画面の中で文章を書くAIと、現実の空間で体を動かすAIは、これまで別の話でした。2026年7月末に発表されたGemini Robotics 2は、その境目を一段押し下げたモデル群です。腕だけでなく、脚も胴も指も、ひとつの学習済みポリシーで動かします。
結論として、Gemini Robotics 2は2026年7月30日にGoogle DeepMindが発表した「フィジカルAI」向けのモデル群で、用途別に3種類が同時に提供されます。最大の変化は、これまで上半身の操作に限られていた制御が全身制御(whole-body control)へ広がったことです。歩く・しゃがむ・かがむといった動作と、物をつかんで扱う操作を、同じ枠組みで扱えるようになりました。いずれも早期アクセスでの提供です。
この記事では、3つのモデルの違い、実際に何ができると示されたのか、そして日本の企業がいつ・どう関わることになるのかを整理します。
3つのモデルの違い
Gemini Robotics 2は単一のモデルではなく、役割の違う3つが同時に出ています。名前が似ているため混同されがちですが、担当する層がはっきり分かれています。
モデル | 種別 | 担当する役割 |
|---|---|---|
Gemini Robotics 2 | VLA(視覚・言語・行動モデル) | 見て、指示を理解し、実際の動作を出力する本体 |
Gemini Robotics ER 2 | VLM(身体性を伴う推論モデル) | 空間を理解し、多段階の手順を計画する頭脳側 |
Gemini Robotics On-Device 2 | 端末内実行版のVLA | クラウドに出ずロボット本体で動かす軽量版 |
この3層構成は、業務システムでいう「実行エンジン」「計画エンジン」「エッジ版」の分担に近い考え方です。とくにOn-Device版が用意されている点は実務的で、通信が不安定な現場や、映像を外部に送れない環境での利用を想定した構えといえます。クラウドに出さずに手元で動かすという発想は、言語モデル側でも同時に進んでいます(ローカルLLMは業務で使えるのか|社内に置く意味がある条件)。
実際に何ができると示されたのか
デモンストレーションはApptronikのヒューマノイドロボット「Apollo 2」上で行われました。公開された内容として報じられているのは、次のような作業です。
- ごみを片づける
- じょうろを持ち上げる
- カセットテープをラジカセに挿入する
- 電球を取り付ける(ねじ込む)
- ごみ袋の口を結ぶ
並べてみると地味に見えますが、ロボット工学の観点では難易度が高い作業が混ざっています。電球のねじ込みは力加減と回転の連続制御を要し、ごみ袋を結ぶ動作は柔らかく形が変わる物体を両手で扱う必要があります。従来のロボットが最も苦手としてきた領域です。
加えて、複数のロボットが互いの能力に応じて作業を分担する協調動作も示されています。1台に全工程をやらせるのではなく、得意な機体に割り振るという発想で、これは工場や倉庫の現実に近い形です。
全身制御が何を変えるのか
これまでのロボット向けAIは、多くが台に固定された上半身の操作を前提にしていました。「テーブルの上の物を扱う」範囲です。全身制御では、脚・胴・腕・指がひとつのポリシーの下で協調するため、移動しながら作業する、姿勢を変えて届かせる、といった動きが同じ仕組みで扱えます。
これは単に動作の種類が増えたという話ではありません。人間の作業環境は、そもそも「歩いて近づき、しゃがんで手を伸ばす」ことを前提に設計されています。ロボットを人の環境に合わせるのか、環境をロボットに合わせて作り替えるのか——全身制御は前者の可能性を上げる技術です。設備改修のコストが下がる方向に効きます。
安全面についても、新たな対策が追加されたと説明されています。全身が動くということは、それだけ人と接触する範囲が広がるということでもあり、能力の拡大と安全設計は表裏の関係にあります。
いつ使えるのか、日本企業はどう関わるか
3モデルはいずれも早期アクセスでの提供とされています。誰でも購入して明日から現場に入れられる段階ではありません。2026年8月18日時点で、日本国内での一般提供の時期や価格は公表されていません。
そのうえで、日本の企業にとって当面の関わり方は主に2つです。
- 制度側の準備。2026年3月31日に公表された総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」では、本編にAIエージェントとフィジカルAIの定義が追加されました。ロボットを含むAIが現実世界で動くことを、国内のガイドラインが正面から扱い始めた段階です(政府の生成AIガイドライン改定2026|AIエージェント対応の要点)。
- 業務の棚卸し。ロボットが来る前に、どの作業が「人でなければならない」のかを言語化しておくことに意味があります。職種ごとの影響の見立てはAIの雇用への影響を職種別に検証で公的統計をもとに整理しています。
先走って設備投資を計画する段階ではない、というのが率直なところです。一方で、判断を先送りしすぎると、制度・人員・工程の準備がまとめて後手に回ります。
言語モデルの延長として見ると分かりやすい
Gemini Robotics 2は名前のとおりGeminiの系譜にあり、「見て、理解して、次の一手を決める」という構造自体はチャット型のAIと共通しています。違うのは、出力先が文章ではなく関節の動きだという点です。
言い換えると、これまでソフトウェア上のツール呼び出しに向いていた出力が、モーター制御に置き換わったということです。AIエージェントが業務システムを操作する話と、ロボットが物を掴む話は、同じ設計思想の両端にあります。エージェント側の全体像はAIエージェント完全ガイドに、Gemini自体の位置づけはChatGPT・Claude・Geminiの比較にまとめています。
中小企業が今のうちにできる備え
ヒューマノイドの導入を検討する会社は当面限られます。それでも、今のうちに手をつけておくと後で効くことがあります。
- 作業の分解を先にやっておく。「梱包」ではなく「箱を組む・詰める・封をする・ラベルを貼る」まで分けておくと、自動化の対象を機械的に選べます。
- 現場の記録をデータとして残す。作業手順書や動画が残っている会社ほど、後から自動化に載せやすくなります。
- 安全と責任の所在を先に決める。人と同じ空間で機械が動く前提の運用ルールは、導入直前に作ると必ず間に合いません。
私たちはAI導入支援として、こうした業務の棚卸しや自動化の優先順位づけをご一緒しています。記事の途中で恐縮ですが、何から手をつけるか迷っている段階のご相談先として、よろしければ合わせてご覧いただけたら嬉しいです。
Gemini Robotics 2は、まだ現場に届く手前の技術です。ただ、全身制御と複数ロボットの協調という2つの変化は、これまで「ロボットには無理」とされてきた作業の範囲を明確に押し広げました。数年単位で見れば、判断が必要になる会社は確実に増えます。
よくある質問
Gemini Robotics 2はいつ使えるようになりますか。
3モデルとも早期アクセスでの提供とされています。2026年8月18日時点で、日本国内での一般提供の時期や価格は公表されていません。
3つのモデルは何が違うのですか。
Gemini Robotics 2は見て理解し動作を出力するVLA、Gemini Robotics ER 2は空間理解と多段階の計画を担うVLM、Gemini Robotics On-Device 2はロボット本体で動かす端末内実行版です。
これまでのロボット向けAIと何が変わったのですか。
制御範囲が上半身の操作から全身制御へ広がった点です。脚・胴・腕・指をひとつの学習済みポリシーで動かすため、移動しながら作業する、姿勢を変えて届かせるといった動きを同じ仕組みで扱えます。
どんな作業ができると示されましたか。
Apptronikのヒューマノイド「Apollo 2」上で、ごみの片づけ、じょうろを持ち上げる、カセットの挿入、電球の取り付け、ごみ袋を結ぶといった作業が示されました。複数ロボットが能力に応じて作業を分担する協調動作も公開されています。
フィジカルAIは日本のルールで扱われていますか。
2026年3月31日に公表された総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」で、本編にAIエージェントとフィジカルAIの定義が追加されました。