「AGI」「ASI」「SI」は並べて語られるわりに、指しているものの種類が違います。結論から言うと、AGIとASIはAIの能力段階につけられた名前、SIは2026年9月22日にトランプ米大統領が国連演説で打ち出した「AIという呼び名そのものの変更」です。SIは段階の定義ではありません。
数字で押さえておくと分かりやすくなります。Google DeepMind が2023年に発表した分類論文「Levels of AGI」では、能力は Level 0〜5 の6段階に整理され、ASI はその最上位 Level 5(100%の人間を上回る)に置かれています。同論文は Level 2「Competent AGI」以上をすべて not yet achieved(未達成)とし、ChatGPT などの当時の最先端モデルを Level 1「Emerging AGI」に分類しました(arXiv:2311.02462 / ICML 2024)。つまり研究の枠組みでは、今のAIはまだAGIの入口で、ASIには誰も到達していないという整理になります。
この記事では、4つの言葉を「定義・提唱者・出典・現在のAIは該当するか」の1枚の表にまとめ、実務で使い分けるときの判断基準まで落とします。発表そのものの経緯はAIが「SI」に改称されたトランプ国連演説の要点にまとめています。
AGI・ASI・SIの違いを1枚の表で
まず全体像です。一次ソースで定義が確認できたものだけを載せています。
用語 | 正式名称・日本語 | 定義(一次ソースの言葉) | 提唱者・出典 | 現在のAIは該当するか |
|---|---|---|---|---|
AI(狭いAI) | Artificial Intelligence / Narrow AI・特化型AI | 「明確に範囲が決まった1つまたは複数のタスク」をこなすAI | Google DeepMind「Levels of AGI」の Narrow 列 | 該当する。今日の実用AIの大半はここ |
AGI | Artificial General Intelligence / 汎用人工知能 | 「経済的に価値のある仕事のほとんどで人間を上回る、高度に自律的なシステム」 | OpenAI Charter(2018) | 部分的。DeepMind分類では現行LLMは Level 1「Emerging AGI」、Level 2 以上は未達成 |
ASI | Artificial Superintelligence / 人工超知能 | 「科学的創造性、一般的な知恵、社会的スキルを含め、実質的にあらゆる分野で最高の人間の頭脳を大きく上回る知性」 | Nick Bostrom(論文「Ethical Issues in Advanced Artificial Intelligence」/書籍『Superintelligence』2014) | 該当しない。DeepMind分類の Level 5 は「not yet achieved」 |
SI | Super Intelligence / スーパーインテリジェンス・超知能 | 能力の段階ではなく「AI」という語の言い換え。米政府文書での呼称変更 | トランプ米大統領(2026年9月22日・第81回国連総会演説) | 問いが成立しない。今日のAIを含めてSIと呼ぶ提案だから |
表の最右列が、この3文字略語の混乱の正体です。AGIとASIは「どこまで到達したか」を測る物差しなので「該当する/しない」を判定できます。一方でSIは物差しではなく呼び名の張り替えなので、「今のAIはSIか」という問い自体が成立しません。トランプ氏の演説は、ASIという既存の学術用語の中身を引き継いだものではないという点が、記事を読み分けるときの最初の分岐になります。
AGIとは|OpenAI Charter の定義と「まだ達成されていない」線
AGI(汎用人工知能)の定義として実務でいちばん引用されるのは、OpenAI が公開している Charter の一文です。原文はこうなっています。
OpenAI's mission is to ensure that artificial general intelligence (AGI)—by which we mean highly autonomous systems that outperform humans at most economically valuable work—benefits all of humanity.(OpenAI Charter)
ポイントは「most economically valuable work(経済的に価値のある仕事のほとんど)」という経済ベースの閾値です。ベンチマークの点数ではなく、人間の仕事をどこまで代替できるかで線を引いています。DeepMind の論文はこのOpenAIの基準を、自分たちの5段階のうち Level 4「Exceptional AGI」(熟練成人の99パーセンタイル以上)に相当すると位置づけています。
ここが実務でずれやすいところです。「AGIが来た」と書かれた記事でも、書き手がOpenAIの経済基準を使っているのか、DeepMind の Level 2(熟練成人の50パーセンタイル以上)を使っているのかで、指している水準が2段階違います。現場で多いのは、この前提を書かずに「AGIはもう目前」と言ってしまうケースです。社内資料に書くなら、どの定義を採ったかを1行添えるだけで議論が噛み合います。
ASIとは|Bostrom の定義と DeepMind の Level 5
ASI(Artificial Superintelligence・人工超知能)の出発点は、哲学者 Nick Bostrom が提示した superintelligence の定義です。
A superintelligence is any intellect that … vastly outperforms the best human brains in practically every field, including scientific creativity, general wisdom, and social skills.(Nick Bostrom, Ethical Issues in Advanced Artificial Intelligence)
「平均的な人間」ではなく「最高の人間の頭脳」を、ほぼ全分野で大きく上回るという、かなり高い線です。Bostrom は同じ概念を2014年の書籍『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』で体系化し、これが今日のASI議論の土台になりました。
DeepMind の論文はこの概念を測定可能な形に落とし、Level 5「Superhuman」を「100%の人間を上回る(outperforms 100% of humans)」と定義しています。その上で、タスクの範囲が狭い Level 5 Narrow AI としてタンパク質構造予測の AlphaFold やチェスの Stockfish を挙げ、汎用の Level 5、すなわち ASI については「not yet achieved」と明記しました。
この対比は覚えておく価値があります。「1つのタスクで全人類を超えるAI」はすでに存在するが、「あらゆるタスクで全人類を超えるAI」は存在しない。ASIという言葉が指すのは後者だけです。「ASIはもう実現している」という主張を見たら、まずどちらの話をしているかを確認してください。
AI→AGI→ASI の段階|DeepMind の5レベル
段階の全体像は、DeepMind の「Levels of AGI」の表を見るのがいちばん早いです。同論文は「性能(深さ)」と「汎用性(広さ)」の2軸で分類しており、以下は汎用(General)側を抜き出したものです。
レベル | 性能の閾値 | 汎用AI(General)の該当例 |
|---|---|---|
Level 0: No AI | — | 人間が介在する処理(例: Amazon Mechanical Turk) |
Level 1: Emerging | 非熟練者と同等かやや上 | Emerging AGI=ChatGPT・Bard・Llama 2・Gemini(論文執筆時点) |
Level 2: Competent | 熟練成人の50パーセンタイル以上 | Competent AGI=未達成 |
Level 3: Expert | 熟練成人の90パーセンタイル以上 | Expert AGI=未達成 |
Level 4: Exceptional | 熟練成人の99パーセンタイル以上 | Exceptional AGI=未達成 |
Level 5: Superhuman | 100%の人間を上回る | ASI(人工超知能)=未達成 |
この表で効いてくるのが「Narrow(狭い)/General(汎用)」の区別です。同じ Level 5 でも、Narrow 側には AlphaFold・AlphaZero・Stockfish という実在のシステムが並び、General 側だけが空欄になっています。段階が上がるほど難しいのではなく、「広さ」を伴ったまま段階を上げるのが難しいという構造がひと目で分かります。
なお論文は Level 4 の名称を初出時の「Virtuoso」から「Exceptional」へ改訂しています(v5・2025年9月)。古い記事は「Virtuoso AGI」と書いているので、用語を引くときは版を確認してください。
トランプの「SI」はどこに位置するのか
ここが本題です。2026年9月22日、第81回国連総会の一般討論演説でトランプ米大統領は、AIを今後「Super Intelligence(SI)」と呼ぶと表明しました。ホワイトハウスの公式リリースは、演説の一節をこう引用しています。
The United States totally rejects any attempt to construct a globalist scheme of control for the Artificial Intelligence being spoken of so much now — hereinafter officially called "Super Intelligence."(ホワイトハウス公式リリース)
読み取るべきは hereinafter officially called(以後、公式にこう呼ぶ)という言い回しです。能力の到達点を新しく定義したのではなく、既存の「Artificial Intelligence」という語の置き換えを宣言している。演説では「artificial は fake に聞こえる」という理由も語られました。
したがって、冒頭の段階表にSIを縦に並べるのは誤りです。正しくは次の対応になります。
- ASI=Level 5 という未来の到達点を指す学術用語(Bostrom / DeepMind)
- SI=今日の Level 1 のAIを含むAI全般の新しい呼び名(米大統領の提案)
- 綴りは似ているが、SI は ASI の略でも下位区分でもない
もう1つ、範囲の限定も押さえておきたい点です。対象は演説で言及された「all United States documents(すべての米国政府文書)」であり、民間企業・他国政府・学術用語への強制力はありません。なお、この呼称変更を定める大統領令や法令が公表されたかどうかは、2026年9月23日時点で確認できていません。確認できていないことは「決まった」と書かないのが安全です。
言葉の意味そのものをもう少し詳しく見たい場合は、SI(スーパーインテリジェンス)の意味とAIとの違いを参照してください。
実務で使い分けるときの4つの判断基準
提案書・社内規程・IR資料・ブログのいずれでも、この3語を書く前に次の4問を通すと事故が減ります。実務では、ここを飛ばした文書があとから修正対応になるパターンが多いです。
問1: 段階の話か、呼び名の話か
「AIの進化段階」を説明したいなら AI→AGI→ASI を使う。「米政府の文書表記が変わった」という話なら SI を使う。1つの段落で両方を混ぜないのが最大の予防策です。
問2: 誰の定義で言っているか
AGIはOpenAI Charter(経済的に価値のある仕事のほとんど)、DeepMind Level 2(熟練成人の50パーセンタイル)、ASIはBostrom(最高の人間の頭脳をほぼ全分野で凌駕)と、閾値が提唱者ごとに違います。定義を引くときは提唱者名と年をセットで書く。これだけで文書の信頼度が変わります。
問3: 「現在のAIは該当するか」を確認したか
社内で最も起きやすい誤りが「ASI=今のAIのすごい版」という理解です。一次ソースに当たる限り、汎用のASIは未達成です。現行製品を説明する文脈でASIという語を使わない。使うなら「将来的に想定される段階として」と明示します。
問4: 読み手は誰か
米政府と取引する文書なら相手方の表記(SI)に合わせる判断はあり得ます。一方、日本語の社内文書で「SI」と書くと、システムインテグレーション(SIer)や国際単位系(SI単位)と衝突します。日本語では初出で「SI(Super Intelligence、超知能)」と正式名称を併記するのが無難です。日本語メディアでは「超知能」「超知性」「スーパーインテリジェンス」と訳語も揺れているので、社内で1つに決めてしまうほうが早いです。
実務では、AIの呼び名そのものより「自社の業務のどこにどの水準のAIを入れるか」を決めるほうがはるかに効きます。私たちはAI導入支援やオーダーメイドのAI開発も行っております。記事の途中で恐縮ですが、こうした用語整理から社内展開まで一緒に考えられると思っておりますので、よろしければ合わせてご覧いただけたら嬉しいです。
段階の話をもう一歩進めるなら
「では超知能はいつ来るのか」は、この記事の定義編の次に来る問いです。各社CEOの予測と予測市場の実測は超知能はいつ実現するのかを予測データで見る記事にまとめました。
また、段階論ではなく手元で使えるモデルの現在地を知りたい場合は、GPT-6 Astraの発表内容と料金・性能が参考になります。DeepMind の分類でいう Level 1〜2 のあたりで、実際に何ができるようになったかを確認できます。
まとめ
AGIは「人間並みに幅広くこなす」段階、ASIは「全人類を全分野で上回る」段階、SIは「AIという呼び名の張り替え」です。前2つは物差し、最後の1つはラベル。この区別さえ押さえておけば、今後この3語が混在した記事やプレスリリースを読んでも、何の話をしているかを見失わずに済みます。
AI関連の用語整理や、実際の業務への落とし込みでお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。現状のヒアリングからご提案まで対応しております。
よくある質問
AGIとASIの違いを一言で言うと?
AGIは人間並みの幅広さで仕事をこなす段階、ASIはあらゆる分野で最高の人間を大きく上回る段階です。Google DeepMindの分類ではAGIがLevel 1〜4、ASIが最上位のLevel 5にあたり、Level 2以上はいずれも未達成とされています。
トランプ大統領の言う「SI」はASIと同じ意味ですか?
違います。ASIは未来の到達点を指す学術用語ですが、SIは2026年9月22日の国連演説で示された「AI」という語そのものの言い換えです。今日のAIを含めてSIと呼ぶ提案なので、能力段階の定義ではありません。
今のChatGPTやGeminiはAGIですか?
Google DeepMindの2023年の論文では、当時の最先端モデルはLevel 1「Emerging AGI」に分類されています。Level 2「Competent AGI」(熟練成人の50パーセンタイル以上)以上は、公開システムでは未達成とされています。
「SI」への改称は日本企業の文書にも影響しますか?
演説で示された対象は米国政府の文書であり、民間企業・他国・学術用語への強制力はありません。なお、改称を定める大統領令や法令が出たかどうかは2026年9月23日時点で確認できていません。
日本語で「SI」と書くと紛らわしくないですか?
システムインテグレーション(SIer)や国際単位系(SI単位)と衝突します。日本語文書では初出で「SI(Super Intelligence、超知能)」と正式名称を併記し、社内で訳語を1つに統一しておくのが実務的です。