Mihata
仕事効率化(DX)2026.07.23

AIで就業規則を作成する手順|中小企業のたたき台の作り方

結論から言うと、AIを使えば就業規則の「たたき台(初稿)」は短時間で作成できます。厚生労働省が公開するモデル就業規則を土台に、自社の労働時間・賃金・休日といった実態をAIに渡せば、条文の形をした初稿を数十分で用意できます。ただしAIが作れるのはあくまで“たたき台”であり、最終的な法適合や自社実態との整合は、社会保険労務士(社労士)や所轄の労働基準監督署への確認が欠かせません。常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成・届出が法律で義務づけられているためです(労働基準法第89条)。この記事では、中小企業の人事・総務の方が、AIで安全にたたき台を作り、専門家レビューへつなげる現実的な手順を解説します。

就業規則に限らず社内のルール文書をAIで整えたい方は、生成AIで社内規程のテンプレートを作る進め方もあわせてご覧ください。

AIで就業規則は「作成」できる?できること・できないことの線引き

まず前提として、AIに就業規則の作成を丸投げして、そのまま使える完成品が出てくるわけではありません。生成AIは大量の文書パターンから“それらしい文章”を作るのが得意な一方、自社の就業実態や最新の法令に完全に合致しているかまでは保証できません。役割を正しく分ければ、AIは強力な下書き役になります。

AIが得意なこと(たたき台づくり)

AIは次のような作業で力を発揮します。いずれも「初稿を素早く形にする」領域です。

  • モデル就業規則をベースにした初稿ドラフト:条文構成を踏襲し、自社情報に合わせて文面を整える。
  • 条文の言い換え・平易化:堅い条文を社員向けにわかりやすく書き直す(本則は維持し、解説を添える等)。
  • 抜け漏れの洗い出し:後述の絶対的必要記載事項が入っているか、ドラフトを点検させる。
  • 複数案の比較:休日や手当の規定などを複数パターン出させ、検討材料にする。

AIに任せてはいけないこと(最終判断)

一方で、次の判断はAIに委ねてはいけません。誤った情報のまま運用すると、労使トラブルや不利益変更の無効といったリスクに直結します。

  • 最終的な法適合の判断:条文が現行法や判例に沿っているかの最終確認は専門家の領域です。
  • 自社実態との整合:実際の勤務実態・賃金運用と規程がずれていないか。
  • 不利益変更の可否:既存の規程を労働者に不利な内容へ変える場合の適法性・手続き。

つまり、AIでスピーディーにたたき台を作り、社労士のレビューで仕上げるという分担が、中小企業にとって最も現実的です。

前提知識:就業規則の作成義務と記載事項(労働基準法第89条)

AIで作り始める前に、最低限おさえるべき法的な枠組みを確認します。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。これを怠ると、同法第120条により30万円以下の罰金の対象となり得ます。パート・アルバイトも人数に含めて数える点に注意が必要です。

作成にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴き、その意見書を添えて届け出る義務があります(第90条)。さらに、完成した就業規則は、掲示・備え付け・書面交付などの方法で労働者に周知しなければなりません(第106条)。作って届け出るだけでなく、意見聴取と周知までがワンセットです。

絶対的必要記載事項(必ず書く3項目)

業種・業態を問わず、必ず記載しなければならない事項です。AIのドラフトにこれらが漏れなく入っているかは、必ず点検してください。

区分

記載する主な内容

労働時間関係

始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項

賃金関係

賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給に関する事項

退職関係

退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的必要記載事項(定めるなら書く事項)

制度を設ける場合にのみ記載が必要になる事項です。自社に該当するものだけを盛り込みます。

  • 退職手当(対象者・計算方法・支払方法・支払時期)
  • 臨時の賃金(賞与)・最低賃金額
  • 食費・作業用品などの労働者負担
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償・業務外の傷病扶助
  • 表彰・制裁の種類と程度
  • 事業場のすべての労働者に適用される定め

求人の段階から労働条件を整理しておくと、就業規則との整合も取りやすくなります。募集要項づくりを効率化したい方は、AIで求人票を自動作成する方法も参考になります。

厚労省のモデル就業規則を土台にする(テンプレート×AIの基本)

ゼロからAIに書かせるより、厚生労働省が公開する「モデル就業規則」を土台にAIで自社向けへ調整するほうが、法定事項の抜け漏れを防げて安全です。モデル就業規則は、条文例と解説がセットになった公式テンプレートで、Word版とPDF版が無料でダウンロードできます。最新は令和7年(2025年)12月版です。

使い方の基本は、「モデル就業規則の条文構成を骨格として固定し、自社と異なる部分だけをAIに書き換えさせる」ことです。骨格を公式テンプレートに預けることで、AIが条文を“創作”してしまうリスクを大きく減らせます。テンプレートを起点にする発想は他の社内文書でも有効で、日々の報告業務をテンプレ化・自動化したい場合は、AIで日報を自動化する方法にも同じ考え方が使えます。

AIで就業規則のたたき台を作る5ステップ(中小企業向けの作り方)

中小企業の人事・総務が、実際にAIでたたき台を作る流れを5ステップで示します。ポイントは、AIに渡す前に自社情報を整理しておくことと、最後に必ず専門家のレビューを挟むことです。

  1. モデル就業規則を用意する:厚労省のWord版をダウンロードし、条文の骨格を確認する。
  2. 自社の実態情報を整理する:所定労働時間、始業・終業、休憩、休日、賃金の締日・支払日、手当、休暇制度などを箇条書きにする。
  3. AIに自社向けドラフトを作らせる:モデル就業規則の構成を踏襲させ、自社情報と異なる部分だけを書き換えさせる(プロンプト例は後述)。
  4. 抜け漏れ・矛盾をAIに点検させる:絶対的必要記載事項が入っているか、条文どうしで矛盾がないかをチェックさせる。
  5. 社労士レビュー→意見聴取→届出:社労士に最終確認を依頼し、過半数代表者の意見を聴いたうえで労基署に届け出る。

プロンプト例(そのまま使える雛形)

ステップ3で使えるプロンプトの例です。「根拠が曖昧な条文は作らせない」「要確認箇所を明示させる」のが、ハルシネーション対策の肝になります。

あなたは就業規則づくりを補助するアシスタントです。以下の【自社情報】をもとに、厚生労働省のモデル就業規則をベースにした就業規則のたたき台を作成してください。条件は次のとおりです。モデル就業規則の条文構成(総則/採用・異動/服務規律/労働時間・休憩・休日/休暇/賃金/退職・解雇/安全衛生/表彰・制裁 など)を踏襲すること。自社情報と異なる部分だけを書き換え、それ以外は一般的な条文例を維持すること。法的な根拠が曖昧な条文は創作せず、判断が必要な箇所は「【要確認:社労士】」と明記すること。

【自社情報】業種:/従業員数:/所定労働時間:/始業・終業:/休憩:/休日:/賃金の締日・支払日:/主な手当:/試用期間:/その他の特記事項:

出力されたドラフトは、そのまま使わず必ず人の目で確認します。特に金額・日数・割増率などの数値は、AIが実態と違う値を入れてしまうことがあるため、一つずつ照合してください。

AIで就業規則を作るときの注意点(失敗パターン)

便利な一方で、AI特有のリスクもあります。メリットだけでなく、以下のデメリット・注意点を理解したうえで使ってください。

  • ハルシネーション(もっともらしい誤り):存在しない条番号や、古い・誤った法令を自信ありげに出すことがあります。条文や数値は必ず一次情報(e-Gov法令・厚労省)で裏取りします。
  • 機密情報の入力リスク:賃金テーブルや従業員の個人情報を外部AIに入力すると、情報漏えいや学習利用の懸念があります。入力範囲のルールを社内で決めておきます。
  • コピペ丸写しの危険:モデル就業規則やAI出力をそのまま使うと、自社の実態と規程がずれ、運用時にトラブルの火種になります。
  • 最終判断は必ず専門家へ:完成度が高く見えても、法適合の最終確認は社労士・労働基準監督署に委ねます。

特に情報漏えいの観点では、どのAIをどの業務に、どこまで使ってよいかという社内ルールづくりが欠かせません。この考え方は就業規則以外の業務にも共通するため、AIの使いどころを組織で整理したいときは、外部の支援を受けるのも一つの手です。

私たちMihataも、AI導入支援というかたちで、就業規則づくりのような「AIに任せる範囲」と「人が判断する範囲」の線引きからお手伝いしています。記事の途中で恐縮ですが、社内でのAI活用に迷われている方は、よろしければあわせてご覧いただけたら嬉しいです。

よくある質問

AIだけで就業規則を完成させて、そのまま使えますか?

使えません。AIが作れるのはあくまで初稿(たたき台)です。条文が現行の労働基準法や判例に沿っているか、自社の実態と整合しているかの最終確認は、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に委ねる必要があります。AIでたたき台を素早く作り、専門家のレビューで仕上げる分担が現実的です。

就業規則の作成が義務になるのは何人からですか?

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。パート・アルバイトも人数に含めて数えます。作成・届出を怠ると同法第120条により30万円以下の罰金の対象となり得ます。

AIに就業規則を作らせるとき、必ず入れるべき項目は何ですか?

労働基準法第89条の絶対的必要記載事項として、(1)労働時間関係(始業終業時刻・休憩・休日・休暇・交替制の就業時転換)、(2)賃金関係(決定・計算・支払の方法、締切と支払時期、昇給)、(3)退職関係(解雇の事由を含む退職に関する事項)の3つは必ず記載します。AIのドラフトにこれらが漏れていないか点検してください。

厚労省のモデル就業規則はどこで入手できますか?最新版はいつのものですか?

厚生労働省の公式サイトからWord版・PDF版を無料でダウンロードできます。最新は令和7年(2025年)12月版です。条文例と解説がセットになっているため、これを骨格に固定し、自社と異なる部分だけをAIで書き換えるのが安全な進め方です。

就業規則を作ったあとに必要な手続きは何ですか?

労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴き、その意見書を添えて労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第90条)。さらに、掲示・備え付け・書面交付などの方法で労働者に周知する義務があります(同法第106条)。

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