「AIで仕事が減る」という話は繰り返し聞くのに、「では、どの職種の求人が増えているのか」となると、途端に情報が曖昧になります。転職を考えている人も、採用計画を立てる人事も、知りたいのは減る話ではなく増える話のほうです。この記事では、2026年8月時点で確認できる厚生労働省・総務省・経済産業省の一次統計と、Indeed Hiring Lab や World Economic Forum の公開レポートだけを根拠に、「AIで求人が増えている職種」を整理します。数字はすべて出典と公表時点を添えて示します。
先に答えを書きます。いま日本で求人が最も分厚いのは「AI専門職」そのものではなく、AIを使えることが要件に入った既存の職種です。Indeed Hiring Lab が2026年7月8日に公表した分析では、米国で「AIに触れる職種名(AI-touched job titles)」は2026年1〜3月に822種類・全職種名の8.3%(約12分の1)まで増え、そのうち63%が非テック職でした。一方で日本の職業別統計を見ると、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は令和8年6月時点で1.33倍と、全職業計の1.01倍を上回る水準を保っています。つまり「AI専門職は依然として売り手市場、ただし本当の増加はテックの外側で起きている」というのが現在地です。
日本の公的統計で見る「増えている職種」の現在地
まず、日本でいちばん粒度の細かい職業別データは厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」です。2026年7月31日公表の令和8年6月分の参考統計表によると、常用(パートタイムを含む)の有効求人倍率は職業計で1.01倍でした。この全体水準に対し、情報処理・通信技術者は有効求人倍率1.33倍、新規求人倍率3.02倍と、明確に人手が足りない側に位置しています。
比較のために同じ表の他の職業を見ると、差はもっとはっきりします。一般事務従事者の有効求人倍率は0.28倍、美術家・デザイナー・写真家・映像撮影者は0.15倍で、いずれも求職者のほうが大幅に多い状態です。同じ「オフィスで働く仕事」でも、情報処理・通信技術者との間には4倍以上の開きがあります。減る側の職種についてはAIの雇用への影響を職種別に検証した記事で公的統計をもとに整理していますので、増減を対で把握したい方はあわせてご覧ください。
ただし「IT職はどんどん増えている」とは言えない
ここは正直に書きます。同じ統計の前年同月比を見ると、情報処理・通信技術者の有効求人は前年同月比5.7%減、新規求人は1.1%減でした。逆に新規求職申込は13.2%増で、有効求人倍率は前年同月から0.16ポイント、新規求人倍率は0.43ポイント低下しています。産業別でも、令和8年6月の新規求人は情報通信業が前年同月比6.4%減でした。
読み取れるのは「水準は高いが、勢いは鈍っている」という二段構えの事実です。AI関連だからといって求人数が右肩上がりに増え続けているわけではなく、むしろ求職者側の流入が増えて競争は強まっています。「AI求人が増えている」という言葉を、そのまま「今から入れば楽に採用される」と受け取るのは危険です。
海外の求人データが示す「AI求人はテック職の外へ広がった」
日本の統計は職業分類が粗く、「AIエンジニア」といった職種名が独立して出てきません。そこを補うのが求人プラットフォームの公開レポートです。Indeed Hiring Lab が2026年7月8日に公表した分析では、米国のAIに触れる職種名は2022年1〜3月の264種類から2026年1〜3月には822種類へと増え、全職種名に占める割合は8.3%になりました。同時期のドイツは288種類(4.2%)、英国は160種類(2.7%)、フランスは138種類(3.3%)です。
重要なのは内訳のほうです。同レポートによれば、AIに触れる職種名のうち非テック職が占める比率は米国で63%、ドイツで59%、オランダで58%、フランスと英国で54%にのぼりました。具体的には営業、人事、カスタマーサービス、法務、事務、教育、技能職といった職種にAIの記述が広がっています。AI求人はもはやエンジニアだけの話ではない、というのがこのデータの結論です。
同じく Indeed Hiring Lab が2026年7月8日に公表した別の分析では、2025年5月から2026年5月にかけてのソフトウェア開発職の求人増加のうち、71%がシニア職、37%が職種名にAIを含む求人によるものだと報告されています(両者は重複します)。増えているのは「AIを扱える経験者ポジション」であって、間口の広い初級ポジションではない、という点は押さえておく必要があります。
AI関連で求人が増えている職種を比較する
ここまでのデータをもとに、実務として求人が増えている職種を整理します。「増えている根拠」は、確認できた一次データだけを書いています。未経験からの入りやすさは、要求される前提知識と実務経験の量から筆者が3段階で評価したものです。
職種 | 求人が増えている根拠(一次データ) | 求められるスキル | 未経験からの入りやすさ |
|---|---|---|---|
AIエンジニア/機械学習エンジニア | LinkedIn「Jobs on the Rise 2026」(2026年1月7日公表)で米国の成長職種1位。WEF「Future of Jobs Report 2025」でも2030年までの成長率上位に「AI and Machine Learning Specialists」が入る | Python、機械学習の基礎、LLMのAPI実装、評価設計 | 低い(実装ポートフォリオがほぼ必須) |
データエンジニア/データ基盤担当 | WEF Future of Jobs Report 2025の成長職種上位に「Big Data Specialists」「Data Warehousing Specialists」「Data Analysts and Scientists」が並ぶ | SQL、ETL設計、クラウドのデータ基盤、データ品質管理 | 中(SQLと業務データ経験から接続しやすい) |
MLOps/DevOpsエンジニア | 同レポートの成長職種上位15に「Devops Engineer」が含まれる | CI/CD、コンテナ、監視、モデルの運用と再学習 | 低い(インフラ実務が前提) |
AI導入コンサル/社内AI推進担当 | LinkedIn「Jobs on the Rise 2026」で「AI consultant/strategist」が2位。総務省の令和8年版情報通信白書では日本企業の27.0%が「組織的な取組はない」と回答しており、推進役の空白が大きい | 業務の分解、費用対効果の設計、社内調整、ツール選定 | 高い(既存の業務知識がそのまま武器になる) |
データアノテーター/AI品質評価 | LinkedIn「Jobs on the Rise 2026」で「data annotator」が4位 | ガイドライン読解、正確さ、ドメイン知識、日本語の言語感覚 | 高い(実務経験の要件が比較的軽い) |
AIセキュリティ/情報セキュリティ担当 | WEF Future of Jobs Report 2025の成長職種上位に「Security Management Specialists」「Information Security Analysts」が入る | リスク評価、ログ監査、社内規程づくり、法令対応 | 中(情シスや総務からの転向例がある) |
AIを使える営業・マーケティング | Indeed Hiring Labの2026年7月分析で、AIに触れる職種名の63%(米国)が非テック職。営業・マーケが具体例として挙がる | 生成AIでの調査・資料作成、データの読み方、業務設計 | 最も高い(今の職種のまま要件を満たしにいける) |
AIを使えるバックオフィス | 同上。人事・法務・事務・カスタマーサービスが非テック側の具体例として挙がる | 文書処理の自動化、社内ルール整備、ツールの運用定着 | 最も高い(既存業務との重なりが大きい) |
表を通して見ると、専門性が高い職種ほど求人の伸び率は大きいが母数は小さく、未経験からの距離が遠いという関係が見えてきます。逆に、いちばん求人の絶対数が大きいのは表の下2行、つまり既存職にAI要件が乗ったポジションです。
「プロンプトエンジニア」は本当に増えているのか
2023年頃に大きく話題になった「プロンプトエンジニア」は、いまでもAI関連の伸びる職種として紹介されることがあります。ここは通説を鵜呑みにせず、公開されている一次リストで確認してみます。
LinkedIn が2026年1月7日に公表した「Jobs on the Rise 2026」の米国版上位25職種には、AIエンジニア(1位)、AIコンサルタント/ストラテジスト(2位)、データアノテーター(4位)、AI/ML研究者(5位)が並びます。この上位リストに「プロンプトエンジニア」という職種名は登場しません。同社の集計方法は2023年1月から2025年7月までの入職データをもとに職種名ごとの成長率を算出するもので、独立した職種名として一定の規模に育っていれば上位に出てくるはずの設計です。
Indeed Hiring Lab の分析と合わせると、起きていることは「職種名の消滅」ではなく「職種名の吸収」だと読めます。AIに触れる職種名が822種類まで増え、その多くが非テック職だという事実は、プロンプトを書く力が単独の肩書きではなく、営業・人事・法務といった既存職の要件の一部として溶け込んでいったことと整合します。ネット上には「プロンプトエンジニアの求人が何%減った」という数字が多く流通していますが、公表元をたどれる一次データを確認できなかったため、この記事では具体的な減少率は書きません。
実務的な結論としては、「プロンプトエンジニア」という肩書きを目指すより、自分の職種にAIの運用スキルを足すほうが求人の母数が大きいということになります。プロンプトが思うように機能しない原因は指示文の巧拙だけではないという話は、AIを使いこなせない原因を構造から整理した記事にまとめています。
数がいちばん多いのは「AIを使える既存職」
求職者の視点で見たとき、最も現実的な選択肢はここです。Indeed Hiring Lab のデータが示すとおり、AIに触れる求人の過半は非テック職です。営業なら商談前の企業調査と提案書の下書き、マーケティングなら記事や広告文の量産と検証、人事なら求人票と面接記録の整理、経理なら証憑の突合と月次資料の作成。いずれも既存の業務のままAIの運用スキルを足せる領域です。
日本側の数字もこの見立てを支えています。総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業の割合は86.4%で、2024年度調査の55.2%から大幅に上昇し、米国の90.9%、ドイツの91.6%との差はかなり縮まりました。導入そのものは、もう珍しいことではありません。
一方で、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた日本企業は27.0%で、米国の1.4%、ドイツの4.9%、中国の2.6%を大きく上回りました。さらに「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」と答えた割合は日本39.9%に対し米国62.7%、中国71.7%です。ツールは入ったが、回す人と仕組みがいないという空白が、そのまま求人になっていると考えるのが自然です。
未経験からどう入るか
未経験から「増えている職種」に入る道は、大きく3つに分かれます。どれを選ぶかは、いまの職歴と使える時間で決まります。
- 今の職種のまま、AI運用の実績を作る。最も現実的です。自分の業務で生成AIを使って何時間削れたかを月次で記録し、手順書やプロンプト集として残します。職務経歴書に「AIで◯◯業務を月◯時間削減、手順を社内標準化」と書ければ、それがそのまま非テック側のAI求人の実績になります。
- データ側から入る。SQLと業務データの読み方は、経理・営業事務・在庫管理などの経験と地続きです。WEFの成長職種リストでデータ関連の職種が上位に固まっていることを踏まえると、AIエンジニアより手前にある現実的な入口です。
- アノテーション・AI品質評価から入る。LinkedInの2026年リストで4位に入った職種で、要求される前提知識は比較的軽めです。ただし単価と継続性には幅があるため、次のステップ(評価設計や業務設計)へ移る前提で臨むのが安全です。
いずれの道でも、独学だけで進めるより、実際の業務課題に当てて手を動かすほうが早く形になります。社内で学ぶ機会を作りたい場合の設計例は、生成AI研修のカリキュラム内容を全12回で公開した記事に具体的な回ごとの構成を載せています。
中小企業がAI人材を採る前に考えること
ここからは採用する側の話です。経済産業省が2019年4月に公表した「IT人材需給に関する調査」では、AI人材(AIの数理モデルの研究者、AI搭載ソフトウェアの開発者、AI活用製品の企画・販売者と定義)の需給ギャップは、AI需要の伸びが平均シナリオ(年率16.1%)の場合に2030年で12.4万人と試算されました。同調査ではIT人材全体でも2030年に45万人(中位シナリオ)の不足が見込まれています。数年前の試算ではありますが、方向として「採りにいっても市場に人がいない」構造は変わっていません。
加えて、前掲の職業別統計では情報処理・通信技術者の新規求人倍率が3.02倍です。1人の求職者を3社が取り合っている計算で、知名度と給与水準で大手に競り勝つのは簡単ではありません。中小企業がまず考えるべきは、「AIエンジニアを採る」ではなく「どの業務をAIに寄せるかを決める人を置く」という順序です。総務省の白書が示した27.0%の空白は、モデルを作れる人ではなく、業務を分解して優先順位をつけられる人の不在に近いからです。
そのうえで、自社で抱えるか外に出すかは分けて考えられます。人を採って育てる時間と、外部に任せて先に成果を出す速さは、どちらが正しいというものではありません。判断軸の整理は社内AIを内製するか外注するかを5つの軸で比較した記事に、着手する業務の選び方は生成AIをどの業務から入れるかの優先順位の決め方にまとめています。
とはいえ、社内だけで「どこから手をつけるか」を決めきるのは難しいものです。Mihataでは中小企業向けに、業務の棚卸しから運用の定着までを伴走するAI導入支援を行っています。まだ採用すべきか外部に任せるべきか決めかねている段階でも、現状の整理からお手伝いできますので、必要であればお声がけください。
「増えている」を読み違えないための3つの注意
最後に、この手のデータを読むときの落とし穴を挙げておきます。求人統計は、書かれ方によって同じ事実が正反対の印象になります。
- 成長率と絶対数を混ぜない。WEFのリストは「成長率の順位」です。母数の小さい職種は率が跳ねやすく、実際の求人件数が多いとは限りません。転職先を探すなら件数、キャリアの方向を決めるなら成長率、と使い分けます。
- 海外データをそのまま日本に当てない。Indeed Hiring Lab や LinkedIn のデータは米国・欧州が中心です。日本の職業別の実数は厚生労働省の統計でしか取れず、そこでは情報処理・通信技術者の求人が前年同月比で減っています。方向性は海外データ、水準は国内統計、という読み分けが要ります。
- 「増えている=入りやすい」ではない。Indeed Hiring Labの分析では、ソフトウェア開発職の求人回復の71%がシニア職でした。増えている職種ほど経験者要件が厳しいことは珍しくありません。
2026年8月時点で確度をもって言えるのは、AI専門職の需要は根強く残り、それ以上にAIを扱える既存職の求人が広がっているということです。求職者はいまの職種にAI運用の実績を積み、採用する側は専門職の獲得競争に飛び込む前に、社内で業務を分解できる人を置く。どちらも、統計から素直に導ける現実的な打ち手だと考えています。
よくある質問
AIで求人がいちばん増えている職種は何ですか。
職種名の成長率で見ると、LinkedInが2026年1月7日に公表したJobs on the Rise 2026の米国版でAIエンジニアが1位、AIコンサルタント・ストラテジストが2位、データアノテーターが4位でした。ただし求人の絶対数で見ると、営業・人事・法務・事務などの既存職にAI要件が加わったポジションのほうが多く、Indeed Hiring Labの2026年7月8日公表の分析では、AIに触れる職種名の63パーセント(米国)が非テック職でした。
日本ではAI関連の求人は本当に増えているのですか。
水準は高いものの、伸びは鈍化しています。厚生労働省が2026年7月31日に公表した令和8年6月分の職業別統計では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.33倍で全職業計の1.01倍を上回りました。一方で同職業の有効求人は前年同月比5.7パーセント減、新規求職申込は13.2パーセント増で、有効求人倍率は前年同月から0.16ポイント低下しています。
プロンプトエンジニアは今から目指す価値がありますか。
単独の肩書きとしては慎重に見たほうがよいと考えています。LinkedInのJobs on the Rise 2026の米国版上位25職種にプロンプトエンジニアという職種名は入っていません。プロンプトを設計する力自体は失われていませんが、AIエンジニアやAIコンサルタント、あるいは既存職の要件の一部として吸収されている可能性が高い状況です。
未経験からAI関連の職種に入るにはどうすればよいですか。
現実的な入口は3つあります。1つ目は今の職種のまま生成AIで業務を削減した実績を月次で記録すること、2つ目はSQLと業務データの読み方からデータ側に入ること、3つ目はデータアノテーションやAI品質評価から入ることです。とくに1つ目は職務経歴書にそのまま書ける実績になり、非テック側のAI求人と直接つながります。
中小企業はAI人材を採用すべきですか。
採用の前に、どの業務をAIに寄せるかを決める役割を社内に置くことをおすすめします。情報処理・通信技術者の新規求人倍率は令和8年6月時点で3.02倍あり、専門職の獲得競争は激しい状況です。総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIによる業務変革について組織的な取組はないと答えた日本企業が27.0パーセントあり、不足しているのはモデルを作れる人より業務を分解できる人だと考えられます。