「電話が鳴るたびに手が止まる」「営業時間外の着信を取りこぼしている」——中小企業の現場で今いちばん相談が多いのが、この電話対応の負担です。近年はAIが電話に出て、相手の話し言葉を聞き取り、用件を自動で処理するボイスボットが実用段階に入り、少人数の会社でも電話応対を自動化しやすくなりました。この記事では、AI電話応対自動化の仕組みから、実現方法の選び方、失敗しない始め方までを実務目線で整理します。
結論:まずは「一次対応の自動化」から始めるのが現実解
先に要点をまとめます。AIによる電話応対の自動化は、すべての電話を無人化することではありません。よくある問い合わせ・予約受付・営業時間の案内・取次といった定型の一次対応をAIに任せ、判断が必要な用件だけを人へ引き継ぐ「ハイブリッド設計」から始めるのが、費用対効果もリスクも最もバランスが取れた入り口です。
実現手段は大きく3つあります。クラウド型のAI電話サービスには、公式の料金ページで月額0円(月30着電まで)のプランや、月額3,980円〜のプランが公開されているものもあり(IVRy 料金プラン)、小規模事業者でも試しやすい価格帯になっています。ただし同ページには「電話番号維持費、従量利用料金が別途かかります」と明記されているため、月額だけで判断しないでください。まずは「どの電話を自動化したいか」を1つ決め、そこだけを自動化するのが失敗しないコツです。
先に、この記事の守備範囲をはっきりさせておきます。本記事は「電話応対の自動化を、自社でどう始めるか」に絞って書いています。着信の数え方、AIに渡す用件と人が受ける用件の線引き、うまくいかなかったときに元の受電体制へ戻す手順——つまり導入の段取りが主題です。一方で、「AI自動応答システム」「ボイスボット」という言葉そのものの定義、音声認識から音声合成までの仕組み、主要サービスの機能・料金の横並び比較は、姉妹記事のAI電話自動応答(ボイスボット)とは|一次対応の無人化と選び方【2026】に整理してあります。用語や製品の違いから知りたい方は、先にそちらをご覧ください。この記事は「どれを買うか」ではなく「どう始めるか」を扱います。
AI電話応対の自動化とは何か(仕組み)
AI電話応対の自動化とは、かかってきた電話にAIが音声で応答し、相手の用件を聞き取って、回答・案内・取次・SMS送信・文字起こしまでを自動で行う仕組みのことです。中核となる技術は「ボイスボット」と呼ばれます。
ボイスボットが1本の電話をさばく流れは、おおむね次の4ステップです。
- 音声認識(ASR):相手が話した言葉をリアルタイムでテキストに変換する。
- 意図理解(自然言語処理・生成AI):テキストから「何を求めているか」を解析し、適切な応答を組み立てる。
- 応答生成:回答する/必要な情報を聞き返す/担当へ転送する、などの次のアクションを決める。
- 音声合成(TTS):応答文を自然な音声に変換し、相手に話しかける。
近年は意図理解の部分に生成AI(大規模言語モデル)が使われるようになり、決められた選択肢だけでなく、自由な話し言葉にも文脈をくんで応答しやすくなっています。
従来のIVR(自動音声応答)との違い
「AIの電話応対」と聞くと、以前からある「ご予約は1を、お問い合わせは2を押してください」という自動音声(IVR)を思い浮かべる方も多いはずです。両者は似ていますが、応対の柔軟さが大きく異なります。
比較項目 | 従来のIVR(プッシュ操作) | ボイスボット(AI音声対話) |
|---|---|---|
操作方法 | 番号ボタンを押す | 話し言葉でそのまま伝える |
対応できる幅 | あらかじめ決めた分岐のみ | 自由な発話を解釈して応答・聞き返しが可能 |
取りこぼし | メニューが深いと途中離脱が起きやすい | 用件を直接ヒアリングでき離脱を抑えやすい |
記録 | 基本は分岐ログのみ | 通話の文字起こし・要約を自動生成できる |
実務では、IVRとボイスボットは対立するものではありません。入口の簡単な振り分けはIVR、そこから先の用件ヒアリングはボイスボット、というように組み合わせて使うのが一般的です。
AIで自動化できること・まだ難しいこと
導入判断でいちばん大事なのは、「何が任せられて、何は人が残るのか」を正しく見積もることです。過度な期待で全自動化を狙うと、かえって顧客満足を下げます。
自動化しやすい電話
- 予約の受付・変更・確認(飲食店、クリニック、サロン、修理受付など)
- よくある問い合わせ(営業時間、場所、料金、在庫や納期の定型回答)
- 一次受付と取次(用件を聞いて担当部署へ転送、または折り返し予約)
- 営業時間外・混雑時の受け皿(24時間365日、待たせずに用件だけ確保)
とくに営業時間外の着信は、これまで機会損失になりがちだった領域です。AIが用件を聞いてSMSやメール、チャットへ通知しておけば、翌朝すぐに折り返せます。
まだ人が残る電話
- クレームや感情的なやり取りなど、共感と柔軟な判断が要る対応
- 金額交渉・例外対応・イレギュラーな相談
- 聞き取りづらい環境(騒音・専門用語・強い方言)での長い会話
現場では「一次対応の8割はAI、残りの複雑な2割は人」といったすみ分けから始めると、無理なく効果が出やすくなります。
導入のメリットと、正直な注意点
メリットだけでなく、導入前に知っておくべき注意点も併せて挙げます。
主なメリット
- 人手の解放:定型電話が減り、スタッフが本来の業務に集中できる。
- 取りこぼし防止:営業時間外・多回線着信でも用件を確保でき、機会損失を減らせる。
- 記録の自動化:通話の文字起こし・要約が残り、対応品質の平準化や引き継ぎに使える。
導入前に押さえたい注意点
- 音声認識は100%ではない:固有名詞・型番・住所などは聞き間違いが起きうるため、復唱確認や人への切替導線を必ず用意する。
- 通話料や転送料が別途かかる:月額のほかに通話・転送の従量課金が乗ることが多いので、想定コール数で試算する。
- 「AIが出る」ことへの心理的抵抗:冒頭で用途を明確に案内し、いつでも人につながる逃げ道を残すと安心感が高まる。
AI電話応対を実現する3つの方法
実現手段は、コストと自由度のバランスで大きく3タイプに分かれます。自社の目的に合うものを選びましょう。
方法 | 向いているケース | 費用感の目安 | 自由度 |
|---|---|---|---|
クラウド型AI電話サービス | まず小さく始めたい・定型対応が中心 | 月額0円〜数千円台+従量(番号維持費・通話料は別途) | 中(設定範囲で調整) |
既存の電話・PBXにAIを連携 | 今の番号や体制を変えたくない | 中〜(連携開発が発生) | 中〜高 |
独自AI(オーダーメイド構築) | 自社の業務フロー・基幹システムと深く連携したい | 高(要件次第) | 高(自由に設計) |
もっとも手軽なのはクラウド型のAI電話サービスです。代表的な例として、無料枠のあるプランから始められ、AIが用件をヒアリングして振り分け・録音・文字起こし・要約まで行うサービスがあります。
一方で、予約システムや顧客管理、在庫データなどと連携して「電話で受けた内容をそのまま社内システムへ書き込む」ところまで踏み込みたい場合は、パッケージの設定だけでは足りず、自社仕様の作り込みが必要になります。ここが独自AI開発の出番です。
電話以外のチャネルと組み合わせる
電話応対の自動化は、単体で完結させるより、他の顧客接点と組み合わせると効果が伸びます。たとえば予約が多い業種なら、電話のボイスボットと合わせてLINE予約をAIで自動化|自動応答・リマインド自動送信の作り方【2026】も検討すると、電話・Web・LINEのどこから来ても取りこぼしません。日常のやり取りが多い顧客には、LINE公式アカウントのAI Bot構築ガイド|自動応答で顧客対応・集客を加速する方法を併用すると、電話に集中していた問い合わせを分散できます。
自社の電話業務はどのタイプの自動化が要るか(4分類で切り分ける)
資料請求や相見積もりに進む前に、自社が必要としているのは次の4タイプのどれなのかを先に決めてください。世の中には性質のまったく違う製品が同じ棚に並んでおり、ここを決めずに比較を始めると、各社の説明を聞くほど分からなくなります。判断材料は難しくありません。「いま自社でいちばん困っている電話は何か」——それだけです。
候補 | 自社にこれが要るのは、こういうとき | 自分に投げる一言質問 |
|---|---|---|
番号のプッシュ操作で分岐する自動音声(IVR) | 受ける人手は足りていて、困っているのは「誰に回すか」の振り分けだけ。用件の種類が少なく、事前に選択肢を用意しきれる | 「うちの電話は、相手の話を聞かなくても番号の押し分けだけで正しい担当に届くか?」 |
話し言葉を聞き取るAI(ボイスボット) | そもそも出られていない。時間外・昼休み・話中の取りこぼしが痛い。用件を聞き取って記録・折り返し受付まで無人でやりたい | 「相手が何と言ってくるか、こちらで選択肢を用意しきれるか? 無理なら、こちら」 |
人のオペレーターによる電話代行・秘書代行 | 件数は多くないが、応対品質を1件も落としたくない。相手が高齢だったり、機械音声への抵抗が強い顧客層 | 「1日の着信は何件か? 数件しかないなら、人に頼むほうが安く済むこともある」 |
チャットボット(Web・社内向け) | 電話そのものより「同じ質問が何度も来ること」が問題。電話でなくても相手が困らない用件が多い | 「この質問、Webやチャットで答えても相手は困らないか? 困らないなら電話を減らす方が先」 |
大事なのは、この4つは排他ではないということです。実務では「入口の簡単な振り分けはIVR、その先の用件ヒアリングはボイスボット、AIが手に負えない分だけ人へ転送」という組み合わせに落ち着くことがほとんどです。選ぶべきは「どれか1つ」ではなく、自社の着信のうち、どの割合をどのタイプに割り当てるかです。
4分類の当てはめは、この順で考えると外さない
- 出られていない電話があるかを先に見ます。あるなら、その受け皿としてボイスボットが第一候補です。人手の削減より、取りこぼしの回収のほうが効果を測りやすいためです。
- 出られてはいるが手が止まるのが問題なら、止めている原因が「振り分け」なのか「用件の聞き取り」なのかを分けます。前者ならIVRで足り、後者ならボイスボットが要ります。
- 件数が少なく、1件あたりの重みが大きいなら、AIより電話代行のほうが総額で安いことがあります。ここは見栄を張らず正直に比べてください。
- 同じ質問の繰り返しが主因なら、電話の自動化より先に、Web側の案内やチャットボットで着信そのものを減らすほうが投資効率が高くなります。
呼ばれ方 | 中身 | 向く用途 |
|---|---|---|
自動音声応答(IVR) | 録音した音声を流し、番号のプッシュ操作で分岐する。AIは使っていないことも多い | 用件を部署へ振り分けたいだけ |
ボイスボット(音声AI) | 話し言葉を音声認識し、AIが意図を解釈して会話・ヒアリング・要約まで行う | 用件を聞き取って記録・取次まで無人でやりたい |
電話代行・秘書代行 | 人のオペレーターが代わりに応対し、内容をメール等で通知する(AIではない) | 有人品質が必要・件数が少ない |
社内向けの自動応答(チャットボット) | 電話ではなくチャット上で質問に自動回答する | 社内の問い合わせ削減が目的 |
この記事が主に扱うのは、2番目のボイスボットを軸にした始め方です。なお選定でいちばん多い取り違えは1番目のIVRとの混同で、「AI搭載」と書かれていても実態は分岐メニューだけ、という製品もあります。資料請求の前に「自由に話した用件を聞き取れるのか、それとも番号の押し分けか」を一言確認しておくと、無駄な比較検討を丸ごと省けます。各タイプの定義や、主要サービスの機能・料金の横並び比較はAI電話自動応答(ボイスボット)とは|一次対応の無人化と選び方【2026】に譲りますので、製品選びの段階に入った方はそちらをご覧ください。
ここから先は、タイプが決まった前提で「では自社で何から手を付けるか」を具体的に見ていきます。既製サービスの設定範囲を超えて、予約台帳や基幹システムと双方向に連携させたい場合は、途中で独自AI開発という選択肢も出てきます。まだ判断がつかない段階でしたら、現状の電話の棚卸しからご一緒することもできますので、下の窓口からお気軽にどうぞ。
中小企業の電話応対自動化:規模別の始め方と月額の考え方
電話応対のAI化は「大企業のコールセンターの話」と思われがちですが、実際に効き目が大きいのは電話番の専任がいない小さな組織です。人手不足で一人が電話も現場も抱えている会社ほど、中断が減った効果がそのまま日々の仕事量に返ってきます。規模ごとの現実的な入り方を整理します。
1〜5名(電話番の専任がいない)
まず営業時間外と昼休みだけをAIに任せます。日中は今までどおり人が出て、出られない時間帯の用件だけを確実に確保する形です。クラウド型サービスなら初期費用0円・月額数千円台から始められる価格帯があり、失敗しても損失は小さく済みます。最初から日中を無人化しないのがコツで、通話の文字起こしを1〜2週間眺めてから範囲を広げると、聞き間違いの癖が先に分かります。
6〜30名(取次が業務を止めている)
この規模で最も効くのは電話の取り次ぎの自動化です。「〇〇さんお願いします」を人が受けて呼び出す往復は、1件あたりは短くても回数が多く、受けた側と呼ばれた側の両方の集中を切ります。AIに社名・氏名・用件を聞き取らせ、担当者のチャットやSMSへ通知して折り返してもらう形に変えると、取次の呼び出しそのものが不要になります。「不在時は折り返し受付に切り替える」まで含めて設計すると、伝言メモの書き漏れも同時に消えます。
31名以上/店舗が複数ある
拠点や店舗ごとに番号と応対ルールが分かれてくるため、設定を一元管理できるかと予約台帳・顧客管理と連携できるかが選定の軸になります。ここまで来ると既製サービスの設定範囲で足りるかどうかの見極めが必要で、足りなければ次章の独自AIの検討に進みます。
月額の試算で見落とされがちな費目
月額料金だけを比べても、実際の請求額とはずれます。試算に入れておくべき費目は次のとおりです。
- 電話番号の維持費:新しく番号を取る場合、月額とは別にかかることがあります。
- 着電・通話の従量課金:着電数や通話時間に応じた課金が乗るのが一般的です。想定コール数を月単位で数えてから見積もってください。
- 転送料:AIから有人へ転送する構成では、転送分の通話料が別途発生します。「結局ほとんど転送になる」設計だと、削減効果より転送料が上回ることがあります。
- 設定・保守の手間:金額には出ませんが、シナリオの見直しに毎月いくらか時間を使います。誰が担当するかを先に決めておいてください。
逆に言えば、「AIが受けた用件がそのまま記録・通知として残るか」で費用対効果はほぼ決まります。電話に出てくれるだけで手元に何も残らなければ、結局あとで聞き直す手間が発生し、削減にはなりません。
失敗しない導入ステップ
いきなり全社導入せず、次の順で小さく始めるのが定石です。
- 自動化する電話を1つ決める:まず「予約受付だけ」「営業時間外だけ」など対象を絞る。
- 会話の台本(シナリオ)を書き出す:よくある用件と分岐、聞き返し、人への切替条件を紙に起こす。
- 小さくテスト運用:一部の番号・時間帯だけで試し、文字起こしを見ながら聞き間違いや離脱を潰す。
- 通知・記録の連携を整える:受けた用件をSMS・メール・チャットへ流し、折り返し漏れをなくす。
- 範囲を広げる:効果を確認しながら、対象の電話や時間帯を段階的に拡大する。
この「1つに絞って→計測しながら広げる」進め方なら、初期投資を抑えつつ、自社に合うすみ分けを実データで見つけられます。
導入前の1週間でやる「着信の棚卸し」
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい工程です。見積もりを取る前に、自社の電話を1週間だけ数えてください。専用ツールは要りません。紙1枚とスプレッドシート1枚で足ります。この1週間があるかないかで、その後の選定・設定・費用対効果の判断がまったく変わります。数えていない会社は、たいてい「感覚では多いと思っていた用件」が実際は3番目以下だった、という結果になります。
記録票は5列でいい
電話機のそばに紙を置き、着信のたびに丸を付けるだけの表を作ります。書く欄が多いと必ず続かないので、次の5列に絞ってください。
列 | 書き方(1件5秒で済む形にする) | あとで何の判断に使うか |
|---|---|---|
時刻 | 時と分だけ。秒は要らない | 何時台をAIに任せるか。時間外だけで足りるのか、昼休みと話中も要るのか |
相手の区分 | 「既存客/新規/取引先・業者/営業電話」の4つに丸 | 営業電話の比率。ここが高い会社は、それを弾くだけで投資が回収できることがある |
用件 | 初日だけ自由記述。2日目からは初日に出た用件を選択肢にして丸を付ける | 自動化する用件の選定。実際に対象になるのは上位3件だけ |
結末 | 「その場で回答/折り返し約束/担当へ取次/伝言だけ/出られなかった」の5択 | 無人化できる上限。「聞いて記録して終わり」の割合が、そのまま自動化の天井になる |
所要 | 「1分未満/1〜3分/3分以上」の3段階だけ | 取り戻せる時間の見積り。月額いくらまで払う価値があるかの根拠になる |
数えるときのコツと、いちばんの見落とし
- 完璧に取ろうとしない。忙しいときほど記入が飛びますが、3割取りこぼしても傾向は出ます。「正確な件数」ではなく「順位」を知るための作業だと割り切ってください。
- 出られなかった電話こそ本命です。紙に書けるのは出た電話だけなので、1日の終わりに着信履歴を開いて、応答しなかった件数と時刻を書き足します。ここが最大の見落としで、多くの会社では「出られなかった時間帯」がそのまま自動化の第一候補になります。
- 業種によっては1週間では足りません。月末に請求関連が集中する、月初に予約が偏る、季節性が強い——こうした場合は、繁忙の1週間と平常の1週間の2本を取ります。1週間しか取れないなら、少なくとも「これは平常の週ではない」と自覚したうえで判断してください。
- スプレッドシートへの転記は週末に1回でいい。毎日入力させると続きません。作る集計は1枚だけ、縦に時間帯・横に用件のクロス集計です。これを見れば、どの時間帯のどの用件から手を付けるかは自動的に決まります。
- 録音や通話ログがある会社も、既存データで代用しない。ログは「かかってきた事実」しか教えてくれません。棚卸しで知りたいのは結末と所要、つまり人がどれだけ手を取られたかであって、それは受けた本人にしか書けません。
1週間後に出る、3つの数字
集計すると、意思決定に必要な数字が3つ出ます。
- 自動化候補の件数=「上位3用件」かつ「結末が回答・伝言・折り返し」の件数。これがAIに任せられる上限です。
- 取り戻せる時間=その件数×平均所要。実際には中断からの復帰時間も乗るので、体感としてはこれより大きくなります。
- 払っていい月額の上限=取り戻せる時間×その人の時間単価。これを超える見積もりは、機能がどれだけ良くても見送ってよい、という線が引けます。
さらに副産物があります。この集計はそのまま見積もり依頼の資料になります。「1日◯件、うち時間外◯件、上位用件は予約変更・営業時間の確認・担当者への取次」と書いて各社に渡すと、返ってくる見積もりの前提が揃い、初めて横並びで比べられるようになります。棚卸しをしていない状態での相見積もりは、各社が別々の想定で出した数字を並べているだけで、比較になっていません。
AIに渡さない用件をどう決めるか(有人へ戻す線引き)
自動化の範囲を決めるとき、判断軸を増やすほど決まらなくなります。実務で使える軸は1つで足ります——「AIが間違えたとき、あとから取り返せるか」。取り返せるものは渡し、取り返せないものは渡さない。これだけです。
用件 | AIに渡すか | 理由(間違えたときに取り返せるか) |
|---|---|---|
営業時間・場所・駐車場・料金の確認 | 渡す | 言い間違えても訂正が効く。損失が小さく、件数が多いので効果が出やすい |
予約の新規受付 | 渡す(復唱確認つき) | 台帳に残るので、後から人が見て直せる。日時と氏名は必ず復唱させる |
予約の変更・キャンセル | 条件付き | 既存の予約を書き換える操作なので、取り違えると二重予約や無断キャンセル扱いになる。「受付だけAI、台帳への反映は人」にすれば渡してよい |
折り返し依頼・担当者への取次 | 渡す(社名・氏名・番号を復唱) | 記録さえ残れば人が後追いできる。番号の聞き間違いだけが致命傷なので、そこは必ず復唱させる |
クレーム・お叱りの電話 | 渡さない | 一次対応の態度そのものが結果を決める。「聞き取れませんでした」を繰り返した時点で、用件とは別の怒りが増える |
金額・納期の交渉、値引きの相談 | 渡さない | その場の返答が約束として扱われる。取り消すには信用を使うことになる |
事故・故障・体調不良など緊急の連絡 | 渡さない(最優先で即転送) | 遅れがそのまま実害になる。折り返し受付に落としてはいけない唯一の分類 |
採用の応募・求人の問い合わせ | 渡す(受付のみ) | 連絡先を聞いて折り返せば足りる。ただし感じの悪い一次対応は応募辞退に直結するので、案内文だけは丁寧に作る |
線引きを実際の設定に落とす3ステップ
- 棚卸しで出た用件リストに○×を付ける。上の表をそのまま流用せず、自社の言葉で書かれた用件1件ずつに「取り返せるか」を判定します。判断がつかないものは、最初の1か月は×にしてください。
- ×の用件は「この言葉が出たら即転送」のキーワードとして登録する。ここでよくある失敗が、「クレーム」「緊急」といったこちら側の分類名を登録してしまうことです。相手はその言葉を使いません。実際に受話器の向こうで出るのは「聞いてない」「話が違う」「壊れた」「動かない」「返金してほしい」「責任者を出して」「担当者に代わって」といった言葉です。過去の通話を思い出して、生の言い回しのまま書き出してください。
- 転送先が出られなかったときの落とし先を決める。ここを決めていない設計が、いちばん多い事故です。留守番電話に落とすのか、折り返し受付に戻すのか、代表者の携帯に回すのか。決めていないと、いちばん怒っている相手が、いちばん長く待たされることになります。
冒頭10秒の案内文で、線引きの半分は決まる
設定の話に見えて、実は文章の話です。AIが出た直後の10秒で①AIが応対していること ②人につなぐ言い方の2つを伝えるだけで、渡してはいけない用件の多くが入口で自動的に人へ流れます。「担当者を出して、とおっしゃっていただければ、すぐ担当におつなぎします」と最初に言われた相手は、込み入った話をAIに続けようとしません。シナリオを何十本も書くより、この2文を丁寧に作るほうが効きます。
なお録音については、個人情報保護委員会のFAQで、通話内容から特定の個人を識別できる場合は個人情報に該当する一方、個人情報保護法上「録音していることを伝える義務」までは課されていない(利用目的の通知・公表は必要)と整理されています。義務ではありませんが、実務上は冒頭で一言告げておくほうが、後のトラブルはほぼ確実に減ります。記録の残し方や委託先の監督といった扱いの詳細は、姉妹記事のAI電話自動応答(ボイスボット)とは|一次対応の無人化と選び方【2026】にまとめています。
うまくいかなかったときに、元の受電体制へ戻す手順
導入の相談で意外と抜けているのが、この観点です。「入れるかどうか」より先に「戻せるかどうか」を確認してください。戻せる状態を保っておけば、思い切って範囲を広げられます。逆に戻せない設計にしてしまうと、うまくいっていないと分かった後も、惰性で使い続けることになります。
「戻せる状態」を作る4条件
- 元の着信経路を生かしたままにする。既存番号にかかってきた呼をAIへ転送する構成なら、転送設定を解除するだけで元に戻ります。逆に、サービス側で発番した新しい番号を名刺・チラシ・Googleビジネスプロフィール・看板に載せてしまうと、解約時に告知をやり直すことになります。最初の3か月は、新しい番号を対外的に広告しないと決めておいてください。
- 解除の手順を紙1枚にしておく。「どこの管理画面で・どのIDで・何を押すと・何分で戻るか」を書いた1枚を、電話機のそばに置きます。設定した本人が休みの日に誰も戻せない構成は、実質的に戻せない構成です。
- 受けた用件の記録を、自社側にも残す。解約するとサービス上の通話ログや文字起こしは参照できなくなります。週1回でよいので、CSVの書き出しか通知メールの自動転送で、自社のフォルダに落としておきます。戻す判断の根拠も、戻した後の引き継ぎも、この記録がないとできません。
- 元の受電当番を、すぐには消さない。AIを入れた月に受電担当を他の業務へ完全に移してしまうと、戻したくても人が空いていません。最初の1か月は当番表を残したまま「鳴らない当番」として置いておき、2か月目以降に減らします。
戻す判断は、感覚ではなく決めた数字で
「なんとなくうまくいっていない」で止めると、次に試すときの学びが残りません。導入前に、次の3つを見る約束をしておきます。
- 折り返し漏れ:週に1件でも「AIが受けたのに折り返せなかった」が出たら、その用件だけAIから外します。全体を止める必要はありません。
- 有人転送率:AIが受けた電話のうち、結局人につないだ割合を週1回数えます。この割合が週を追って上がっていくなら、設計が業務に合っていません。逆に下がっていくなら、多少高くても続ける価値があります。何割を超えたら見直すかは、棚卸しで出した「自動化候補の件数」から自社で決めてください。
- 顧客からの指摘:「電話が繋がらない」「機械しか出ない」と一度でも言われたら、その時間帯だけ即座に有人へ戻します。ここだけは数字を待ちません。
全部止める前に、段階的に戻す
戻し方にも順番があります。①時間帯を戻す(日中だけ人に戻し、時間外はAIのまま)→ ②用件を戻す(予約変更だけ人に戻す)→ ③全解除、の順です。いきなり全解除すると、せっかく拾えていた時間外の着信まで取りこぼしに逆戻りします。実際には②までで収まることが多く、その時点で「自社にとって自動化できる範囲はここまで」という答えが出ています。これは失敗ではなく、棚卸しでは分からなかった線引きが実測で確定した、ということです。
自社の業務に合わせるなら独自AIという選択
もうひとつの選択肢が、ボイスボットのSaaSを契約せずAPIで自作する内製です。2026年9月にOpenAIのGPT-Live 1が一般提供となり、テレフォニー接続が公式に用意されました。とはいえ全社に勧められるものではないので、AI電話応対を内製するか外注するかを3つの軸で判断する記事で、必要な構成と向き不向きを確認してください。モデル自体の対応プランと制約は、リアルタイム音声AI2強の料金と使える範囲をまとめた記事で確認できます。
既製サービスで足りるならそれが一番です。ただ、実際の相談で多いのは「予約台帳や基幹システムと連携させたい」「自社独自の言い回し・商品知識で答えさせたい」「電話の内容を社内の他ツールへ自動で流したい」といった、パッケージの範囲を超えるご要望です。こうしたケースでは、業務フローに合わせてAIをオーダーメイドで組み上げる独自AI開発が適しています。
私たちMihataでも、電話・チャット・社内ナレッジなどをつなぐAIの構築支援を行っています。とはいえ、いきなり開発をご提案することはありません。前章までの棚卸しの集計と、渡す/渡さないの線引きを一緒に見て、「既製サービスの設定で足ります」という結論になることも普通にあります。「自社の場合はどこまで自動化できるのか」を整理するところからで構いませんので、よろしければお気軽にご相談ください。
まとめ
AIによる電話応対の自動化は、全自動化を目指すものではなく、定型の一次対応をAIに任せて人を複雑な対応に集中させる取り組みです。進め方としては、①1週間の棚卸しで自社の着信を数える → ②「間違えても取り返せるか」で渡す用件と渡さない用件を分ける → ③戻せる状態を作ったうえで、時間帯か用件を1つだけ自動化する → ④有人転送率と折り返し漏れを週1回だけ見る、の順が最も無理がありません。製品の比較は②が終わってからで十分間に合います。そのうえで、予約台帳や基幹システムとの連携など既製サービスの範囲を超える要件が出てきたときに、初めて独自AIを検討してください。
出典・参考
よくある質問
電話応対の自動化は、何から手を付ければいいですか?
製品選びではなく、自社の着信を1週間数えるところからです。紙1枚に「時刻・相手の区分・用件・結末・所要」の5列だけ書き、1日の終わりに着信履歴から出られなかった件数を足します。上位3用件と、出られていない時間帯が分かれば、自動化する対象は自動的に決まります。この集計はそのまま見積もり依頼の資料にもなり、各社の見積もりを同じ前提で比べられるようになります。
どの用件をAIに任せて、どれを人が受けるべきですか?
判断軸は「AIが間違えたとき、あとから取り返せるか」の1つで足ります。営業時間や場所の案内、予約の新規受付、折り返し依頼の受付は記録が残るので渡せます。逆に、クレーム、金額・納期の交渉、事故や故障など緊急の連絡は、その場の対応が結果を決めてしまうため渡しません。予約の変更・キャンセルは中間で、「受付だけAI・台帳への反映は人」にすれば任せられます。
うまくいかなかった場合、元の電話体制に戻せますか?
次の4つを守っていれば戻せます。(1)既存番号からの転送でAIにつなぐ構成にし、新しい番号を名刺やチラシに載せない(最初の3か月は広告しない)。(2)解除手順を紙1枚にして電話機のそばに置く。(3)通話の記録を週1回は自社側にも書き出しておく。(4)最初の1か月は受電当番を残す。戻すときは全解除ではなく、時間帯を戻す→用件を戻す、の順で段階的に行います。
中小企業でも電話応対の自動化は始められますか?
始められます。クラウド型のAI電話サービスには、公式の料金ページで月額0円(月30着電まで)のプランや月額3,980円〜のプランが公開されているものもあります。ただし同ページに「電話番号維持費、従量利用料金が別途かかります」と明記されているとおり、月額だけでは実際の請求額になりません。棚卸しで出した想定コール数をもとに、従量分まで含めて試算してから導入してください。