Mihata
仕事効率化(DX)2026.09.12

請求書の電子帳簿保存法対応をスプレッドシートで回す6手順

請求書をスプレッドシートとGoogleドライブで回している中小企業から、「電子帳簿保存法に対応するには専用システムを買うしかないのか」という相談をよく受けます。結論から言うと、買わなくても要件は満たせます。必要なのは、索引簿とファイル名ルール、そして事務処理規程という紙1枚です。

結論:索引簿+ファイル名ルール+事務処理規程で要件は満たせる

データで受け取った(または送った)請求書について、電子帳簿保存法が求めているのは大きく2つだけです。①検索できること(取引年月日・取引金額・取引先の3項目)と、②勝手に書き換えられない仕組みがあること。この2つを、専用ソフトなしで満たす方法は国税庁の一問一答に明記されています。

検索については、表計算ソフトで取引年月日・取引金額・取引先を入力した一覧表(索引簿)を作れば要件を満たすと国税庁が回答しています。ファイル名を「20210131_㈱霞商店_110000」のように統一した順序で付ける方法も同じく認められています(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和8年7月・問19/問50)。

改ざん防止については、タイムスタンプや訂正削除履歴の残るシステムを使わなくても、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」を定めて備え付け、その通りに運用するという4つ目の選択肢があります。規程のサンプルは国税庁が法人用・個人事業者用の両方を公開しています。

つまり、スプレッドシート+ドライブという今の運用を捨てる必要はありません。捨てずに「どこに・どんな名前で・誰がいつ入れるか」を決めるだけで足ります。制度そのものの区分(電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引)や基本要件から確認したい方は、電子帳簿保存法2026年の要件をひと通り解説した記事を先に読むと全体像がつかめます。本記事はその先の「運用をどう組むか」に絞ります。

請求書の電子帳簿保存法対応をスプレッドシートで回す6手順

実務では、次の順番で決めていくと迷いません。逆順(先にツールを選ぶ)で進めると、必ず「誰が入れるのか」が宙に浮きます。

手順

決めること

成果物

1

対象を切り分ける

電子取引に当たる請求書の一覧

2

保存場所を決める

ドライブのフォルダ構成

3

索引簿を作る

スプレッドシート1枚(3列+管理列)

4

ファイル名ルールを決める

命名規則1行のメモ

5

改ざん防止措置を選ぶ

事務処理規程(またはシステム設定)

6

担当と締切を決める

月次の運用ルール

手順1 対象を切り分ける(データで授受した請求書だけが対象)

まず、電子帳簿保存法の「電子取引」に当たるものだけを拾います。郵送で届いた紙の請求書は対象外です(スキャンして捨てたい場合は別制度のスキャナ保存の話になります)。対象になるのは次のようなものです。

  • メールにPDFが添付されて届いた請求書
  • 取引先の管理画面やクラウドサービスからダウンロードした請求書
  • ECサイトやインターネットバンキングの取引明細
  • 自社がPDFで送った請求書の写し(受け取る側だけの話ではありません)

この切り分けを紙に書き出すことが、そのまま手順5の事務処理規程の「電子取引の範囲」の条文になります。国税庁のサンプル規程も、第4条でEDI取引・メール・クラウドサービス・ECサイト・インターネットバンキングを具体的に列挙する形になっています。

手順2 保存場所を決める(Googleドライブのフォルダ設計)

保存場所は1か所に集約しなくても構いません。国税庁は、取引先ごとにEDIやプラットフォームが異なる場合などに保存場所が複数のシステムに分かれることは差し支えないと回答しています。ただし条件があり、「A取引先はaシステム、B取引先はbシステムに入っている」と分かるように管理しておく必要があります。逆に、合理的な理由なく規則性なく保存先を散逸させ、速やかに出力できない状態は認められないと明記されています(問32)。

実務でうまく回っているのは、次のどちらかです。迷ったらAを推奨します。索引簿を作る前提なら、フォルダは年度で切るだけで十分だからです。

  • A:年度 > 受領/発行 の2階層だけ(例:2026年度 > 受領)。検索は索引簿に任せる
  • B:取引先 > 年度 の2階層。索引簿を作らず、ファイル名に日付と金額だけを入れて検索要件を満たす方式(問50で認められている取引先フォルダ方式)

どちらの場合も、共有ドライブ(Googleの場合はマイドライブではなく共有ドライブ)に置くことを勧めます。個人のマイドライブに置くと、退職時にファイルごと消える事故が起きます。

手順3 索引簿をスプレッドシートで作る(列設計が9割)

索引簿は「請求書ファイルを探すための目次」です。法令が検索条件として求めているのは取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の3項目なので、必須列はこの3つだけです。ただし実務で使い物にするには、管理用の列を数本足します。

列名

内容

必須

連番

1, 2, 3…。ファイル名の先頭と一致させる

実務上必須

取引年月日

請求書の日付。西暦か和暦のどちらかに統一

法令要件

取引金額

税込の請求総額。数値型で入れる(文字列にしない)

法令要件

取引先

正式名称で統一。表記ゆれを作らない

法令要件

区分

受領/発行

推奨

ファイルリンク

ドライブのURL。=HYPERLINK()で1クリックで開ける状態に

推奨

登録者・登録日

誰がいつ入れたか

推奨

備考

再発行・訂正の経緯など

任意

列設計で事故が起きるのは、ほぼ日付と金額の型です。日付を「令和8年1月31日」と文字で入れたり、金額を「110,000円」と文字で入れたりすると、範囲指定での絞り込みができません。法令は「日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること」も求めているので、必ず日付型・数値型で入れます。国税庁も、和暦と西暦の混在は抽出機能の妨げになるためどちらかに統一する必要があると明記しています(問50)。

もう一点、索引簿を使う方式ではファイル名に連番を付け、索引簿の連番と対応させる必要があります。ファイルは「001.pdf」「002.pdf」でよく、内容は索引簿側で管理する——これが国税庁の示す索引簿の作成例です(問19)。

手順4 ファイル名ルールを1本に決める

索引簿を作らない場合は、ファイル名そのもので検索要件を満たします。国税庁が示している形はこれです。

2021年(令和3年)1月31日付の株式会社霞商店からの110,000円の請求書データの場合 ⇒「20210131_㈱霞商店_110000」

ポイントは「統一した順序で入力しておく」ことです。日付・取引先・金額の順番が行ったり来たりすると検索できません。取引先ごとにフォルダを分けている場合は、フォルダ名が取引先の役割を果たすので、ファイル名は日付と金額だけでも要件を満たします。

索引簿方式とファイル名方式のどちらを選ぶかは、月の件数で決めるのが現実的です。月30件を超えるなら索引簿方式。ファイル名を人が手で正確に付け続けるのは、件数が増えるほど破綻します。件数が多く、しかも取引先ごとにフォーマットがばらばらなら、AI OCRで請求書を読み取るツールの比較も合わせて検討する価値があります。日付・金額・取引先の3項目は、まさにOCRが最も安定して抜ける項目だからです。

手順5 改ざん防止措置を選ぶ(中小企業は事務処理規程が現実解)

改ざん防止は、次の4つのいずれか1つで足ります。しかも、データの受け取り方に応じて複数の措置を使い分けても差し支えないと国税庁は回答しています(問32)。

措置

内容

コスト

中小企業での現実性

①送信側タイムスタンプ

タイムスタンプが付された後のデータを受け取る

相手方次第

自社では選べない

②自社でタイムスタンプ

受領後速やかに自社でタイムスタンプを付す

有料サービス必須

件数が少ないと割高

③訂正削除が残るシステム

訂正削除の履歴が残る、または訂正削除できないシステムを使う

クラウド会計等の月額

会計ソフトを入れているなら有力

④事務処理規程

訂正削除の防止に関する規程を定め、備え付け、運用する

0円

最も採りやすい

スプレッドシート+ドライブで回すなら、選ぶのは④です。国税庁が法人用・個人事業者用の規程サンプルを公開しているので、ゼロから書く必要はありません。埋めるのは、管理責任者の氏名、電子取引の範囲、保存年数、訂正削除時の申請フローの4か所程度です。

ただし、作って終わりにしないことが肝心です。国税庁は「規程に沿った運用を行うためには、社内において、電子取引情報を扱う従業員やそのマネジメントを行う管理者を対象に規程の内容を周知することが重要」と書いています。実務で見かける失敗は、規程だけ作って全員が知らない状態です。規程を作ったら、経理以外の「請求書を受け取る可能性がある人」全員に1回共有してください。

なお、ドライブ側の権限設計も合わせて見直しておくと安全です。保存フォルダを全員「編集者」にしていると、規程で訂正削除を禁止していても物理的には誰でも消せます。閲覧者+経理だけ編集者、が基本形です。

私たちはスプレッドシート運用をそのまま業務アプリにする支援も行っております。記事の途中で恐縮ですが、「索引簿は作ったが入力が続かない」「フォルダに入れ忘れる」といった詰まりは、シートの形を変えずに入力画面だけ用意すると解けることが多いので、よろしければ合わせてご覧いただけたら嬉しいです。

手順6 誰が・いつ・どこに入れるかを決める

ここが一番抜けます。要件は満たしているのに、実物が入っていない——という状態を防ぐために、次の4つを1行ずつ決めて社内に貼り出します。

  • 誰が:受け取った本人が入れるのか、経理に転送して経理が入れるのか。件数が少ないうちは「経理に転送、経理が入れる」で一本化したほうが揃います
  • いつまでに:受領から3営業日以内、など。月末にまとめてやると必ず漏れます
  • どこに:手順2で決めたフォルダのURLを、社内チャットにピン留めしておく
  • 入れたら何をするか:索引簿に1行足す。ファイル名を規則どおりに直す

月末には、索引簿の行数とフォルダ内のファイル数が一致しているかを1分で確認します。ずれていたら、どちらかが漏れています。この突合を毎月やるかどうかで、1年後の状態がまったく変わります。

発行側(自社が出した請求書の写し)は受領側と扱いが違う

見落とされがちなのが、自社がPDFやクラウド経由で送った請求書の写しです。これも電子取引に当たるので、受け取った請求書と同じ要件で保存する必要があります。紙で出力して控えを綴じているだけ、では足りません。

一方で、発行側には受領側にない選択肢があります。国税庁は、請求書データの内容が変更されるおそれがなく、合理的な方法により編集された状態で保存されたデータベースであれば、そのデータベースでの保存も認められると回答しています(問45)。相手方に送ったPDFそのものでなくてもよい、という意味です。

実務に落とすと、こうなります。請求書をスプレッドシートから発行しているなら、発行の元データ(請求データの一覧シート)が請求書の記載事項をすべて含み、後から書き換わらない形で保存されていれば、それを保存とみなせる余地があります。ただし「変更されるおそれがなく」の担保が必要なので、発行済みの行はロックする、発行月ごとにシートを複製して固定する、といった運用がセットになります。請求書をエクセルやスプレッドシートで自動化する方法を検討している段階なら、発行番号の採番と発行済みロックを最初から組み込んでおくと後がラクです。

判断に迷うなら、発行側も受領側と同じく「PDFを索引簿で管理する」に揃えるのが安全です。運用が1本で済むぶん、教える手間も点検の手間も半分になります。

検索要件が不要になる場合(売上5,000万円以下)

索引簿もファイル名ルールも要らなくなる例外があります。次のいずれかに当たり、かつ税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合です。

  • 基準期間の売上高が5,000万円以下(個人事業者は前々年の1月1日〜12月31日、法人は前々事業年度の売上高で判定)
  • データを出力した書面を、取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしている

5,000万円の判定にはいくつか注意点があります。国税庁は、税抜金額で判断すること、規則が「売上高」と規定しているため営業外収益や特別利益は含まないこと、一方で消費税法上の非課税売上額は含まれることを明記しています。免税事業者や簡易課税を適用していても、非課税売上を足すと5,000万円を超える場合は該当しません。また、基準期間がない新規開業者・新設法人の初年度と翌年度は検索要件が不要になります(問51)。

ただし、この緩和に乗るかどうかは慎重に判断してください。売上が伸びて基準を超えた年に、いきなり索引簿を整え始めるのは大変です。5,000万円前後で推移している会社は、最初から索引簿を作っておくほうが結果的に安上がりだというのが実務での感触です。索引簿は請求書を探す道具としても普通に役立つので、要件対応のためだけの作業にはなりません。

なお、令和6年1月1日以後の電子取引については、要件に従った保存ができない「相当の理由」があると税務署長が認める場合の猶予措置があります。ただし令和5年末までの宥恕措置と違い、出力書面のみの保存では足りず、電子データそのものも保存して提示できるようにしておく必要があると国税庁は明記しています(問89)。「紙に印刷して綴じてあるから大丈夫」は、もう成り立ちません。

税務調査で出せる状態かを確かめる5つの点検

要件を満たしたつもりでも、実際に出せるかは別問題です。年に1回、次の5つを実際に手を動かして確認してください。所要15分程度です。

  1. 取引先名で絞り込めるか:索引簿で特定の取引先をフィルタして、その行のリンクからファイルが開けるか
  2. 金額の範囲で絞り込めるか:10万円以上20万円未満、のような範囲指定が効くか(効かないなら金額が文字列になっています)
  3. 日付と取引先の組み合わせで絞り込めるか:法令は2項目以上の組み合わせ条件を求めています。段階的に絞り込む方式でも要件を満たすと国税庁は回答しています(問49)
  4. 一括で渡せるか:調査ではデータのダウンロードを求められます。フォルダごとZIPで渡せる状態か
  5. 規程が出てくるか:事務処理規程の現物が、印刷でもPDFでもすぐ出せるか

保存期間も合わせて確認しておきます。法人は原則7年(欠損金が生じた事業年度は10年)、インボイス発行事業者が交付した適格請求書の写しや提供した電磁的記録は7年保存が必要です。ドライブのゴミ箱が30日で自動削除される設定のまま運用している会社が少なくないので、誤削除の復旧可否も併せて見ておくと安心です。

スプレッドシート運用の限界と、アプリ化に切り替える分岐点

ここまで「スプレッドシートで足りる」と書いてきましたが、限界もはっきりしています。正直に書きます。

  • 入力もれが検知できない:索引簿は「入れ忘れた1件」を教えてくれません。突合は人の作業のまま残ります
  • 同時編集で行がずれる:複数人が同時に行を挿入すると、連番とファイルの対応が崩れます。複数人で使うスプレッドシートが壊れる原因はここでもそのまま当てはまります
  • 権限が全か無かに近い:「自分が登録した行だけ直せる」といった制御ができません。規程で縛るしかない
  • 表記ゆれが止められない:取引先名が「株式会社◯◯」「(株)◯◯」「◯◯」と3通りになると、検索要件が実質的に機能しなくなります

切り替えを考える分岐点は、経験上この3つのどれかに当てはまったときです。①月の件数が50件を超えた、②入力する人が3人以上になった、③直近1年で入力もれが2回以上起きた。このいずれかなら、シートの形を変えずに入力と検索だけをアプリ化する方法を検討する価値があります。索引簿の3列は残したまま、入力フォームと権限とチェックだけを足す形です。

逆に、月10件・担当1人なら、アプリ化は過剰投資です。索引簿と規程で十分に回ります。判断の考え方はスプレッドシート管理の限界とアプリ化の判断軸にまとめています。

「今のシートのまま、入力もれだけ止めたい」といったご相談も承っております。要件を満たすことと、現場が続けられることは別の問題なので、運用設計のところだけでもお手伝いできればと思っております。

まとめ

請求書の電子帳簿保存法対応は、索引簿(取引年月日・取引金額・取引先)+ファイル名ルール+事務処理規程の3点で、スプレッドシートとドライブのまま満たせます。専用システムの導入は、件数と担当人数が増えてからで間に合います。

最初にやるべきことは1つだけです。国税庁の規程サンプルをダウンロードして、管理責任者の名前と電子取引の範囲を埋めること。索引簿はその後で構いません。

よくある質問

請求書をスプレッドシートで管理するだけで電子帳簿保存法の要件を満たせますか?

検索要件については満たせます。国税庁は、表計算ソフトで取引年月日・取引金額・取引先を入力した一覧表(索引簿)を作れば検索機能の確保の要件を満たすと回答しています。ただし改ざん防止措置は別途必要で、中小企業では事務処理規程を定めて運用する方法が現実的です。

索引簿にはどの列が必要ですか?

法令が検索条件として求めているのは取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の3項目です。実務ではこれに連番、区分(受領/発行)、ファイルのリンク、登録者と登録日を加えます。日付は日付型、金額は数値型で入力し、和暦と西暦を混在させないことが重要です。

自社が発行した請求書の写しも保存が必要ですか?

PDFやクラウド経由でデータとして送った請求書の写しも電子取引に当たるため、受領した請求書と同じ要件で保存が必要です。なお国税庁は、記載内容が変更されるおそれがなく合理的な方法により編集された状態で保存されたデータベースであれば、そのデータベースでの保存も認められると回答しています。

売上5,000万円以下なら索引簿は不要ですか?

基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下で、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は検索機能の確保が不要です。判定は税抜金額で行い、営業外収益は含みませんが消費税法上の非課税売上額は含まれる点に注意が必要です。

紙に印刷して保管しておけば対応したことになりますか?

なりません。令和6年1月1日以後の電子取引については、相当の理由があると税務署長が認める場合の猶予措置がありますが、出力書面のみの保存では足りず、電子データそのものも保存して提示できるようにしておく必要があると国税庁が明記しています。

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