手は空くが認知・言語資源が衝突

×

数値の単純入力+進捗の口頭報告

視覚と作業記憶を共有

△ 入力ミスが増える

煮込みの待ち時間+メール処理

待ちなのでそもそも同時ではない

○

会議に出る+別件のメールを下書き

言語の入出力を完全に取り合う

× どちらかを捨てている

この表で判定が×になる組み合わせは、精神論ではなく資源の取り合いなので、気合いでは解けません。片方を別の時間に移すしか手がないというのが、実は一番実用的な結論です。

私たちは、こうした「時間の箱を1つに保つ」ための道具もブラウザで作って公開しております。記事の途中で恐縮ですが、よろしければ合わせてご覧いただけたら嬉しいです。

処方:箱を1つにする、通知を切る、復帰の時間を見込む

切り替えコストが「回数×1回あたり」で積み上がるなら、効く手は2種類しかありません。1回あたりを小さくする(次に何をするかを事前に決めておく)か、回数を減らす(割り込みを物理的に止める)か。論文の「手がかりがあると467ミリ秒ぶん小さくなる」という結果は、前者がただの気分ではないことを示しています。

具体には、まず1つの時間の箱に1つのタスクしか入れないこと。何時に何をやるかを先に決めておくと、箱に入った瞬間の「何から手を付けるか」という切り替えが消えます。やり方はタイムブロッキングで一日を箱に割る手順に、まとまった時間の中身の設計はディープワークを実務で回す進め方にまとめています。箱の経過時間を見るだけならブラウザで開く集中時計をタブに置いておくのが手軽です。

次に、通知を切ること。△判定の作業ならまだしも、×判定の組み合わせは通知1本で強制的に発生します。そして見落とされがちなのが3つめ、割り込みから元の作業に戻るまでの時間を、最初から予定に入れておくことです。実験室の切り替えコストはミリ秒ですが、実際の仕事では「どこまでやったか」を思い出す手間が別にかかります。この復帰のコストの話は集中が途切れる原因と復帰の設計で別に扱っています。

なお「スマホを見てしまうのはドーパミンのせい」といった説明にも、今回と同じ種類のねじれがあります。気になる方はスマホとドーパミンをめぐる誤解を。そもそも一つの作業に入れない状態が続いているなら、集中できないときに順番に試すことのほうが先です。

この記事の限界と、効かない条件

正直に書いておきます。ここで引いた研究のほとんどは、大学生を対象にした実験室の課題です。算数と図形分類を交互に解くときの653ミリ秒を、企画書と経費精算の往復にそのまま掛け算することはできません。「1日に何回切り替えたから何分損した」という計算は、根拠のある形ではできないのが現状です。だからこの記事では、合計の損失額を出していません。

サンプルサイズも小さいものが多く、Ophir ら(2009)の群は19人対22人、Wiradhany ら(2017)の追試も同規模です。メタ分析で効果が消えた経緯が示すように、この分野は「研究を1本引いて断定する」のが最も危ない領域でもあります。

加えて、判定表が○の組み合わせでも、質が落ちないという保証はありません。Wickens 自身が書いているとおり、資源が違っても干渉は残ります。作業の記憶が要る場面(聞いた内容を後で使う会議など)では、△はほぼ×として扱ったほうが安全です。

逆に、効率が最優先でない場面ではこの話は当てはまりません。退屈な単純作業に音を足して着手の抵抗を下げる、散歩しながら考えを整理する──どちらも「効率の最大化」とは別の目的で、資源の取り合いを承知のうえで選ぶ価値があります。並べないほうがいい、は「並べてはいけない」ではありません。何を捨てているかを知って選べていれば十分です。

よくある質問

「マルチタスクで生産性が40%落ちる」は嘘なのでしょうか?

嘘というより、出所の射程が狭い数字です。米国心理学会の一般向けページに「Meyer氏は、課題の切り替えで生じる短い停滞が生産的な時間の最大40%を奪いうると述べている」という伝聞の一文として載っているものです。元になった2001年の論文には「40%」という記載はなく、報告されているのは1回あたり653ミリ秒などのミリ秒単位の切り替えコストです。効率が落ちるのは確かですが、一般の仕事で40%という実測ではありません。

マルチタスクができる人は何割くらいいますか?

200人を運転シミュレータと聴覚版の記憶課題の二重課題で測った2010年の研究では、2.5%(5人)が成績低下を示しませんでした。ただしこれは特定の課題1組での結果で、仕事全般のマルチタスク能力を保証する数字ではありません。同じ研究分野では、ほぼ完全な同時処理の証拠はほとんど見つかっていないとされています。

自分はマルチタスクが得意なほうだと思うのですが、当てになりませんか?

当てになりにくいという結果が出ています。2013年の研究では277人のうち193人(約7割)が自分の能力を平均以上と答えましたが、自己評価と実測値には有意な相関がありませんでした。さらにマルチタスクの頻度は実測の能力と負の相関で、頻繁に並行作業をする人は、得意だからではなく一つの作業に注意を固定しにくいためそうなっている可能性が示されています。

ながら作業はすべてやめたほうがいいですか?

いいえ。片方が注意をほとんど使わない自動化された動作なら併走できます。歩きながら話す、歌詞のない音楽を聞きながらレイアウトを調整する、といった組み合わせです。避けるべきなのは同じ資源を取り合う組み合わせで、文章を書きながら会議を聞く、読書中に歌詞のある曲を流す、運転中にハンズフリーで通話する、などが該当します。

切り替えコストを小さくする一番簡単な方法は何ですか?

次に何をやるかを先に決めておくことです。2001年の実験では、次の課題を示す手がかりがある場合、切り替えコストが467ミリ秒ぶん小さくなっていました。一日を時間の箱に割り、1つの箱に1つのタスクだけを入れておくと、箱に入った瞬間の迷いが消えます。あわせて通知を止め、割り込みから元の作業に戻るまでの時間を最初から予定に見込んでおくのが実務的です。

まずはお気軽にご相談ください

AI・IT・デザインに関するお悩みやご相談、お見積りのご依頼など、
どんなことでもお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ