「BGMを作りたいが、フリー素材だと他社と被る」「動画やアプリの音楽を毎回買うのが手間」——そういう場面で候補になるのが、Google の音楽生成モデル Lyria 3 です。Gemini API から呼び出すと、テキストの指示だけで歌入り/インストの楽曲が返ってきます。
結論を先に書くと、料金は1曲あたり0.04〜0.08ドル(日本円でおよそ6〜12円)で、無料枠はありません。また生成された音声には必ず SynthID という電子透かしが入ります。この2点を知らずに検証を始めると、見積もりと権利まわりの説明で必ず詰まります。この記事では、2026年8月30日時点の Google 公式ドキュメントと料金ページだけを根拠に、使い方・料金・注意点を整理します。
Lyria 3とは:Gemini APIから使える音楽生成モデル
Lyria 3 は Google の音楽生成モデルのファミリーで、Gemini API 経由で利用します。Gemini API のリリースノートによれば公開は2026年3月25日です。テキストのプロンプトから、ボーカル・歌詞・伴奏まで含んだ楽曲を生成します。画像を入力にして「この写真に合う曲」を作らせることもできます。
モデルは2本あります。
モデル | モデルID | 長さ | 出力形式 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
Lyria 3 Clip | lyria-3-clip-preview | 常に30秒 | MP3 | 短いクリップ、ループ、プロンプトの試し打ち |
Lyria 3 Pro | lyria-3-pro-preview | 数分(プロンプトで指定可) | MP3(WAV も指定可) | Aメロ・サビ・ブリッジを持つフル尺の曲 |
どちらもモデルIDに preview が付いています。つまり正式版(GA)ではありません。プレビュー版は予告のうえで停止されるのが通例なので、本番の仕組みに組み込むなら、モデル名を設定ファイルに切り出して差し替えられる形にしておくのが安全です。この考え方はAIモデル提供終了への企業の対応で詳しく整理しています。
なお音質について、公式ドキュメントには揺れがあります。ガイドページは「44.1kHz ステレオ」、公開当時のリリースノートは「48kHz ステレオ」と書いており、当サイトではどちらが現行仕様かを断定できませんでした。厳密な音質が要件になる案件では、実際に生成したファイルのプロパティで確かめてください。
料金:1曲0.04〜0.08ドル・無料枠なし
Gemini API の料金ページ(2026年8月30日確認)では、Lyria 3 はトークン課金ではなく1リクエスト=1曲あたりの定額です。
モデル | 無料枠 | 有料枠(1曲あたり) |
|---|---|---|
Lyria 3 Clip Preview(30秒) | 利用不可 | $0.04 |
Lyria 3 Pro Preview(フル尺) | 利用不可 | $0.08 |
感覚をつかむための試算です。1曲あたりの単価が固定なので、計算はとても単純になります。
- プロンプトを50回試す(Clip):$0.04 × 50 = $2。検証コストはほぼ無視できます。
- 動画100本ぶんのBGMを作る(Pro):$0.08 × 100 = $8。ストック音源の年間サブスクより安く収まる規模です。
- 結果がばらつくので3回作って1本選ぶ(Pro):実効単価は $0.24/採用1本。それでも安価です。
費用より先に効くのは「無料枠が無い」という一点です。Gemini API の他のモデルは無料枠で試せるものが多いので、同じ感覚で検証を始めると請求が発生します。逆に言えば、有料枠でしか使えないぶん、料金ページには「Used to improve our products(プロダクト改善への利用)」が有料枠では「No」と明記されています。入力したプロンプトや歌詞を学習に使われたくない業務利用では、この点はむしろ好都合です。
使い方:プロンプトに何を書くと結果が変わるか
Lyria 3 は単発の生成しかできません(後述)。そのため「あとで直す」のではなく、最初のプロンプトにどれだけ具体的に書けるかがすべてです。公式のプロンプトガイドが挙げている要素は次の7つです。
- ジャンル:「lo-fi hip hop」「ジャズフュージョン」「シネマティック・オーケストラ」など。複数の掛け合わせも可
- 楽器:「Fender Rhodes ピアノ」「スライドギター」「TR-808」のように具体名で
- BPM:「120 BPM」「70 BPM 前後のスローテンポ」
- キー・スケール:「G メジャー」「D マイナー」
- 雰囲気:「ノスタルジック」「攻撃的」「幻想的」
- 構成:
[Verse][Chorus][Bridge][Intro][Outro]のタグ、またはタイムスタンプ - 長さ:Pro のみ。「2分の曲を作って」と書くか、タイムスタンプで指定する
実務で効くのは、この先にある3つの指定方法です。
- 歌詞を自分で書いて渡せる:プロンプト内に
[Verse 1]などのタグ付きで歌詞を書くと、そのまま歌わせられます。社名やサービス名を入れた曲を作りたいときはこの形になります。指示文と歌詞は明確に分けて書く、というのが公式の推奨です。 - タイムスタンプで展開を指定できる:「[0:00 - 0:10] イントロはローファイのビートとレコードのノイズ」「[0:10 - 0:30] Aメロで Rhodes ピアノを足す」のように、秒単位で楽器の出入りを指示できます。動画の尺に合わせる用途ではここが本命です。
- インストだけにできる:「Instrumental only, no vocals.」と書けばボーカル無しになります。BGM・ゲーム音楽用途はこちらです。
また、テキストと一緒に画像を最大10枚まで入力でき、その視覚的な内容から曲を作らせることもできます。商品写真や店内の写真を渡して雰囲気を合わせる、といった使い方ができます。
日本語の歌詞は作れるのか
公式ドキュメントには「Lyria 3 はプロンプトの言語で歌詞を生成する。フランス語の歌詞が欲しければフランス語でプロンプトを書く。モデルは言語に合わせて歌い方と発音を変える」と書かれています。つまり日本語で書けば日本語の歌詞になるという設計です。
ただし対応言語の一覧は公開されておらず、日本語が名指しで挙げられているわけでもありません(例として示されているのはフランス語です)。日本語の発音品質については当サイトでも一次情報を確認できていないため、「日本語で歌える」と断定はしません。日本語の歌詞が要件なら、Clip モデルで数回試して品質を確かめてから本番の設計に入るのが安全です。1回0.04ドルなので、確かめるコストはほぼゼロです。
音声まわりの Gemini の他モデルとしては、文字起こし専用の Gemini 3.5 Transcribe、動画生成の Gemini Omni Flash があります。動画・ナレーション・BGM を1つのAPIキーで揃えられるのは、運用側から見ると地味に効きます。
先に知っておくべき5つの制約
公式の Limitations に書かれている制約は、どれも「あとから気づくと設計をやり直すことになる」種類のものです。
制約 | 内容 | 業務での意味 |
|---|---|---|
電子透かし | 生成音声には必ず SynthID の音声透かしが入る。人の耳には聞こえず、聴取体験には影響しない | 「AI生成であることが技術的に判別できる」前提で社内説明を作る |
安全フィルタ | 特定アーティストの声や、著作権のある歌詞を求めるプロンプトはブロックされる | 「あの曲っぽく」という指示は通らない前提で企画する |
単発生成のみ | マルチターンの編集に非対応。生成済みの曲を対話で直していくことはできない | 「直す」ではなく「作り直す」運用になる。単価が安いのはこのため |
長さの制限 | Clip は常に30秒。Pro は数分で、正確な長さはプロンプト次第 | 秒単位で尺を合わせたい動画では、書き出し後の編集が前提 |
非決定的 | 同じプロンプトでも結果は毎回変わりうる | 「同じ曲をもう一度」は再現できない。採用した音源ファイルは必ず保管する |
とくに最後の2つは、納品物として音源を扱う場合に効きます。気に入った曲は生成した時点でファイルを確保しておかないと、二度と同じものは手に入りません。プロンプトと生成日時をセットで残しておくのが最低限の運用です。
商用利用は可能か(当サイトが断定しない理由)
「作った曲を自社の動画や商品に使えるか」は、この種のツールで最も多い質問です。ただしこれは Lyria 3 の機能仕様ではなく、Gemini API の利用規約の話です。規約は改定されますし、無料枠と有料枠で扱いが違う項目もあります。当サイトでは、規約本文の解釈を代わりに断定することはしません。
確認すべきなのは次の3点で、いずれも Gemini API の利用規約ページで自分のアカウントの条件として読む必要があります。
- 生成物の権利がどう扱われるか(誰が何をできるか)
- 入力データがプロダクト改善に使われるか(料金ページ上は、有料枠は「No」と明記)
- プレビュー版モデルに固有の条件があるか(本番利用の可否・サポート範囲)
取引先へ納品する制作物に使うなら、規約のスクリーンショットと確認日を残しておくと、後から聞かれたときに説明できます。この「証跡を残す」考え方は、AIツール全般に共通する備えです。
中小企業がまず試すなら、この順番
導入判断の手順は3段階で足ります。
- 1. Clip で10回作る(コスト $0.40):自社の用途で使える品質か、日本語の歌詞が要るならその発音まで含めて確かめます。ここで駄目なら先へ進む必要はありません。
- 2. Pro でフル尺を3本作る(コスト $0.24):構成のあるフル尺で破綻しないかを見ます。タイムスタンプ指定の効き方もここで確認します。
- 3. 規約と運用ルールを決める:権利の扱い、モデル名の設定切り出し、採用音源とプロンプトの保管場所。ここまで決めてから業務に載せます。
合計1ドル未満で、採否の判断材料はそろいます。「AIで音楽を作れるか」ではなく「自社の用途で使える品質か」を1時間で確かめられるのが、このモデルのいちばん現実的な価値です。
Mihata では、こうした新しいAI機能を「面白そう」で終わらせず、自社の業務のどこに置くと効くのかという形に落とし込むご相談を受けています。どのモデルを使うかより手前の、業務の切り分けからご一緒します。
よくある質問
Lyria 3の料金はいくらですか?
Gemini APIの料金ページ(2026年8月30日確認)では、1リクエスト=1曲あたりの定額です。Lyria 3 Clip Preview(30秒)が$0.04、Lyria 3 Pro Preview(フル尺)が$0.08です。いずれも無料枠は「利用不可」と記載されています。
Lyria 3で日本語の歌詞は作れますか?
公式ドキュメントには「プロンプトの言語で歌詞を生成し、モデルは言語に合わせて歌い方と発音を変える」と書かれています。ただし対応言語の一覧は公開されておらず、日本語が名指しで挙げられているわけではありません(例示はフランス語)。日本語の発音品質は、1回$0.04のClipモデルで実際に試して確かめるのが確実です。
生成した曲はAI生成だと分かりますか?
はい。公式のLimitationsに、生成音声にはすべてSynthIDの音声透かしが入ると明記されています。人の耳には聞こえず、聴取体験には影響しないとされていますが、技術的にはAI生成であることを識別できる状態です。
生成した曲をあとから修正できますか?
できません。Lyria 3の音楽生成は単発(シングルターン)で、対話を重ねて修正・改善することは現行バージョンでは非対応と公式に明記されています。また同じプロンプトでも結果は毎回変わりうるため、気に入った曲は生成した時点で音源ファイルを保管しておく必要があります。
作った曲を商用利用できますか?
これはLyria 3の機能仕様ではなくGemini APIの利用規約の話なので、当サイトでは断定しません。生成物の権利の扱い、入力データがプロダクト改善に使われるか(料金ページ上は有料枠は「No」と明記)、プレビュー版モデル固有の条件の3点を、ご自身のアカウントの条件として利用規約ページで確認してください。
Lyria 3は正式版ですか?
いいえ。モデルIDが lyria-3-clip-preview / lyria-3-pro-preview といずれも preview で、正式版(GA)ではありません。プレビュー版は予告のうえ停止されることがあるため、本番の仕組みに組み込む場合はモデル名を設定ファイルに切り出し、差し替えられる形にしておくのが安全です。