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AI活用2026.08.16

AI規制 アメリカ 州法の全体像|連邦との関係と日本企業への影響

アメリカには、AIを横断的に規制する連邦法が、本記事執筆時点(2026年8月16日)ではまだ成立していません。実際に企業の手続きを動かしているのは州法で、施行日も義務の中身も州ごとにばらばらです。日本から米国市場を見るとき、まず押さえるべきはこの一点です。

本記事は法的助言ではありません。個別の判断は弁護士等の専門家にご相談ください。ここでは州議会・知事室・規制当局が公開している一次ソースで確認できた範囲だけを、施行日つきで整理します。

結論:アメリカのAI規制は連邦法ではなく州法で動いている

結論から書きます。米国のAI規制は「連邦法が出るのを待つ」段階ではなく、すでに州単位で動き始めています。本記事で扱う7本の州法・市条例のうち、カリフォルニア州SB 53・テキサス州HB 149・イリノイ州HB 3773・ニューヨーク市Local Law 144の4本は、すでに施行済みです。

一方で、連邦政府は州法を抑え込む方向で動いています。2025年12月11日の大統領令「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence」は、州法に対する訴訟タスクフォースの設置と、州法を先取り(プリエンプト)する連邦立法の提案を指示しました。ただし、州法を実際に上書きする連邦法は、本記事執筆時点では成立していません。

つまり日本企業から見ると、当面は「連邦の1本のルール」ではなく「州ごとのルールの束」を相手にすることになります。しかもコロラド州のように、施行を待たずに法律そのものが作り直された例もあります。全部を追いかけるより、自社が米国で何をしているかから逆算して該当箇所だけ見るほうが現実的です。

連邦レベルで何が起きているか

大統領令14365と、州法に対する訴訟タスクフォース

2025年12月11日に署名された大統領令は、ホワイトハウスの公表文で「minimally burdensome national policy framework for AI」(最小限の負担で済む国家的なAIの政策枠組み)を米国の方針として掲げています。そのうえで司法長官に対し、方針に反する州のAI法へ異議を申し立てることだけを任務とするAI Litigation Task Forceを30日以内に設置するよう指示しました。

あわせて商務長官には90日以内に州のAI法を評価させ、ブロードバンド関連の連邦資金(BEAD)の適格条件と結びつける検討を求めています。加えて、連邦の枠組みを作る際にも州法を残す領域として、児童の安全保護、AI向けの計算資源・データセンター基盤、州政府自身のAI調達・利用などが明示されています。

ここで注意したいのは、大統領令は行政府への指示であって、それ自体が州法を無効にするものではないという点です。無効化には裁判所の判断か、連邦議会の立法が必要になります。

州法を上書きする連邦法は成立したのか

本記事執筆時点では、州のAI法を包括的に先取りする連邦法は確認できませんでした。2026年3月20日にはホワイトハウスがAIの国家政策枠組みとして議会向けの立法提案をまとめていますが、それが法律として成立したことを示す一次情報は、執筆時点では公式には確認できませんでした。

また、2026会計年度の国防授権法(NDAA)に州法モラトリアム条項を入れる試みが見送られたと複数の法律事務所が解説していますが、これは条文の不存在を示す性質の情報のため、本記事では報道・専門家解説ベースの情報として扱います。「連邦がまとめて上書きしてくれるはず」という前提で準備を止めるのは、現時点では危うい判断です。

もう一つ、係争中の案件があります。コロラド州の旧AI法をめぐって2026年4月に連邦地裁が執行を停止し、司法省も手続に加わったと報じられています。これは進行中の訴訟であって確定した判例ではないため、結論として引用しないほうが安全です。

主要な州法・市条例を施行日つきで比較する

まず全体像を1枚で見ます。以下は本記事で一次ソースを確認できた範囲での整理です。適用の有無は事業内容によって変わるため、右端の列はあくまで「どういう会社なら関係しうるか」の目安として読んでください。

州・市

法令名

主な施行・適用日

主な対象

日本企業との関係

カリフォルニア州

SB 53(Transparency in Frontier Artificial Intelligence Act)

2025年9月29日署名、大半が同日から

10の26乗回以上の計算量で基盤モデルを訓練する開発者(大規模=前年売上5億ドル超)

自社でフロンティアモデルを訓練する場合のみ。多くの企業は非該当

カリフォルニア州

AB 2013(生成AIの学習データ透明性)

2026年1月1日

カリフォルニア州民に生成AIシステムを提供する開発者

自社製品に生成AIを組み込んで米国提供する場合に該当しうる

カリフォルニア州

CPPAのADMT規則(CCPA関連)

規則は2026年1月1日発効、ADMT義務の遵守は2027年1月1日

重要な決定に自動意思決定技術を使う事業者

現地の採用・与信・料金判断などで関係しうる

コロラド州

SB 26-189(SB 24-205を廃止・置換)

2027年1月1日以降の決定に適用

重要な決定に実質的な影響を与える自動意思決定技術の開発者・導入者

現地法人の採用・住宅・金融関連の判断で関係しうる

テキサス州

HB 149(TRAIGA)

2026年1月1日

州機関のAI利用と、意図的な操作・差別・違法用途

テキサス州民が使う製品・サービスを提供する事業者も適用範囲

イリノイ州

HB 3773(人権法改正)

2026年1月1日

州内の雇用でAIを使う雇用主

現地採用を行う場合に直接関係

ニューヨーク市

Local Law 144(AEDT)

2023年7月5日から執行

市内の職の採用・昇進に自動意思決定ツールを使う雇用主

ニューヨーク市で採用する場合に直接関係

主要州の中身を、条文にあたって読む

カリフォルニア州SB 53:対象は「フロンティア開発者」に絞られている

SB 53は2025年9月29日にニューサム知事が署名しました。名称はTransparency in Frontier Artificial Intelligence Act(フロンティアAI透明化法)で、いわゆるAI一般ではなく、極めて大規模なモデルを訓練する事業者を狙い撃ちにしています。

条文上、「frontier developer」は10の26乗回以上の計算操作を用いて基盤モデルを訓練した者と定義されます。さらに関連会社を含む前年の総収入が5億ドルを超えると「large frontier developer」となり、義務が重くなります。この二段構えのおかげで、AIを使う側の一般企業は原則として対象外です。

大規模フロンティア開発者には、壊滅的リスクの評価・緩和策・サイバーセキュリティ・第三者評価・インシデント対応を書いたフレームワークを自社サイトで公開し、年1回見直すことが求められます。新規または大幅に変更したモデルの提供前には透明性レポートの公表が必要で、重大な安全インシデントは発見から15日以内に州の緊急事態対策局(OES)へ報告、生命への差し迫った脅威がある場合は24時間以内の通報が定められています。違反は1件あたり最大100万ドルの民事制裁金で、執行は州司法長官が担います。

内部通報者の保護も入りました。従業員が壊滅的リスクや法令違反について司法長官・連邦当局・上長へ情報提供することを妨げてはならず、大規模開発者には匿名の内部通報窓口と、経営層への四半期報告が求められます。

カリフォルニア州のもう2本:AB 2013とADMT規則

AB 2013は2024年9月28日に成立し、2026年1月1日から効力を持ちます。カリフォルニア州民向けに生成AIシステムを提供する開発者は、公開前に学習データセットの概要をウェブサイトに掲載しなければなりません。データの出所と保有者、データポイントのおおよその数、著作権や商標などの権利状態、個人情報の有無、収集期間、合成データの利用有無などが列挙されています。

自社でモデルを訓練していなくても、外部モデルを追加学習させて自社サービスとして提供している場合は、開発者側に立っていないか確認する価値があります。学習データの扱いは日本国内でも論点が続いており、日本の生成AIと著作権をめぐる裁判の動きとあわせて見ると、どこまで記録を残すべきかの判断がしやすくなります。

3本目はカリフォルニア州プライバシー保護庁(CPPA)が整備した自動意思決定技術(ADMT)の規則です。2025年9月23日に州行政法局の承認を受け、規則自体は2026年1月1日に発効しました。重要な決定にADMTを使う事業者の遵守開始は2027年1月1日で、利用時の通知、オプトアウトの受付、アクセス請求への対応が求められます。リスク評価は2026年1月1日から始まり、2026年・2027年に実施した分は2028年4月1日までにCPPAへ提出する枠組みです。

コロラド州:施行前に止まり、法律ごと作り直された

コロラド州は2024年にSB 24-205(Colorado AI Act)を成立させ、当初は2026年6月30日の施行が予定されていました。しかし施行を迎える前に法律そのものが差し替えられます。2026年5月14日に知事がSB 26-189に署名し、州議会の法案ページにも旧法の規定を廃止・再制定する法案として記載されています。

新法の軸は「high-risk AI system」から「automated decision-making technology(ADMT)」へ移りました。重要な決定に実質的な影響を与える技術に絞り、旧法にあった注意義務や影響評価の枠組みは大きく削られています。開発者は2027年1月1日までに導入者へ技術文書(想定用途、学習データの分類、既知の限界、使い方の指示)を提供し、双方が3年以上の記録を保持します。

導入者側は、消費者が接する時点で明確に通知し、不利な決定が出た場合は30日以内に平易な言葉でADMTの関与を説明し、商業的に合理的な範囲で人間による見直しの道を用意します。適用は2027年1月1日以降になされる決定が対象です。旧法をめぐる訴訟は係争中であり、その帰趨は本記事執筆時点では公式には確認できませんでした。

テキサス州TRAIGA:禁止行為に「意図」を置いた

テキサス州のHB 149、通称TRAIGAは2025年6月22日に署名され、2026年1月1日に施行されました。議会の法案分析によれば、当初案から民間事業者への包括的な義務が大きく削られ、州機関のAI利用に関する開示と、限定された禁止行為が中心の構成になっています。

禁止されるのは、人の行動を暴力・自傷・犯罪へ仕向けるよう意図的に設計されたシステム、違法な差別を意図したシステム、同意のないバイオメトリクス識別子の取得、児童を性的に搾取する素材の生成といった類型です。「意図」を要件に置いたことで、結果的な偏りだけで直ちに違反になる構造ではなくなりました。

適用範囲は広めに書かれており、州内でAIシステムを開発・提供する者に加え、テキサス州民が利用する製品・サービスを提供する者、州内で事業を宣伝・実施する者も含まれます。執行は州司法長官に限られ、私的訴権はありません。試験的な導入を後押しする規制サンドボックスも設けられました。

採用に効く2本:イリノイ州HB 3773とニューヨーク市Local Law 144

採用・人事は、日本企業が最初にぶつかりやすい領域です。イリノイ州のHB 3773は州人権法を改正し、2026年1月1日から、採用・昇進・研修選抜・解雇・懲戒などで保護属性による差別的効果を生むAIの利用を禁じました。AIを使う場合の応募者・従業員への通知義務もあり、郵便番号を保護属性の代理変数として使うことも禁じられています。なお実施規則は一度取り下げられており、通知の具体的な様式は執筆時点では確定していません(この規則の状況は法律事務所の解説ベースの情報です)。

ニューヨーク市のLocal Law 144はさらに具体的です。市消費者・労働者保護局(DCWP)が2023年4月6日に最終規則を採択し、2023年7月5日から執行が始まりました。自動雇用意思決定ツール(AEDT)を使う雇用主は、独立した監査人による偏りの監査を受け、選択率や影響比の要約を自社サイトで公開し、候補者・従業員へ利用の10営業日前までに通知しなければなりません。

ここで効いてくるのが、ツールを「誰が入れたか」の把握です。人事部門が知らないうちに現場が採用支援ツールを使っていると、監査も通知も抜け落ちます。国内でも同じ構図が起きており、従業員が申告せずAIを使うシャドーAIへの対策で整理した棚卸しの手順が、そのまま米国拠点の点検にも使えます。

日本企業に実際に関係するのはどこか

米国の州法は、会社の所在地ではなく「その州の人に対して何をしたか」で及ぶ書き方が多くなっています。テキサスのTRAIGAが州民の使う製品・サービスを射程に入れ、カリフォルニアのAB 2013が州民への提供を条件にしているのは、その典型です。日本に本社があるから関係ない、とは言い切れません。

まず確認したい3つの入口

1つ目は、米国で人を採る場合です。ニューヨーク市に拠点があればLocal Law 144、イリノイ州ならHB 3773、コロラド州なら2027年以降のSB 26-189が視野に入ります。応募者選考に使っているツールの一覧と、その出力が選考にどう影響しているかを書き出すところから始まります。

2つ目は、AI機能を含む製品・サービスを米国のユーザーに提供する場合です。生成AIを組み込んでいればAB 2013の学習データ開示、重要な決定に関わればカリフォルニアのADMT規則やコロラドの新法が関係しえます。自社が開発者なのか導入者なのか、契約と実態の両面で立ち位置を確認しておくと判断が早くなります。

3つ目は、フロンティアモデルを自ら訓練している場合です。SB 53の閾値である10の26乗回という計算量は極めて大きく、日本の中小企業が該当するケースは考えにくいのが実情です。既製モデルのAPI利用や、少量データでのファインチューニングであれば、まず対象外と考えて差し支えありません。

逆に言えば、多くの日本企業にとって重要なのは1つ目と2つ目、つまり「人事」と「顧客に向けた自動判断」です。この2つに絞って社内のAI利用を棚卸しし、判断の根拠を残す運用にしておけば、州ごとの細かい違いに振り回されにくくなります。

EU・日本と並べると、米国の位置づけが見える

規制の三極を並べると性格の違いがはっきりします。EUは用途のリスクに応じて義務を段階化する1本の法律で全域をカバーします。EU AI Actが日本企業に及ぶ範囲と対応の考え方で整理したとおり、日本企業でもEU域内に出力が届けば適用されうる設計です。

日本は、法律で一律の義務を課すより、事業者向けのガイドラインと分野別の運用で進める色合いが強い枠組みです。国内側の全体像は2026年時点の日本のAI規制と法制度の整理にまとめています。米国はその中間というより、そもそも軸が違います。連邦は緩やかな統一を志向し、州が個別に踏み込み、その衝突が訴訟と立法提案として表面化している状態です。

この三極を同時に相手にするのは、中小企業には重い作業です。ただし共通して求められているのは、突き詰めれば「どのAIを、どの判断に、どんな根拠で使ったか」を説明できることに集約されます。国ごとに書式は違っても、記録の取り方は1つ作れば流用できます。なお、こうした規制の背景には計算資源をどこに置くかという議論もあり、ソブリンAIをめぐる日本の議論もあわせて読むと文脈がつかみやすくなります。

準備として現実的なのは、次の3つです。米国拠点で使っているAIツールの一覧化、採用・与信・解約など人に不利益が生じうる判断へのAI関与の有無の確認、そして判断ログの保存方針の決定です。いずれも法務の前に、社内の実態把握から始まります。

Mihataでは、AIの社内利用の棚卸しや、業務のどこにAIを組み込むかの設計をお手伝いしています。海外法務そのものは弁護士の領域ですが、「どのツールが何の判断に関わっているか」を洗い出す作業は、日々の業務を知っている側で進めたほうが早く進みます。現状の整理からご相談いただけます。

よくある質問

アメリカにAIを包括的に規制する連邦法はありますか。

本記事執筆時点(2026年8月16日)では成立していません。2025年12月11日の大統領令が州法を先取りする連邦立法の提案などを指示していますが、州法を実際に上書きする連邦法は確認できませんでした。

カリフォルニア州のSB 53は、AIを使うだけの企業にも適用されますか。

原則として適用されません。SB 53は10の26乗回以上の計算量で基盤モデルを訓練した開発者を対象としており、既製モデルのAPI利用や小規模なファインチューニングは想定外です。前年の総収入が5億ドルを超える大規模フロンティア開発者にはさらに重い義務が課されます。

コロラド州のAI法はどうなりましたか。

2024年のSB 24-205は2026年6月30日の施行前に差し替えられ、2026年5月14日に署名されたSB 26-189が旧法を廃止・置換しました。新法は自動意思決定技術を軸に義務を絞り込み、2027年1月1日以降になされる決定に適用されます。

日本企業でも米国の州法の対象になりますか。

なりえます。テキサス州のTRAIGAは州民が利用する製品・サービスの提供者を、カリフォルニア州のAB 2013は州民への生成AI提供者を対象に含めています。会社の所在地ではなく、その州の人に何を提供したかで判断される書き方が多くなっています。

まず何から手をつければよいですか。

米国拠点で使っているAIツールの一覧化、採用・与信・解約など人に不利益が生じうる判断へのAI関与の確認、判断ログの保存方針の決定の3つです。ニューヨーク市やイリノイ州のように採用領域はすでに施行済みのため、人事から着手すると優先順位を付けやすくなります。

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