OpenAI は2026年8月25日、自社初の推論専用チップ「Jalapeño(ハラペーニョ)」の実測結果を公開しました。公開ベンチマーク InferenceX(SemiAnalysis 提供)で、GPT-OSS 120B において1キロワットあたりのピーク処理量が約1.9倍(85,448 対 44,960 mixed TPS/kW)、エンドツーエンドの遅延が約1.7倍短い(1.03秒 対 1.80秒)という数字が出ています。比較対象は NVIDIA GB200 で、消費電力の前提はJalapeño が700W、GB200 が1,200W(いずれもパッケージTDP)と明記されています。
ただし、この発表を「OpenAI が NVIDIA から離れる」と読むのは誤りです。同じ発表の中で OpenAI は「学習と推論の両方で、NVIDIA およびその他のパートナーのアクセラレータを引き続き広く展開していく」と明記しています。今日の NVIDIA 決算と合わせて読むなら、ここが最も重要な一行です。
公開された実測値(比較条件つき)
数字だけを切り出すと誤読しやすいので、測定条件とセットで並べます。
モデル | 指標 | 実測 |
|---|---|---|
GPT-OSS 120B | ピーク mixed TPS/kW | 約1.9倍(85,448 対 44,960) |
GPT-OSS 120B | エンドツーエンド遅延 | 約1.7倍短い(1.03秒 対 1.80秒) |
GPT-OSS 120B | 最小 TBT(トークン間の待ち) | 約2.7倍短い |
Kimi K2.5 1T | ピーク性能/ワット | 約1.5倍 |
Kimi K2.5 1T | エンドツーエンド遅延 | 約3.4倍短い |
読むときに外せない前提が3つあります。第一に、電力あたりの比較は「各アクセラレータの公称電力定格」で正規化されていること。Jalapeño は700W定格ですが、実測の持続電力は550W以下だったと OpenAI 自身が書いています(つまり実効の効率差はさらに開く可能性がある一方、比較の土台は定格である、ということです)。第二に、テストは3つの公開モデル(GPT-OSS 120B、DeepSeek R1 670B、Kimi K2.5 1T)で行われており、第三に、OpenAI 自社のフロンティアモデルでは「社内テストで優位がさらに広がった」と書かれています。この最後の部分は第三者が検証できない社内数値なので、当サイトでは根拠の強さを分けて扱います。
なぜ速くて省電力なのか(設計の要点)
公式の説明を要約すると、狙いは「データの移動と通信の待ちを減らすこと」に絞られています。
- 推論のフェーズごとに必要な資源が違うことを前提に、チップ・メモリ・ネットワーク・ソフトウェア・ラック単位のシステムをまとめて設計した
- 応答生成中に使う KV キャッシュを含むモデルの状態を、明示的に近い場所へ置いたままにできる
- ネットワークが後付けではなくアーキテクチャの一部で、広いドメインにワークロード全体を載せられる
もう1つ、開発の速さも公表されています。初期設計からテープアウトまで9か月で到達し、その過程で AI が実装候補の探索・設計・測定・検証のループ短縮に直接使われました。さらに、Codex と GPT‑Astra を使って、当初の生産計画に入っていなかった3つのオープンウェイトモデルを2か月で高性能化したとも書かれています。ここで次期モデルの呼称が「GPT‑Astra」という形で出てきているのは、公開時期を占ううえでも小さくない材料です(詳しくはGPT-6(Astra)はいつ出るのかを整理した記事)。
NVIDIA を置き換えるのか(結論:置き換えない)
ここが最も誤解されやすい点なので、公式に書かれていることだけを並べます。
- Jalapeño の展開開始は「年内に OpenAI 自社のコンピュート基盤の中で」。外部に売る計画は書かれていない
- いまも「生産の品質確認、ソフトウェアの成熟、大規模運用の準備、より多くのモデルでの性能検証を継続中」の段階
- 世代計画としてはGen 2 が開発の深い段階、Gen 3 が形になりつつある
- 「NVIDIA およびその他のパートナーのアクセラレータを、学習・推論の両方で引き続き広く展開する」
- コンピュートのポートフォリオには Microsoft・NVIDIA に加え、AWS・AMD・Broadcom・Cerebras・CoreWeave・Oracle・SB Energy・SoftBank が並ぶ
つまり構図は「置き換え」ではなく「自前の選択肢を1つ持つことで、ワークロードごとに最も性能対単価の良い先へ需要を振り分けられるようにする」です。OpenAI 自身、ポートフォリオを保つ目的として「providers・ハードウェア・提供形態をまたいで現実的な選択肢を維持し、価格規律を保つこと」を挙げています。買い手が交渉力を持つための布石、という読み方が公式の記述に最も忠実です。
本記事は投資助言ではなく、AI インフラの動きを読むための情報整理です。個別株の売買判断を扱うものではありません。
中小企業にとって、これは何を意味するか
正直に言えば、今日明日の実務は何も変わりません。Jalapeño は外販されず、年内に OpenAI 社内で動き始める段階だからです。それでも、次の2点は判断に効きます。
- 推論の単価は下がる方向に圧力がかかっている:OpenAI は Jalapeño の効果として「同じ電力とハードウェアからより多くの有用な処理を出し、成果を届けるコストを下げる」と説明しています。AI の利用料を前提に事業計画を引くなら、単価は下がりうる前提で見ておくほうが安全です。
- 効いてくるのは「エージェント」の体感:発表が繰り返し強調しているのは遅延(レイテンシ)で、理由は「エージェントは多くのステップを順に実行するため、遅れがタスク全体で積み上がる」から。社内の自動化をエージェント型で組んでいる場合、1ステップの待ち時間が全体の実用性を決めます。ここは実務でも本当にそのとおりで、体感が変わる余地が大きい部分です。
電力側の話とセットで見たい場合は、AIの電力消費とデータセンターの実データにまとめています。需要がどこまで続くのかという論点はAI半導体の需要はいつまで続くのか、当日の決算の読み方はエヌビディア決算で見るべき指標が対応します。
Mihataでも、AIの費用が動く前提で社内の使い方をどう組むか、というところから一緒に整理するお手伝いをしています。よろしければ合わせてご覧ください。
まとめ
Jalapeño は OpenAI 初の自社推論チップで、2026年8月25日に InferenceX での実測結果が公開されました。GPT-OSS 120B で kW あたり約1.9倍・遅延約1.7倍短縮(対 GB200、定格700W 対 1,200W)、Kimi K2.5 1T で性能/ワット約1.5倍・遅延約3.4倍短縮。展開は年内に OpenAI 社内から始まり、外販の計画は公表されていません。そしてNVIDIA などのアクセラレータは学習・推論の両方で引き続き広く使うと明記されています。
よくある質問
Jalapeño は誰でも買えますか。
2026年8月27日時点で、外部への販売計画は公表されていません。展開は年内に OpenAI 自身のコンピュート基盤の中で始まると説明されています。
NVIDIA の GPU より速いということですか。
公開されたのは InferenceX という公開ベンチマークでの比較結果で、GPT-OSS 120B では1キロワットあたりのピーク処理量が約1.9倍、エンドツーエンド遅延が約1.7倍短いという値です。比較対象は GB200 で、定格電力は Jalapeño 700W、GB200 1,200W という前提での正規化です。用途や条件が変われば結果も変わります。
OpenAI は NVIDIA を使わなくなるのですか。
いいえ。同じ発表の中で「学習と推論の両方で、NVIDIA およびその他のパートナーのアクセラレータを引き続き広く展開する」と明記されています。
チップの開発にAIは使われたのですか。
使われています。初期設計からテープアウトまで9か月で到達し、その過程で実装候補の探索や設計・測定・検証のループ短縮、演算回路の最適化にAIが直接使われたと説明されています。
ChatGPT の料金は安くなりますか。
公式は「同じ電力とハードウェアからより多くの有用な処理を出し、成果を届けるコストを下げる」と説明していますが、価格改定については何も公表されていません。値下げが決まったわけではない点にご注意ください。