Gemini 3.5 Transcribe は、2026年8月26日に一般提供(GA)が始まった Google の専用文字起こしモデルです。ファイル向けの gemini-3.5-transcribe と、WebSocket でリアルタイムに流す gemini-3.5-transcribe-live の2本立てで、日本語(ja-JP)を含む85言語以上を自動判別します。料金は音声1分あたりおよそ0.005ドル(Live は約0.009ドル)で、1時間の会議を1回文字起こしして0.3ドル前後という水準です。
これまで Gemini で音声を扱う場合は、Flash や Pro などの汎用モデルに音声を投げて「文字起こしして」と頼む形でした。今回はじめて音声認識専用の型番が用意され、話者分離・単語単位のタイムスタンプ・専門用語の登録といった、業務用の文字起こしに必要な機能が API のパラメータとして正式に出てきた、というのが今回の変化です。
2026年8月26日に何が出たのか(一次情報)
Google の Gemini API リリースノート(2026年8月26日付)に、次の2モデルが GA として掲載されています。
モデルID | 用途 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 音声ファイルの文字起こし(非ストリーミング) | 85言語超の自動判別、話者分離、単語単位のタイムスタンプ、カスタム語彙(最大1,000語) |
| リアルタイム文字起こし(Live API / WebSocket 双方向) | 途中経過と確定テキストのイベント、スマート整形、複数の VAD(音声区間検出)方式 |
紛らわしいのですが、これは「Gemini 3.5 Pro」とは別物です。3.5 Pro は2026年8月27日時点でも Google DeepMind のモデルページで「coming soon」の表示のままで、まだ提供されていません。3.5 という数字は共通していますが、先に出たのは音声認識の専用モデルのほうです。詳しくはGemini 3.5 Proがいつ公開されるのかを整理した記事にまとめています。
料金は音声1分あたり約0.005ドル
Gemini API の公式料金ページに記載されている単価は次のとおりです(無料枠でも試せます)。
モデル | 入力(音声) | 出力(テキスト) | 実効レート(公式試算) |
|---|---|---|---|
| 100万トークン2.00ドル = 約0.003ドル/分 | 100万トークン12.00ドル = 約0.002ドル/分 | 約0.005ドル/分 |
| 100万トークン3.50ドル = 約0.005ドル/分 | 100万トークン21.00ドル = 約0.004ドル/分 | 約0.009ドル/分 |
公式の試算は「音声は1秒あたり25トークン、テキストは1分あたり175トークン」という前提で置かれた目安です。実際の請求はトークン数で決まるので、早口や無音の多い音源では上下します。それでも桁感は掴めて、1時間の会議=約0.3ドル、月20本の議事録=約6ドルという規模です。人手で起こす、あるいは月額数千円の文字起こしサービスを契約する場合と比べる材料になります。
ただし単価だけで乗り換えを決めるのは早いと考えています。API を使う以上、音声のアップロード、出力の整形、保存先の用意はすべて自前です。既存の文字起こしサービスが提供している「録音・共有・検索」まで含めて作り直すコストのほうが、たいてい単価差より大きくなります。無料で使える議事録AIを比較した記事と読み比べて、どこまで自作するかを決めるのが現実的です。
業務で効く3つの機能と、その制約
話者分離(最大8人・3人以上は実験的)
誰が話したかを分ける機能で、最大8人まで対応します。ただし公式ドキュメントには「3人以上の話者の割り当ては実験的(experimental)」と明記されています。1対1の商談や面談なら実用域、5人以上の会議では話者ラベルを鵜呑みにせず人の目で直す前提、という読み方が安全です。
単語単位のタイムスタンプ(精度は落ちる)
単語ごとに再生位置を持たせられるので、動画の字幕や「この発言の場面まで飛ぶ」導線を作れます。制約として「有効にすると全体の文字起こし精度が落ちることがある」と公式が書いています。字幕を作らないなら、既定のまま切っておくほうが精度は出ます。
カスタム語彙(最大1,000語・推奨は100語まで)
社名・製品名・専門用語を最大1,000語まで登録して、聞き取りを寄せられます。ここも公式が「最良の結果はおおむね100語までで得られる」と釘を刺しています。実務では、辞書に全社の用語を流し込むのではなく、その音源に本当に出てくる固有名詞だけを数十語に絞るのが正解ということになります。
音声の長さにも上限があります。通常のリクエストは最大1時間ですが、話者分離や単語タイムスタンプを有効にすると30分までに縮みます。Live のほうは1セッション10分で、話者分離と単語タイムスタンプは使えません。長い会議を扱うなら、先に音源を分割する処理を用意しておく必要があります。
「そのまま読める議事録」にしたいなら smart モード
実務でいちばん効きそうなのが、mode パラメータで選ぶ2つの書き起こし方です。
話した内容 |
|
|
|---|---|---|
「えー、会議の件ですが、アリスと、あ、違う、ボブとキャロルを呼びましょう」 | 言い淀み・言い直しをそのまま残す | 「会議の件ですが、ボブとキャロルを呼びましょう」 |
「1つ目、予算の確認、2つ目、日程の確定、3つ目、議事録の送付」 | 区切りのない一続きのテキスト | 番号付きリストに自動整形 |
smart は、フィラー(「えー」「あのー」)の除去、言い直しのその場での解決、段落・箇条書き・日付・金額の自動整形、句読点と文頭の大文字化までを行います。議事録や口述筆記なら、後段に別の要約 AI を挟まなくても読める形で返ってくる可能性が高い、という意味で効きます。
ただしsmart は単語タイムスタンプ・話者分離と併用できません。「誰がいつ何を言ったか」を残したいなら verbatim、「読める議事録」がほしいなら smart、という二者択一になります。両方ほしい場合は同じ音源を2回投げるしかなく、その分の費用も2倍になります。ここは設計の前に決めておく点です。
実務でこの手の仕組みを組むとき、いちばん多い詰まりどころは精度ではなく「音声をどこに置くか」です。会議の音声には人事や取引先の情報がそのまま入っているので、外部APIへ送ってよいかを先に整理しておく必要があります。判断の材料はAIに入力してはいけない情報を整理した記事にまとめています。
Mihataでも、こうした「使えるのは分かったが、自社のどの業務にどう挿すか」の一段目を一緒に決めるところからお手伝いしています。よろしければ合わせてご覧ください。
乗り換えるべきか、様子を見るべきか
公式情報から読み取れる範囲での判断軸を、正直に書きます。
- すぐ試す価値がある:すでに Gemini API を使っていて、音声を汎用モデルに投げて文字起こしさせている場合。専用モデルのほうが単価も低く、話者分離などのパラメータが正式に用意されています。
- 比較してから決める:既存の文字起こしSaaSを使っている場合。API 単価は安く見えても、録音・共有・検索・権限管理を自作する手間が乗ります。
- 急がなくてよい:月に数本しか文字起こししない場合。年間の差額が数ドル規模なら、作る時間のほうが高くつきます。
また、公式ページには日本語での精度を示すベンチマーク数値は掲載されていません。「85言語に対応」=「日本語で十分な精度が出る」ではないので、乗り換えを決める前に、自社の実際の会議音源を1本だけ通して比べるのが確実です。無料枠があるので、比較そのものは費用ゼロで始められます。
まとめ
Gemini 3.5 Transcribe は2026年8月26日GAの音声認識専用モデルで、ファイル用とリアルタイム用の2種類、日本語を含む85言語超に対応し、音声1分あたり約0.005ドル(Live は約0.009ドル)です。話者分離は最大8人(3人以上は実験的)、カスタム語彙は最大1,000語(推奨100語まで)、smart モードは単語タイムスタンプ・話者分離と併用できない、という制約まで含めて公式に明記されています。AIモデル全体の動きは2026年後半のAIモデル公開ロードマップで追えます。
よくある質問
Gemini 3.5 Transcribe と Gemini 3.5 Pro は同じものですか。
別物です。Gemini 3.5 Transcribe は2026年8月26日にGAした音声認識専用モデルで、Gemini 3.5 Pro は2026年8月27日時点でも Google DeepMind のモデルページで「coming soon」の表示のまま、まだ提供されていません。
日本語の文字起こしに対応していますか。
対応しています。公式の対応言語表に日本語(ja-JP)が掲載されており、85言語以上を自動で判別します。ただし日本語での精度を示すベンチマーク数値は公式に掲載されていないため、自社の音源で1本試して確かめることをおすすめします。
1時間の会議を文字起こしすると、いくらかかりますか。
公式の実効レートは音声1分あたり約0.005ドルなので、1時間で0.3ドル前後が目安です。ただし請求は実際のトークン数で決まるため、音源によって上下します。無料枠でも試せます。
話者分離とタイムスタンプを両方使えますか。
verbatim モードなら両方使えますが、その場合は音声の長さが30分までに制限されます。読みやすく整形する smart モードは、単語タイムスタンプ・話者分離と併用できません。
リアルタイムの文字起こしもできますか。
gemini-3.5-transcribe-live を使えば WebSocket 経由の双方向ストリーミングで文字起こしできます。1セッション10分までで、話者分離と単語タイムスタンプには対応していません。