Mihata
AI活用2026.08.16

生成AIはどの業務から入れるか|優先順位の決め方と選定シート【2026】

「生成AIを入れよう」と決まったあと、最初に詰まるのは技術ではありません。どの業務から手をつけるかです。会議で候補を出し合うと10個も20個も挙がり、どれも「効果がありそう」に見えて、結局いちばん声の大きい部署の案から着手することになります。そして半年後、その1件だけが動いていて他は止まっている、という状態になります。

総務省の「令和7年版 情報通信白書」によれば、生成AIを活用する方針を定めた企業は2024年度で49.7%(2023年度は42.7%)まで増えました。一方で、活用しない・進まない理由として最も多く挙がっているのは「具体的な活用方法が分からない」です。予算でもセキュリティでもなく、選び方が分からないことが最大の障害になっています。

結論:優先順位は「効果の大きさ」ではなく「頻度 × 判断の少なさ」で決まる

候補を並べたとき、多くの会社は「削減できる時間が大きい業務」から選びます。これが最初の一手としては最も失敗しやすい選び方です。削減インパクトが大きい業務は、たいてい例外処理が多く、判断が要り、関係部署が多いからです。

最初に着手すべきなのは、次の2条件を同時に満たす業務です。

条件1:頻度が高い。週1回未満の業務は、AI化しても効果を体感できず、使い方も忘れます。毎日または週数回発生する業務に限ります。

条件2:判断の余地が小さい。「正解が1つに決まる」または「叩き台があれば人が5分で直せる」業務です。逆に、正解が人によって違う業務は、AIの出力を評価できないため定着しません。

この2条件で絞ると、候補の多くが落ちます。落ちること自体が目的です。1件目は成果の大きさではなく、確実に成功して社内に「使える」という実感を残すことが目的だからです。

候補を並べる:業務の洗い出しは「部署」ではなく「作業」で行う

洗い出しの単位を間違えると、この先の判断がすべてぼやけます。「経理」「総務」といった部署単位ではなく、「〜を作る」「〜を確認する」「〜を転記する」という作業の粒度まで下ろしてください。

実務で候補に挙がりやすい作業を、型で示します。

文章を作る系:メールの返信案、議事録、社内通知、報告書の下書き、求人票、商品説明文。総務省の白書でも、企業の生成AI利用は文書作成・データ加工の領域が中心と報告されています。ここは最も外れにくい領域です。

探す・答える系:社内規程の確認、過去案件の検索、製品仕様の問い合わせ対応、マニュアルの該当箇所の特定。

整える系:形式の異なる資料の統一、表記ゆれの修正、データの分類・タグ付け、要約。

チェックする系:誤字脱字、数値の整合、必要書類の欠落確認。

洗い出しの段階では、実現可能性を一切考えないでください。「AIにできるか」を混ぜると、その場のメンバーの知識量で候補が削られます。できるかどうかの判定は次の工程です。

選定シートの作り方:5項目でスコア化する

洗い出した作業を、次の5項目で採点します。スプレッドシート1枚で足ります。

①頻度(1〜5点):毎日=5、週数回=4、週1回=3、月数回=2、それ以下=1。

②1回あたりの所要時間(1〜5点):60分以上=5、30分=4、15分=3、5分=2、それ未満=1。

③判断の少なさ(1〜5点):正解が1つに決まる=5、叩き台を人が直せば済む=4、担当者の裁量が大きい=2、正解が人により違う=1。

④データの入手しやすさ(1〜5点):必要な情報が1か所にある=5、複数の場所にあるが電子化済み=3、紙や個人のPCに散っている=1。

⑤失敗したときの損害の小ささ(1〜5点):社内で完結し間違えても直せる=5、社内だが影響が広い=3、顧客に直接届く=1。

合計点で並べ替え、③④⑤のいずれかが2点以下の作業は、合計点が高くても1件目から外します。この除外ルールがないと、点数の高い「請求書処理の完全自動化」のような大物が上位に来て、そこから着手して失敗する定番の流れに戻ります。

1件目に選ぶべきは、①②が中程度でも③④⑤がすべて4点以上の作業です。地味な作業が選ばれたら、その判定は正しく機能しています。

よくある選定ミス4つ

ミス1:全社共通の業務から始める。「全社員が使う経費精算」のような業務は、関係者が多く合意形成に時間がかかります。1件目は1部署10人以内で完結する作業に限ってください。

ミス2:いちばん困っている業務から始める。いちばん困っている業務は、たいてい原因がAIの不在ではありません。ルールが決まっていない、データが揃っていない、担当が1人しかいない、といった別の問題が絡んでいます。AIを入れても解けず、「AIは使えない」という結論だけが残ります。

ミス3:ツールから決める。「まずChatGPTを全社に配る」から入ると、配ったあとに「で、何に使えば?」が全員に発生します。前述のとおり、白書でも最大の障害は活用方法が分からないことです。ツールの契約より先に、対象作業を1つ決めてください。

この4つに共通するのは、人手が足りないという焦りが選定を雑にしている点です。IPAの「DX動向2025」では、日本企業の85.1%がDXを推進する人材の不足を挙げており、米国・ドイツと比べて著しく高いと報告されています。人が足りないほど「大きい業務から一気に」と考えたくなりますが、人が足りない組織ほど1件目を小さくする必要があります。失敗を検証する余力がないためです。

ミス4:効果測定の方法を決めずに始める。着手前に「何がどうなれば成功か」を1行で書けない施策は、成功しても成功と認識されません。「議事録の作成時間が1件40分→10分になる」のように、比較できる形で書いておきます。

対象業務を選ぶ段階では、担当者から「この作業がAIに置き換わったら自分の仕事はどうなるのか」という不安が出ることもあります。AIの雇用への影響を職種別に検証した記事で公的統計に基づく実態を共有しておくと、現場の合意形成がしやすくなります。

1件目を決めたあとの進め方

選定が終わったら、いきなり全面展開せず、次の順で進めます。

第1週:現状の実測。その作業に今どれだけ時間がかかっているかを、実際に測ります。感覚値で「30分くらい」と言われていた作業が実測12分だった、ということは珍しくありません。ここを飛ばすと、効果があったのかどうかが最後まで分かりません。

第2〜3週:1人で試す。選んだ作業を、担当者1人がAIを使ってやってみます。この段階で必要なのはツールの導入ではなく、「どう指示すれば使える出力が出るか」の型を1つ作ることです。

第4週:型を共有し、2〜3人に広げる。ここで初めて他の人が使えるかを確認します。1人目だけが使える状態は定着とは呼びません。

第2か月以降:次の作業へ。1件目が回り始めたら、選定シートの次点に進みます。同時に3件走らせないことが、この段階での最大のコツです。

選定を「毎回同じ型」にすると、社内で再現できる

1件目がうまくいくと、次に問題になるのは「その進め方が担当者の頭の中にしかない」ことです。2件目以降を別の部署が進めるとき、また最初から選び方でもめます。

Mihataが提供しているAI導入支援では、この選定と定着を毎回同じ型で回せるように、全12回のプログラムとして設計しています。縦軸に組織の成熟度(何から始めるか/どう広げるか/どう定着させるか/どう内製に移すか)、横軸に対象業務を置き、毎回同じ手順で「洗い出し→採点→1件着手→実測→共有」を繰り返す構成です。会社ごとの違いは、差し替え可能なモジュールで吸収します。カリキュラムの中身は生成AI研修のカリキュラム内容|全12回の設計を公開で公開しています。

順番を間違えなければ、生成AIの導入は特別な技術力を必要としません。難しいのは選ぶことと、選んだ1件を最後まで見届けることだけです。どの作業から手をつけるべきか迷っている段階でしたら、貴社の業務を一緒に並べるところからご相談いただけます。

選んだ1件が社内で使われ続けるかどうかは、選定と同じくらい運用設計に左右されます。定着しない典型パターンは生成AIが社内で定着しない理由7つ|使われる状態にする中小企業の運用術で整理しました。効果を数字にする方法は生成AIの費用対効果を計算する方法|中小企業のROI試算を、着手前に整えておく社内ルールは生成AIの社内ルールの作り方|中小企業向けテンプレートと盛り込む項目をご覧ください。人の作業を代行させる段階に進むときはAIエージェントを中小企業が導入する始め方|失敗しない5ステップと向く業務が参考になります。

よくある質問

生成AIはどの業務から導入するのが正解ですか?

毎日または週数回発生し、かつ判断の余地が小さい作業からです。議事録の下書き、社内通知の作成、社内規程の検索、表記ゆれの修正などが典型例です。削減できる時間が最も大きい業務から始めるのは失敗しやすい選び方で、そうした業務は例外処理が多く関係部署も多いため、1件目には向きません。

業務の洗い出しはどの単位で行えばよいですか?

部署単位ではなく作業単位です。『経理』ではなく『請求書の内容を会計ソフトに転記する』『月末に取引先へ入金確認のメールを送る』という粒度まで下ろしてください。洗い出しの段階では実現できるかどうかを一切考えないことが重要で、可否を混ぜるとその場のメンバーの知識量で候補が削られます。

優先順位はどう採点すればよいですか?

頻度・1回あたりの所要時間・判断の少なさ・データの入手しやすさ・失敗時の損害の小ささの5項目を各5点で採点し、合計で並べます。ただし『判断の少なさ』『データの入手しやすさ』『損害の小ささ』のいずれかが2点以下の作業は、合計点が高くても1件目からは外してください。

まず全社にChatGPTを配るのは有効ですか?

1件目としては勧めません。総務省の令和7年版情報通信白書でも、生成AIが進まない理由の最上位は具体的な活用方法が分からないことです。ツールを配っても、この障害はそのまま残ります。対象作業を1つ決め、それが回ってから配布範囲を広げる順序のほうが定着します。

何件を同時に進めてよいですか?

1件目は必ず1件だけにしてください。3件同時に走らせると、どれも中途半端に止まり、原因も切り分けられません。1件が回り始めてから次点に進み、以降も同時進行は2件までに抑えるのが現実的です。

効果はどう測ればよいですか?

着手前にその作業の所要時間を実測してください。感覚値ではなく実測です。『30分くらい』と言われていた作業が実測12分だったという例は珍しくありません。着手前の実測値がないと、導入後に効果があったのかどうかを最後まで判定できません。

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