Mihata
仕事効率化(DX)2026.10.07

カフェの音は作業に効果ある?研究の条件と再現3手段

「カフェの音があったほうが作業がはかどる」は、条件つきで支持されています。よく引かれるのは、カフェの録音を 70dB で流したとき創造性の課題の成績が上がり、85dB では下がったという研究(Mehta ほか 2012・Journal of Consumer Research)です。ただしこの話は「音量」と「作業の種類」を外すと意味が変わります。読解や暗記のような言葉を扱う作業では、カフェの音は小さくではありますが一貫して成績を落とす側に働きます。

分かれ目は音の大きさだけではありません。そのざわめきの会話の内容が聞き取れてしまうかです。読書中の聴覚妨害を 65 本の研究でまとめたメタ分析では、聞き取れる会話は聞き取れない会話より妨害的である確率が 99% と推定されています(Vasilev ほか 2018)。つまり「カフェの音がいい」のではなく、内容が頭に入ってこないざわめきがいい——というのが、確認できた範囲での結論です。

この記事では、カフェの音の効果がどこまで言えるのかを一次ソースの範囲で整理し、そのうえで自宅や職場で同じ状態を作る手順と音量の目安までを書きます。なお「どのカフェが勉強向きか・席はどこを取るか・滞在は何時間までか」といった店側の話はカフェ勉強で集中力を上げるコツと席・時間帯の選び方にまとめているので、そちらをご覧ください。

結論:効果を決めるのは「音量」「会話の聞き取りやすさ」「作業の種類」の3つ

研究を横に並べると、カフェの音が効くかどうかは次の3つで説明がつきます。どれか1つでも外れると効果は消えるか、逆に足を引っ張ります。

決め手

効果が出る側

効果が消える・逆に落ちる側

音量

中程度(Mehta ほかの実験では 70dB)

静かすぎる(50dB)/大きすぎる(85dB)

会話の聞き取りやすさ

内容が分からない(遠い・外国語・混ざっている)

隣の話の内容が追えてしまう

作業の種類

発想・アイデア出し・手を動かす作業

読解・暗記・文章を書く・数字を追う

作業の種類で向きが変わるのが、いちばん見落とされがちな点です。同じ「カフェの音」でも、アイデアを広げたいときには後押しになり、資料を読み込みたいときには小さな足かせになります。

「適度な雑音が創造性を上げる」はどこまで言えるのか

70dBのカフェ録音で創造性の課題が伸びた(2012年・5実験)

出どころは Mehta・Zhu・Cheema(2012)の 5 つの実験です。使ったのは実験室のホワイトノイズではなく、カフェなどで録った複数人の話し声が混ざった日常的なざわめき。これを 50dB(低)・70dB(中)・85dB(高)で流し比べ、70dB のときに創造性を測る課題の成績と、新しいタイプの製品を選ぶ確率が上がりました。

著者らの説明は「ほどよい雑音が情報処理をわずかに難しくし、そのぶん抽象的・大局的な考え方に寄るので、発想が広がる」というものです。静かな部屋より良いのは「頭が少し働きにくい」からだという、やや意外な筋立てになっています。

この 70dB という数字の体感は、研究を出したイリノイ大学の発表では「高速道路を走る乗用車のそば」、85dB は「幹線道路の交通騒音」と例示されています。かなり大きい音だと考えてよく、静かな喫茶店より、混んだチェーン店のほうが近い水準です。

効果が出なかった条件も同じだけある

ここを書かない紹介記事が多いので、確認できた範囲の「出なかった側」も並べます。

  • 85dB では創造性が下がった(同じ Mehta ほかの実験内)。「雑音は多いほどいい」ではなく、上に行きすぎると普通に邪魔になります。
  • 子どもでは再現しませんでした。5〜11 歳の 44 人に平均 64.3dBA の教室のざわめきを聞かせた研究では、ざわめきが創造性を上げる条件は 1 つもなく、注意の切り替えが苦手な低学年ほどアイデアの数も独創性の評価も下がりました。著者らも「Mehta ほか(2012)の結果は子どもには当てはまらない可能性がある」と書いています(Massonnié ほか 2019・Frontiers in Psychology)。
  • ホワイトノイズでは逆向きの結果も出ています。オフィスで 45dB と 65dB のホワイトノイズを比べた研究では、45dB(小さい側)のほうが注意の持続・正確さ・速さ・創造性で良く、ストレスも低いという結果でした。65dB はワーキングメモリだけ改善し、ストレスは上がっています(Awada ほか 2022・Scientific Reports)。

この 3 点目は重要です。「70dB がいい」は、人の話し声が混ざったざわめきで、創造性の課題で測ったときの話であって、ホワイトノイズや別の作業にそのまま持ち越せる数字ではありません。音の種類ごとの向き不向きはブラウンノイズの集中効果を研究で分かる範囲で整理した記事にも書いています。

なお、Mehta ほか(2012)が大人を対象にそのまま追試されたという報告は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。有名な研究ではありますが、「何度も再現されている定説」として扱うのは避けたほうが安全です。

分かれ目は「会話の内容が聞き取れるかどうか」

聞き取れる会話は言葉の処理を奪う

読書中に音がどれだけ邪魔になるかを 65 本の研究でまとめたベイズ・メタ分析(Vasilev・Kirkby・Angele 2018)の数字が、いちばん手がかりになります。

  • 背景音は全体として読解の正確さを下げる(Hedges’s g = −0.21)。小さい効果ですが、方向は一貫しています。
  • 内訳は会話がいちばん悪く(g = −0.26)、次に音楽(−0.19)、雑音(−0.17)。
  • 聞き取れる会話は、聞き取れない会話より妨害的である確率は 99%(差の平均 g = −0.12)。
  • 意外なのは、歌詞のある音楽と、聞き取れる会話の妨害の強さに差が無かったこと(差がある確率は 54%=ほぼ五分)。「歌入りのBGMなら人の話より安全」とは言えません。

この論文で引かれている実験には、英語話者にとって英語の話し声は邪魔だが、ロシア語の話し声はそこまで邪魔にならなかったという例もあります。音の大きさではなく意味が頭に入るかどうかが効いている、という読み筋です。

「聞き取りやすさ」の目安は数値になっている

オフィスの音響では、話し声の聞き取りやすさを STI(Speech Transmission Index・0〜1)という指標で測ります。ここが設計の実務とつながっている部分です。

実験室研究 14 本・34 件の検証をまとめた改訂モデルでは、STI が約 0.21 を超えたあたりから成績が落ち始め、0.44 で落ち込みが最大になるとされています。とくに影響が強く一貫していたのは言葉の短期記憶の課題で、こちらは STI 0.12〜0.51 の範囲で悪化しました(Haapakangas・Hongisto・Liebl 2020・Indoor Air)。

ただし著者らは正直に限界も書いています。言葉のワーキングメモリ課題では証拠が「ある程度」、複雑な言語課題では「限定的」で、課題ごとの効果についてはさらに研究が必要だとしています。「STI 0.2 を下回れば誰のどんな作業も守られる」という読み方はできません。

実務上の意味はシンプルです。目標は音を消すことではなく、会話の内容が分からない状態にすること。この考え方(サウンドマスキング)で職場の音を扱う具体策は、オフィスの騒音対策を無料でできる5段階にまとめた記事で段階ごとに整理しています。

読む・覚える・書く作業には効かない(むしろ少し落ちる)

ここまでをつなぐと、作業ごとの扱いは次のようになります。

作業

カフェの音との相性

根拠にしている研究

アイデア出し・企画・ラフ案づくり

後押しになりうる(中程度の音量で)

Mehta ほか 2012

資料を読む・読解

小さく落ちる。会話が聞き取れると特に

Vasilev ほか 2018

暗記・用語の覚え込み

落ちやすい(言葉の短期記憶がもっとも影響を受ける)

Haapakangas ほか 2020

文章を書く・校正

落ちる側だが効果量はごく小さい

Vasilev ほか 2018

単純な入力・整理作業

妨げになりにくい

(各研究が直接扱っていない。経験的な扱い)

実務での使い分けとしては、午前に読み込み・暗記を静かな状態でやり、午後の発想系の時間にざわめきを入れるのがいちばん無理がありません。1 日ずっと同じ音を流し続ける運用は、どちらかの作業を必ず損ないます。

私たちは集中時計という無料のブラウザ時計を作っていて、環境音・BGM とタイマーを同じ画面で扱えるようにしています。記事の途中で恐縮ですが、音を流しながら時間を区切るところまで 1 画面で済むので、よろしければ合わせてご覧いただけたらうれしいです。

自宅・職場でカフェの音を再現する3手段

手段1:カフェのざわめきの環境音をそのまま流す

いちばん素直な方法です。研究で使われたのが「複数人の話し声が混ざった日常のざわめき」なので、再現すべきもの自体がそれです。

選ぶときの基準は 1 つだけで、日本語の会話がはっきり聞き取れる音源は避けること。内容が追えてしまうと、Vasilev ほかが示した「聞き取れる会話がいちばん悪い」側に自分から入ってしまいます。その点では外国語のカフェ録音が都合がよい——意味が入ってこないので、ざわめきとしてだけ働きます。

私たちの集中時計に入っている「カフェのざわめき」も、スウェーデンのカフェで録られた音源です(出典は Pixabay)。選んだ当初は音の質だけで決めていたのですが、結果として日本語話者には内容が分からないという、この記事の文脈ではちょうど良い条件になっていました。

BGM パネルでプリセット音源を選んでいる集中時計の画面。
集中時計のBGMパネル。環境音と音楽を切り替えて選べる

手段2:ざわめきが足りないときはホワイトノイズ・ブラウンノイズで埋める

職場の問題が「隣の席の会話が聞こえる」である場合は、カフェ音を足すより会話を紛れさせるほうが筋が通ります。ホワイトノイズやブラウンノイズは、音としての情報が無いので意味の処理を奪いません。

ただし Awada ほか(2022)の結果のとおり、ホワイトノイズは大きくすればいいものではありません。45dB のほうが 65dB より注意も創造性も良く、ストレスも低かったので、「隣の会話が言葉として聞き取れなくなる最小の音量」で止めるのが正解に近いです。音の種類で向き不向きが違うことは、Lo-Fi作業用BGMの効果を科学的根拠から見た記事でも整理しています。

手段3:イヤホンか据え置きスピーカーか

ここは正直に書きます。イヤホンとスピーカーのどちらが集中に有利かを直接比べた一次研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。なので、研究の内容から言える範囲だけを書きます。

  • 周りが静かな自宅なら、スピーカーのほうが扱いやすい。部屋全体に薄くかかるので音量を上げすぎにくく、耳への負担も分散します。
  • 周りに会話がある職場なら、イヤホンのほうが理にかなっている。外の会話を紛れさせる(マスキングする)には、耳元で鳴らすほうが小さい音量で足ります。ノイズキャンセリングがあればなおよく、環境音は「残った会話を消すための最小限」でかまいません。
  • どちらでも、音量は作業の種類で変える。読解・暗記の時間は下げるか切る。発想の時間だけ上げる。

音量の目安——数字をどう置くか

研究が直接くれる数字は 2 つだけで、しかも向きが違います。人の話し声が混ざったざわめきで創造性を測ったときの 70dB(Mehta ほか 2012)と、ホワイトノイズで注意と創造性を測ったときの 45dB(Awada ほか 2022)です。この 2 つを 1 つの推奨値に丸めることはできません。

そこで実務的には、数字より判定条件を使うほうが確実です。

  1. 自分の作業に必要な音(通知・話しかけ)が聞こえるか——聞こえなくなっていたら大きすぎます。
  2. 周りの会話が「話している」と分かるが「何を話しているか」は分からないか——ここが狙う状態です。
  3. 読解や暗記に切り替えたとき、音を下げたくなるか——なったら、その作業では素直に下げます。

安全側の上限として、米国 NIOSH(CDC)の推奨ばく露限界は 8 時間平均で 85dBA、そこから 3dBA 上がるごとに許容時間を半分にするとしています。Mehta ほかの実験で創造性が落ちた 85dB は、ちょうどこの線です。長時間の作業用BGMとして 85dB 付近を常用するのは、集中の観点でも聴覚の観点でも勧められません。

手元の音量を実測したい場合、スマートフォンの騒音計アプリで大まかな当たりは付きます。ただし端末のマイクは校正されていないので、絶対値として信じるのではなく「今日はいつもより大きい/小さい」の比較に使うのが無難です。

効果が出ないときのチェック5つ

  1. 日本語の会話が聞き取れていないか。カフェ音でも、日本語の雑談がはっきり入る音源は逆効果側です。
  2. 音量が上がりすぎていないか。作業に慣れると音量を上げがちです。85dB 近辺では創造性すら落ちます。
  3. いま読解・暗記をしていないか。作業が切り替わったのに音をそのままにしているのが、いちばん多いずれです。
  4. 歌詞のある曲に切り替わっていないか。歌詞入りの音楽は、聞き取れる会話と妨害の強さに差が無いという結果が出ています。
  5. そもそも静かな環境で困っていないか。効果が出た比較対象は 50dB の「静かな部屋」です。すでに集中できているなら、音を足す理由はありません。

在宅で集中できない原因は音だけではないので、音を変えても変わらないときは在宅ワークで集中できない人向けに環境を4軸で設計した記事のほうを先に見るほうが早い場合もあります。

まとめ

  • カフェの音が作業に効くのは条件つき。中程度の音量・内容が聞き取れないざわめき・発想系の作業——この 3 つが揃ったときだけです。
  • 根拠の中心は Mehta ほか(2012)の 5 実験で、70dB > 50dB、85dB では低下。ただし大人でそのまま追試された報告は見つからず、子どもでは再現していません。
  • 読解・暗記・執筆では、背景音は小さくですが一貫して不利。とくに聞き取れる会話がいちばん悪く、歌詞のある音楽も同程度です。
  • 再現のコツは「会話の内容が分からない状態」を作ること。外国語のカフェ録音やホワイトノイズが向くのはこのためです。
  • 音量は 1 つの数字に丸められません。「必要な音は聞こえる・周りの会話の内容は分からない」を判定条件にし、85dBA を上限として扱います。

音を決めたら、あとは作業ごとに切り替える運用にするだけです。集中時計では、環境音・BGM とポモドーロや通常のタイマーを同じ画面に置いてあるので、「発想の 25 分はカフェ音・読み込みの 50 分は無音」のような切り替えを、タブを行き来せずに回せます。無料で、インストールも要りません。

よくある質問

カフェの音は本当に作業に効果があるのですか?

条件つきで支持されています。Mehta ほか(2012)の5つの実験では、カフェなどで録った複数人のざわめきを70dBで流したとき創造性を測る課題の成績が上がり、50dB(静か)より良い結果でした。ただし85dBでは下がっており、読解や暗記のような言葉を扱う作業では背景音は小さくですが一貫して成績を落とす側に働きます。

どのくらいの音量で流せばいいですか?

研究が直接くれる数字は、ざわめき×創造性で70dB、ホワイトノイズ×注意・創造性で45dBと向きが違うため、1つの推奨値には丸められません。実務では「自分に必要な通知や呼びかけは聞こえる」「周りの会話は話していると分かるが内容は分からない」の2条件を目安にしてください。上限は米国NIOSHの推奨ばく露限界である8時間平均85dBAを超えない範囲で考えます。

なぜ日本語の会話が聞こえる音源は避けたほうがいいのですか?

意味が頭に入る会話は、読んだり覚えたりするときの言葉の処理を奪うためです。65本の研究をまとめたメタ分析では、聞き取れる会話が聞き取れない会話より妨害的である確率が99%と推定されています。英語話者にとって英語の話し声は邪魔だがロシア語の話し声はそこまで邪魔にならなかった、という実験も報告されています。

歌詞のある作業用BGMなら、人の話し声より安全ですか?

安全とは言えません。同じメタ分析では、歌詞のある音楽と聞き取れる会話で妨害の強さに差が無く、差があると言える確率は54%=ほぼ五分でした。歌詞入りの音楽は主観的には気にならなくても、読解への影響は人の会話と同程度と考えておくのが無難です。

どの作業ならカフェの音を流していいですか?

アイデア出しや企画のような発想系の作業、単純な入力・整理の作業が向きます。逆に資料の読み込み・暗記・文章を書く作業では落ちる側なので、音を下げるか切るのが素直です。1日ずっと同じ音を流し続けると、どちらかの作業を必ず損ないます。

子どもの勉強中にカフェの音を流しても効果はありますか?

確認できた範囲では勧められません。5〜11歳の44人に平均64.3dBAの教室のざわめきを聞かせた研究では、ざわめきが創造性を上げる条件は1つもなく、注意の切り替えが苦手な低学年ほどアイデアの数も独創性の評価も下がりました。著者ら自身も、大人で得られた結果が子どもには当てはまらない可能性があると書いています。

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