電子ペーパーの残像が消えないのは、ほとんどの場合は故障ではありません。E Ink の画面は液晶のように自分で光を出すのではなく、カプセルの中で帯電した顔料粒子を電気で動かして絵を作っています。粒子が前の位置から動き切らずに残ると、それが薄い影=残像(ゴースト)として見えます。ですから対処は「壊れたものを直す」ではなく、画面全体を白と黒で塗り直す全画面リフレッシュで、粒子を並べ直すことです。
E Ink Corporation の公式説明では、全画面の更新は最短 120 ミリ秒。画面は双安定(bi-stable)で、更新している間しか電力を使いません。電源を切っても絵が残るのは故障ではなく、この双安定という性質そのものです。
なぜ残像が出るのか|粒子が動き切っていないだけ
E Ink の公式解説によると、ひとつひとつのマイクロカプセルの中には、負に帯電した白い粒子と正に帯電した黒い粒子が透明な液体に浮いています。電界をかけると対応する粒子がカプセルの上側へ移動し、見る側からは白または黒として見えます。カプセルの大きさは「人の髪の毛の直径ほど」と説明されています。
つまり画面の表示は、光の明滅ではなく物理的な粒子の移動です。reMarkable の公式サポートも、残像(image retention)は「本物の物理的な粒子が一度の動作で完璧に着地しないことがある」ために起きると説明しています。
電源を切っても絵が残るのは「双安定」だから
E Ink の FAQ には「すべての E Ink ディスプレイは双安定である。更新している間だけ電力を消費し、更新後に画像を保つための電力は不要」と明記されています。電池が切れた Kindle の画面に広告が残り続けるのは、この性質によるものです。
この「電力なしで絵が残る」長所と、「前の絵が消えにくい」短所は同じコインの裏表です。残像をゼロにできる設定は存在せず、どのタイミングで何回塗り直すかを選ぶのが現実的な付き合い方になります。
部分更新は、変わった場所だけを塗り替える
E Ink の公式説明では「双安定なので、変化している領域だけを更新すればよい。変化していない画素は更新を必要としない」とされています。これが部分更新(partial update)で、ページ送りが速く、電力も食わない代わりに、塗り替えなかった画素のコントラストが前の状態を引きずります。
対して全画面リフレッシュは、画面全体を白→黒→白と数回振って全画素をリセットします。Amazon の Kindle ユーザーズガイドも「ときどき画面全体が点滅することがある。これは端末が画面表示をリフレッシュしているもので、画面の正常な機能の一部です」と説明しています。あの一瞬の黒い点滅が、残像を消している瞬間です。
症状別|原因と対処の早見表
残像は見え方で原因の当たりが付きます。手元の症状に近い行から試してください。
症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
全体に薄い残像がうっすら乗る | 部分更新が続き、画素のコントラストがずれている | 全画面リフレッシュを1回かける。リフレッシュの間隔を短く設定する |
文字や図の形で濃く残る | 画像・図表・漫画など情報量の多いページを部分更新で送った | ページ送りごとのリフレッシュをオンにする(Kindle の「ページのリフレッシュ」など) |
画面の一部だけに残る | そのアプリが高速側のリフレッシュモードで描画している | アプリ内のリフレッシュモードを精細側(BOOX なら HD/Regal)へ変える |
全面が白っぽく、黒が締まらない | 低温・高温で粒子の応答が鈍っている | 動作温度の範囲(多くの E Ink パネルは0〜50℃)に戻してから全画面リフレッシュ |
再起動しても同じ形が残る | 同じ画面を長期間出し続けたことによる焼き付き、またはパネルの不具合 | 全白・全黒の画像を数回表示する。消えなければメーカーサポートへ |
機種別のリフレッシュ設定(公式ドキュメントで確認できたもの)
メニュー名はメーカーごとに違います。ここでは各社の公式ドキュメントに記載があるものだけを挙げます。記載が見つからなかった機種は、推測で書くと誤操作につながるため割愛しました。
Kindle|ページのリフレッシュ(Page Refresh)
Amazon の Kindle ユーザーズガイドでは、通常の書籍は「クイックアクション → すべての設定 → 読書オプション」から Page Refresh を設定します。漫画・コミック・絵本では、オーバーフローメニュー(三点アイコン)から「Page Refresh On/Off」を切り替えます。
既定では「速くなめらかなページ送り」が優先され、リフレッシュ回数は最小化されています。残像が気になるなら毎ページのリフレッシュをオンにするのが素直な対処です。ただしページ送りに黒い点滅が毎回入るので、速さと引き換えになります。
BOOX|4つのリフレッシュモードから選ぶ
BOOX は BSR(BOOX Super Refresh)として HD・Balanced・Fast・Ultrafast の4モードを公式に案内しています。公式説明では HD モードが「印刷された本のように、残像がもっとも少ない鮮明な文字」、Fast モードは「スクロールの多い用途向けで、わずかな残像は出るが反応が良い」、Ultrafast は「動画やアプリの操作向けで、細部は失われる」とされています。
残像を減らしたいなら、読書中は HD または Balanced を選ぶのが公式の意図に沿います。逆にブラウザやアプリを快適に動かしたい場面では、残像を承知のうえで Fast 側を選ぶ、という使い分けになります。
Kobo|何ページごとにリフレッシュするかを数で決める
Kobo は公式ブログで、読書中にページ中央をタップ → メニューアイコン → Advanced Settings → Page Refresh から「1〜6」の数を選び、何回のページ送りごとに全画面リフレッシュを入れるかを指定できると案内しています。設定は開いている本だけでなく、すべての本に適用されます。
ただしこの案内は eReader Touch 向けの更新(1.9.3)時のもので、現行モデルのヘルプには同じ項目の記載が見当たりませんでした。手元の端末でメニューが見つからない場合は、世代によって項目が整理された可能性があります。
reMarkable|自動のリフレッシュを待つ
reMarkable の公式サポートは、残像が出たときは「画面のリフレッシュを待てばよい」としています。画面が時々点滅するのは、粒子を所定の位置に戻すためのパルスであり、これがリフレッシュそのものだという説明です。ユーザーがリフレッシュ回数を数値で指定する設定は、公式ドキュメントでは案内されていません。
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それでも消えないとき|長期の焼き付きとコントラスト低下
全画面リフレッシュを数回かけても同じ形が残る場合は、残像ではなく焼き付き(image sticking)に近い状態です。同じ画面を長期間出し続けた端末や、電源を切ったまま同じ絵を長く保持していた端末で起こりやすくなります。
この段階でできることは、全白と全黒の画像を交互に数回表示して全画素を大きく振ること、そして端末を動作温度の範囲に戻して再度試すことです。それでも残るなら、ユーザー側の設定で解決できる範囲を超えています。保証期間内であればメーカーサポートに連絡するのが結果的に早いです。
画面全体が白っぽく、黒が以前ほど締まらない場合は、残像ではなくパネル自体のコントラスト低下の可能性があります。こちらは設定では戻りません。有機ELの焼き付きとは原因が違うので、スマホ側の話はスマホ時計の常時表示とバッテリー・焼き付きの解説をご覧ください。
残像を増やさない3つの予防
リフレッシュ間隔を用途に合わせる
文字だけの本なら既定のままで困りません。図表・漫画・PDF を読む時間が長いなら、ページ送りごとのリフレッシュをオンにしておくほうが結局は快適です。
画面を強く押さない・拭くときも力を入れない
E Ink パネルは粒子と液体の層をフィルムで挟んだ構造です。Kobo の公式ヘルプも画面の清掃について「柔らかい、糸くずの出ない布でやさしく拭く」「画面に過度な圧力をかけない」と明記しています。ケースに入れたまま重い物の下に置く、カバンの中で押し続けるといった扱いは避けてください。
温度と湿度の範囲を守る
E Ink の FAQ では、多くのディスプレイの動作温度は0〜50℃、屋外向けの一部で-15〜65℃とされています。真夏の車内や冬の屋外は、この範囲を簡単に超えます。低温では粒子の動きが鈍って残像が残りやすくなり、高温は部材そのものを痛めます。高温多湿の場所での保管・充電も避けるのが無難です。
端末を置き時計やサイネージとして常時表示で使うなら、同じ絵を出し続けない工夫が要ります。やり方は受付サイネージの時計を無料で作る方法と画面を消さずに時計だけ出す設定で具体的に触れています。ブラウザで動く時計そのものは集中時計から試せます。
まとめ
電子ペーパーの残像は、帯電した顔料粒子が動き切っていないだけの正常な挙動です。全画面リフレッシュで粒子を並べ直せば消え、消えないなら焼き付きかパネル側の問題と切り分けられます。まずは症状の見え方で当たりを付け、機種の公式設定でリフレッシュの頻度を用途に合わせてください。
端末の活用やブラウザツールの作り込みでお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
よくある質問
電子ペーパーの残像は故障ですか?
ほとんどの場合は故障ではありません。E Ink の画面は帯電した顔料粒子を電気で動かして表示するため、粒子が動き切らずに前の絵が薄く残ることがあります。全画面リフレッシュをかけて消えるなら正常な挙動です。
電源を切っても画面に絵が残るのはなぜですか?
E Ink のディスプレイは双安定(bi-stable)で、更新している間だけ電力を使い、更新後に画像を保つための電力は不要です。電池切れの画面に絵が残るのはこの性質によるもので、充電して更新すれば消えます。
全画面リフレッシュと部分更新は何が違いますか?
部分更新は変化した画素だけを塗り替えるため速くて省電力ですが、塗り替えなかった画素が前の状態を引きずります。全画面リフレッシュは画面全体を白と黒で振って全画素をリセットするため、残像が消える代わりに黒い点滅が入ります。
Kindle で残像を減らす設定はどこですか?
Amazon のユーザーズガイドでは、書籍はクイックアクション→すべての設定→読書オプションの Page Refresh、漫画やコミックは三点アイコンから Page Refresh On/Off で切り替えます。既定ではリフレッシュ回数が最小化されています。
リフレッシュしても同じ形が残る場合はどうすればいいですか?
残像ではなく焼き付きに近い状態です。全白と全黒の画像を交互に数回表示し、端末を動作温度(多くは0〜50℃)の範囲に戻して再度試してください。それでも残る場合はメーカーサポートへ連絡するのが確実です。