Gemini 4 Argon の料金は、Standard で入力 $2.00 / 出力 $10.00(いずれも1Mトークンあたり・USD)です。ただしこれは導入価格で、有効期限は 2026年11月30日まで。12月1日からは全段きれいに2倍になり、Standard は入力 $4.00 / 出力 $20.00 になります(Gemini API pricing)。さらに Free Tier は全項目が "Not available" で、無料枠では一切使えません。
つまり単価表を眺めるだけなら話は単純です。問題は「自社の使い方だと、月いくらになるのか」と「12月1日にいくら増えるのか」のほうです。この記事では、4段すべての単価表を示したうえで、月間トークン数から請求額を出す試算式、暗黙キャッシュのヒット率を変数にした感度表、ケース別の11月/12月の請求額の並べ、そして金額以外に発生する移行の作業コストまでを順に整理します。
1. 4段すべての料金表(Standard / Batch / Flex / Priority)
Gemini 4 Argon の Paid Tier には4つの段があります。Batch と Flex は Standard のちょうど半額、Priority は Standard の1.8倍です。いずれも 11月30日までの価格と12月1日からの価格が、きれいに1:2 の関係になっています。
段 | 入力(〜11/30) | 入力(12/1〜) | 出力(〜11/30) | 出力(12/1〜) | キャッシュ(〜11/30) | キャッシュ(12/1〜) |
|---|---|---|---|---|---|---|
Standard | $2.00 | $4.00 | $10.00 | $20.00 | $0.10 | $0.20 |
Batch | $1.00 | $2.00 | $5.00 | $10.00 | $0.05 | $0.10 |
Flex | $1.00 | $2.00 | $5.00 | $10.00 | $0.05 | $0.10 |
Priority | $3.60 | $7.20 | $18.00 | $36.00 | $0.18 | $0.36 |
単位はすべて 1Mトークンあたりの USD です。読む前に押さえておきたい前提が3つあります。
- 出力価格には思考トークンが含まれます(公式表記は "Output price (including thinking tokens)")。つまり thinking_level を上げると、増えたぶんは出力側の単価で課金されます。
- キャッシュは暗黙キャッシュのみ("Implicit caching only (explicit caching is not supported)")。明示キャッシュは使えません。
- Paid Tier の "Used to improve our products" は No です。
提供経路や使える条件そのものは別記事にまとめています。先に「自社で呼べる状態かどうか」を確かめたい方はGemini 4 Argon の提供開始日と使うための条件を先にお読みください。
2. 試算式:月間トークン数から請求額を出す
請求額は、ほぼ次の式で出ます。難しいのは式ではなく、キャッシュヒット率という自分では決められない変数が1つ混ざっていることです。
月額 ≒ (入力トークン × (1 − キャッシュヒット率) × 入力単価) + (入力トークン × キャッシュヒット率 × キャッシュ単価) + (出力トークン × 出力単価)
ここに Grounding with Google Search を使っているなら、その従量ぶんを足します(後述)。
キャッシュ単価が「95%引き」と一致することを確かめる
公式の移行チェックリストには、暗黙キャッシュは4,096トークン以上のプロンプトで既定で有効になり、キャッシュヒット時に入力トークンを95%割引すると書かれています(What's new in Gemini 4 Argon)。これは料金表の数字と一致します。
- 11月30日まで:入力 $2.00 × (1 − 0.95) = $0.10 = キャッシュ単価と一致
- 12月1日から:入力 $4.00 × (1 − 0.95) = $0.20 = キャッシュ単価と一致
つまり キャッシュ単価は入力単価のちょうど 1/20 です。言い換えると、ヒットした入力トークンは実質20分の1の値段になります。ここが効くかどうかで請求額は大きく動きます。
キャッシュヒット率で入力側の費用はどう変わるか
入力トークンを月100Mトークンと置いて、ヒット率だけを 0% / 50% / 90% に動かすと、入力側の費用は次のようになります(Standard・出力ぶんは含まない)。
キャッシュヒット率 | 内訳(〜11/30) | 入力側 合計(〜11/30) | 入力側 合計(12/1〜) | ヒット率0%比 |
|---|---|---|---|---|
0% | 100M × $2.00 | $200.00 | $400.00 | — |
50% | 50M × $2.00 + 50M × $0.10 | $105.00 | $210.00 | 約47.5%減 |
90% | 10M × $2.00 + 90M × $0.10 | $29.00 | $58.00 | 約85.5%減 |
ヒット率が 0% から 90% へ上がると、入力側は $200.00 → $29.00。同じトークン数でも7分の1近くまで下がります。逆に言えば、ヒット率が読めないかぎり入力側の費用は7倍の幅で揺れるということです。見積りを作るときは、必ず保守側(低いヒット率)でも払える金額になっているかを確認してください。
3. ケース別の目安:11月の請求額と12月以降を並べる
以下は、よくある3つの使い方にこちらで仮の月間トークン数を置いて計算した目安です。トークン数はあくまで例なので、自社の実測値に置き換えてお使いください。いずれも Standard 段で算出しています。
ケース | 置いた前提(月間) | 〜11/30 の請求額 | 12/1〜 の請求額 | 増える額 |
|---|---|---|---|---|
① 社内ナレッジ検索 | 入力 200M/ヒット率 70%/出力 10M | $234.00 | $468.00 | +$234.00 |
② コード生成エージェント | 入力 50M/ヒット率 50%/出力 40M | $452.50 | $905.00 | +$452.50 |
③ 長文レポート生成 | 入力 5M/ヒット率 0%/出力 100M | $1,010.00 | $2,020.00 | +$1,010.00 |
内訳は次のとおりです。
- ① 社内ナレッジ検索:非ヒット 60M × $2.00 = $120.00 + ヒット 140M × $0.10 = $14.00 + 出力 10M × $10.00 = $100.00 → $234.00。社内規程やマニュアルを毎回プロンプトへ入れる使い方は、同じ前文が繰り返されるため暗黙キャッシュが最も効きやすい形です。
- ② コード生成エージェント:非ヒット 25M × $2.00 = $50.00 + ヒット 25M × $0.10 = $2.50 + 出力 40M × $10.00 = $400.00 → $452.50。費用の88%が出力側で、しかもそこに思考トークンが乗ります。
- ③ 長文レポート生成:入力 5M × $2.00 = $10.00 + 出力 100M × $10.00 = $1,000.00 → $1,010.00。費用の99%が出力側。Argon は1回の応答が64Kを超えて最大1Mトークンまで伸びる long decode に対応しているため、この型は構造的に出力が膨らみます。
3ケースとも増える額が11月の請求額と同額になっているのは偶然ではありません。入力・出力・キャッシュのすべてが一律2倍になるので、どんな使い方でも12月の請求額はちょうど2倍、増える額は11月の請求額そのままです。これは試算を単純にしてくれる一方で、逃げ場が無いことも意味します。
thinking_level を上げると、増えたぶんは出力単価で課金される
thinking_level は low / medium(既定)/ high の3段です。出力価格が思考トークンを含むため、段を上げると出力側のトークン数そのものが増えて効きます。仮にケース②で high にして出力トークンが 40M から 60M(1.5倍)になったとすると、$452.50 → $652.50。入力をどれだけ節約してもここは打ち消せません。
公式も「3段すべてで評価を回し、品質基準を満たす最も低い段を選ぶ」ことを助言しています。費用の観点でも、そこが最初に手を入れる場所になります。
4. 移行コストは金額だけではない(ここが本題)
Argon への切り替えで本当に重いのは、単価の差ではなくアプリ側の作り直しです。公式の移行チェックリストから、費用ではなく工数として現れるものを挙げます。
何が変わるか | 影響を受けるアプリ | 必要な作業 |
|---|---|---|
明示キャッシュが非対応(cachedContents / caches.create) | 長い前文をキャッシュして使い回す設計を作り込んでいるもの | キャッシュ生成・参照の呼び出しを削除し、暗黙キャッシュ前提に設計し直す |
temperature / top_p / top_k が無視される | 温度を下げて出力のばらつきを抑えていたもの | これらのパラメータを外し、ばらつきの制御を thinking_level とプロンプト設計に寄せる |
HTTPタイムアウトは最低15分が必要 | 同期的に待ってその場で返す設計(Webのリクエスト内で待つ型) | タイムアウト延長に加え、非同期・ジョブ化への作り替えが要ることが多い |
64K超の出力は background 実行 | 長文レポート・長い生成物を返すもの | background: true + max_output_tokens を指定し、hop ごとに増える全 model_output ステップを結合する処理を追加 |
max_output_tokens の見直し | 32K未満を明示設定しているもの | 32,768 以上へ引き上げ(Argon は上限のうち思考に使う割合が従来より大きい) |
暗黙キャッシュは「安くなる」と同時に「読めなくなる」
ここは正直に書いておきたいところです。明示キャッシュなら、どの前文をいつキャッシュするかを自分で決められました。暗黙キャッシュはそれができません。4,096トークン以上のプロンプトで既定で有効にはなりますが、ヒットするかどうかはこちらの制御外です。
その結果、費用の予測可能性は下がります。先ほどの感度表のとおり、入力側はヒット率次第で7倍の幅があります。月次の予算を固定したい使い方では、これは小さくない不利です。プロンプトの前半を共通化して揺らさない(固定の前文を先頭に置き、可変部分を後ろに回す)といった工夫でヒットしやすくはできますが、保証ではありません。見積りは低いヒット率側で作るのが安全です。
Grounding with Google Search の従量ぶんを忘れない
検索による裏取りを組み込んでいる場合、トークン課金とは別に Grounding with Google Search の従量料金が乗ります。Gemini 3 以降で共有の月5,000リクエストが無料、以後は1,000リクエストあたり $14です(Google Maps も同条件)。たとえば月20,000リクエストなら、(20,000 − 5,000) ÷ 1,000 × $14 = $210.00 が加算されます。トークン費用と同じ桁になりうるので、試算式に必ず足してください。
移行の見積りは、結局のところ「どのアプリがどの変更に当たるか」の棚卸しです。自社のどの処理が作り直しになるのかを一緒に洗い出すところから始めたい場合は、独自AI開発のご相談としてお受けしています。まずは現状の呼び出し方を見せていただく形でも問題ございません。
5. 安く済ませる手は4つある
ケース② の前提(入力 50M/ヒット率 50%/出力 40M)で、段とモデルを変えるとどうなるかを並べます。
選択肢 | 〜11/30 | 12/1〜 | 向く用途・注意点 |
|---|---|---|---|
Argon Standard | $452.50 | $905.00 | 基準。対話的に待たせる用途 |
Argon Batch | $226.25 | $452.50 | 半額。即時性が不要なまとめ処理向き |
Argon Flex | $226.25 | $452.50 | 半額。遅延に寛容な処理向き |
Argon Priority | $814.50 | $1,629.00 | Standard の1.8倍。レイテンシを買う段 |
Gemini 3.8 Flash | $170.63 | $170.63 | 品質要件を満たすなら最も安い |
読み取れることを4点にまとめます。
- Batch / Flex は Standard の半額です。即時に返す必要がない処理を Standard のまま回しているなら、ここが一番確実に効きます。12月の倍額ぶんを、段を1つ下げるだけで相殺できる計算になります。
- thinking_level を low へ下げる。出力トークンが減るので直接効きます。ただし公式が low は「難しいタスクで品質が落ちることがある」と明記しているので、下げるなら必ず評価とセットにしてください。
- 3.8 Flash で足りるなら、そちらが安い。単価では出力 $10.00 対 $3.75 で約2.7倍差、このケースの総額では $452.50 対 $170.63 =約2.65倍です。12月の1か月だけは Argon が倍額・Flash が据え置きなので、差は約5.3倍まで開きます(2027年1月1日に Flash も倍になり、約2.7倍に戻ります)。どちらを使うかの判断軸はGemini 4 Argon と 3.8 Flash の使い分けに整理しました。
- Priority は本当に必要なときだけ。1.8倍の単価差を払って買えるのはレイテンシで、品質ではありません。
なお Argon は Free Tier では一切使えません。無料枠で試しながら進める選択肢が無いので、評価そのものに実費がかかります。無料枠がある 3.8 Flash とは、この点でも前提が違います(Gemini 3.8 Flash の料金と立ち位置)。そもそも呼び出せず詰まっている場合は、課金の話の前にGemini 4 Argon が使えないときの切り分け手順をご確認ください。
6. 評価と見積りは11月中に終えるのが合理的
ここまでの事実を並べると、スケジュールの結論は1つに絞られます。
時期 | Argon Standard の単価 | この時期にやるべきこと |
|---|---|---|
〜2026年11月30日 | 入力 $2.00 / 出力 $10.00 | 評価・PoC・トークン実測・見積り。3段の thinking_level 比較もここで回す |
2026年12月1日〜 | 入力 $4.00 / 出力 $20.00 | 本番投入。段の選択とキャッシュ設計はこの時点で決まっていること |
理由は3つあります。
- 評価にかかる実費が半額です。無料枠が使えないぶん、評価そのものが課金対象になります。同じ検証を12月に回すと費用はそのまま2倍です。
- thinking_level の3段比較は、トークン数が最も膨らむ工程です。high を含めて回すなら、単価が安いうちに済ませるほうが素直です。
- 12月1日は「料金が変わる日」なので、予算の合意が必要な日です。11月中に実測値を持っていれば、「12月からはこの額の2倍になります」と1行で説明できます。試算の根拠が無い状態で12月を迎えると、増額の説明ができません。
逆に、急いで本番へ出す必要はありません。11月中にやるべきは本番投入ではなく実測と見積りです。明示キャッシュの作り直しやタイムアウト設計の変更は、それなりの工数になります。
7. まとめ:3つの数字だけ押さえる
- 単価:Standard は入力 $2.00 / 出力 $10.00。11月30日まで。12月1日から全段2倍($4.00 / $20.00)。無料枠では使えない。
- 試算式:入力×(1−ヒット率)×入力単価 + 入力×ヒット率×キャッシュ単価 + 出力×出力単価(+ Grounding の従量ぶん)。キャッシュヒット時の入力は実質1/20、ただしヒット率は制御できない。
- 12月の増額:どんな使い方でも、増える額は11月の請求額と同額。先に実測しておけば、増額の説明は1行で済みます。
自社の月間トークン数がそもそも分からない、という段階からのご相談も多くいただきます。計測の仕込みから見積りの形にするところまで、AI導入支援のなかでお手伝いできます。
よくある質問
Gemini 4 Argon の料金はいくらですか?
Standard 段で入力が1Mトークンあたり $2.00、出力が $10.00(思考トークンを含む)です。これは導入価格で2026年11月30日までの適用となり、12月1日からは入力 $4.00 / 出力 $20.00 へ倍額になります。Batch と Flex は Standard の半額、Priority は1.8倍です。
無料で試せますか?
試せません。公式の料金表では Gemini 4 Argon の Free Tier が全項目「Not available」で、無料枠では一切使えません。無料枠がある Gemini 3.8 Flash とはこの点が異なります。
暗黙キャッシュでどのくらい安くなりますか?
キャッシュヒット時に入力トークンが95%割引になり、実質20分の1の単価になります。入力を月100Mトークンと置くと、ヒット率0%で $200.00、50%で $105.00、90%で $29.00 です(11月30日までの Standard・入力側のみ)。ただしヒット率は自分では制御できないため、見積りは低いヒット率側で作るほうが安全です。
既存アプリから移行するときに作り直しが必要な箇所はどこですか?
明示キャッシュ(cachedContents / caches.create)が非対応なので、キャッシュを作る・参照する呼び出しの削除が必要です。また temperature / top_p / top_k が無視されるため出力のばらつき制御を thinking_level とプロンプト設計へ寄せ、HTTPタイムアウトを最低15分へ延ばし、64K超の出力は background 実行で hop ごとの model_output ステップを結合する処理を足します。
評価はいつ始めるべきですか?
11月中です。導入価格が11月30日までなので、同じ検証を12月に回すと費用はそのまま2倍になります。無料枠が使えず評価自体が課金対象である点、thinking_level の3段比較がトークンを最も使う工程である点からも、11月中に実測と見積りを終えておくのが合理的です。