xAI が 2026年10月14日、音声対話モデル Grok Voice 3.0 を Voice Agent API で提供開始しました。同日、前世代の grok-voice-2.0 は非推奨(Deprecated)になっています。
気になるのは「で、2.0から何が変わって、自分は何をすればいいのか」の一点でしょう。この記事はその2つにだけ答えます。
結論:やることは原則ゼロ、価格も据え置き
Grok Voice 3.0 とは、xAI が 2026年10月14日に提供を開始した speech-to-speech(音声から音声へを1モデルで処理)の音声対話モデルです。価格は 2.0 と完全同額の音声1分あたり 0.08ドル(1時間 4.80ドル)。公式ドキュメントは「The API is unchanged」と明記しており、エンドポイント・session パラメータ・イベントはすべて 2.0 と同じです。
さらに grok-voice-latest のエイリアスが 3.0 を指すようになったため、エイリアスで呼んでいるアプリはすでに自動で 3.0 に切り替わっています。移行作業が必要なのは grok-voice-2.0 をバージョン固定(ピン留め)している場合だけで、やることは model の値を grok-voice-3.0 に書き換える1行です。性能面では、独立測定である Artificial Analysis の総合指標が 81.3 → 86.9(+5.6ポイント/約6.9%増)で1位になりました。
2.0から何が変わったか:ベンチマーク5項目
xAI が公開した比較表が、Artificial Analysis などの独立測定にもとづく5項目です。他社の最新モデル(GPT-Live-1、Gemini 3.8 Live)も並べると、世代差と他社差を同じ目線で見られます。
ベンチマーク | Grok Voice 3.0 | Grok Voice 2.0 | GPT-Live-1 (Astra, Medium) | Gemini 3.8 Live (Ext. Thinking, High) |
|---|---|---|---|---|
AA Speech-to-Speech Index(総合) | 86.9 | 81.3 | 83.2 | 82.6 |
Speech Reasoning(Big Bench Audio) | 98.5% | 97.2% | 90.1% | 97.7% |
人の好み(Speech Agent Arena Elo) | 1070 | 1011 | 1048 | 990 |
タスク完遂率(Task Success Rate) | 94.8% | 94.6% | 87.4% | 89.1% |
会話の自然さ(Full Duplex Bench) | 97.0% | 95.1% | 94.9% | 91.9% |
総合指標の AA Speech-to-Speech Index は、音声での推論力・τ-Voice(後述)・ブラインドで行う一対一通話での好みとタスク成功率を合成したものです。xAI はこの結果をもって Grok Voice 3.0 を「世界で最も賢い speech-to-speech モデル」と称しています。あくまでxAI 自身の主張であり、総合1位という事実(86.9)とは分けて受け取るのが安全です。
5項目のうち伸びが大きいのは、人の好み(Elo 1011→1070)と会話の自然さ(95.1%→97.0%)です。タスク完遂率は 94.6%→94.8% とほぼ横ばいで、「できることが増えた」より「会話が気持ちよくなった」世代交代だと読めます。
速さについては、公式がレイテンシを「1秒未満(class-leading)」と説明しています。アクセント・雑音・割り込みがある問い合わせ電話の処理力を測る τ-Voice では 71.6% で GPT-Live-1 (Astra) と同等の精度ながら、レイテンシは40%低いとされています。企業向けでは ServiceNow の音声エージェントベンチ EVA-Bench で正答率 74%(最高)。200以上の実務シナリオで精度と顧客体験を同時に採点したときの最良モデルだと、ServiceNow の Nitin Aggarwal 氏(Senior Director of Product Management, Agentic Evals and RAI)がコメントしています。
ベンチの数字をどう読むか
ここは正直に書きます。総合 86.9 は1位ですが、2位 GPT-Live-1 の 83.2 との差は 3.7ポイントです。前世代からの伸び(+5.6ポイント)と同じスケールの差しかなく、音声モデルの精度勝負は実質的に横並びの範囲に入ってきた、と見るのが実務的でしょう。「1位だから選ぶ」という判断は、数か月で入れ替わる前提で持つべきです。
会話の自然さの 95.1%→97.0% も、ポイント差では 1.9 しかありません。誤答率に置き換えれば 4.9%→3.0%=約39%減(式: (4.9 − 3.0) ÷ 4.9 ≒ 0.388)ですが、こうした言い換えは数字を大きく見せる方向に働きます。式を添えずに「4割改善」とだけ書くのはおすすめしません。
では何が効くのか。実務では「τ-Voice は GPT-Live-1 と同等なのにレイテンシが40%低い」という速さと賢さの両取りのほうだと考えています。電話やレジ横の音声応答では、賢さが1ポイント上がることより返事が0.5秒速いことのほうが相手の体感をはっきり変えます。精度の数ポイント差で選ぶのではなく、自社の用途で「待たされ感」が出ないかを基準にしたほうが外しません。機能の広さごと比べたい場合は、GPT-Live と Gemini 3.8 Live のリアルタイム音声でできることを整理した記事も併せてどうぞ。
料金は2.0と完全同額、ただしテキスト入力は別課金
性能が上がって値段が同じ、という珍しい更新です。
課金項目 | 単価 | 補足 |
|---|---|---|
音声(grok-voice-3.0) | $0.08 / 分($4.80 / 時) | 2.0 と完全同額 |
テキスト入力 | $0.004 / メッセージ | conversation.item.create イベント1件ごと |
Speech to Text(参考) | $0.10 / 時(REST)、$0.20 / 時(ストリーミング) | 文字起こし用の別モード |
Text to Speech(参考) | $15.00 / 100万文字 | 読み上げ用の別モード |
テキスト入力で見落としやすいのが対象範囲です。課金されるのはクライアントが送る conversation.item.create イベント1件ごとで、function_call_output は課金されません。content が音声のものは音声側で計上され、response.create も課金対象外です。ツールを多用するエージェントでも、関数の戻り値でメッセージ課金が膨らむわけではありません。
もうひとつ効くのがターン検出の方式です。既定の server_vad(自動ターン検出)はセッションが開いている時間ぜんぶが課金対象で、push-to-talk 方式なら送受信した音声ぶんだけになります。無音の待機が長い用途(店頭端末や社内の相談窓口など)では、ここの選び方が請求額を何倍も動かします。
通話件数から月額を逆算したい場合はGrok Voice 3.0 の料金を件数・通話時間別に試算した記事、他社も含めた相場感は音声AIエージェントの月額費用を比較した記事にまとめています。
自分は何をすればいいか:3分岐で確認する
(a) grok-voice-latest を使っている:何もしなくていい
エイリアス指定で動かしているセッションは、すでに自動で Grok Voice 3.0 にアップグレード済みです。API は無変更なのでコードを触る必要はありません。
ただし自動で上がるということは、声の印象やレイテンシが予告なく変わるということでもあります。顧客向けの音声で「声が変わった」と気づかれると困る、検収したレイテンシを維持したいという場合はバージョンを固定すべきです。やり方はgrok-voice-latest を使わずモデルのバージョンを固定する手順にまとめました。
(b) grok-voice-2.0 をピン留めしている:1行の書き換えだけ
公式の指示はシンプルで、model の値を grok-voice-3.0 に変えるだけです。エンドポイント・session パラメータ・イベントは同じなので、それ以外の修正は要りません。
公式のモデル表では grok-voice-latest が 3.0 のエイリアス、grok-voice-3.0 が Flagship voice model、grok-voice-2.0 が Deprecated という扱いです。2.0 の終了日(EOL)は、本記事の執筆時点で公式に明記されていません。未発表なので「いつまで使える」とは言えませんが、非推奨になったモデルの期限は後から短い予告で告知されるのが普通です。価格が同じで書き換えが1行なら、期限を待つ理由はありません。
(c) まだ使っていない:まず自分の声で試す
Grok のアプリやサイトの音声モードも 3.0 で動いているので、API を触る前に自分の声で会話するのが一番早い評価になります。レイテンシと声の質を体感してから、xai-cookbook にあるテスター実装(iOS の Swift / Web の WebSocket / WebRTC / 電話は Twilio の4つ)に進む順番が無駄がありません。
なお、音声を文字起こしするだけなら speech-to-speech ではなく Speech to Text 側(Grok Voice Transcribe)の話で、別モデル・別料金です(Grok Voice Transcribe 2 からの移行手順)。テキスト側のフラッグシップも音声とは別で、現在も Grok 4.7 のままです(Grok 4.7 の API 料金試算)。
どこまで任せられているのか:Tesla と Starlink
ベンチマークより参考になるのが、xAI 自身が公開している運用規模です。
- Tesla:車内で1日に数百万件の会話を処理。Connectors で予定の確認やメールの返信、Grok Bot 経由でコーヒーの注文やディナーの予約までハンズフリーでこなす。
- Starlink:コールセンターで1日2万件の顧客電話を多言語で受け、約70%が人を介さず解決(=1日あたり約1万4千件)。営業電話の4件に1件は通話が終わる前に購入に至る。1つのエージェントが本人確認・ハードウェアの切り分け・返金処理・交換機材の発送までを担当している。
返金処理や機材発送まで任せられているのは、認証と業務システムの連携が作り込まれているからです。ここだけを見て「電話対応はまるごとAIで置き換えられる」と読むのは危険でしょう。
日本の中小企業が同じ発想で始めるなら、まずは営業時間外の一次受けからが現実的だと考えています。失敗しても翌営業日に折り返せる、現在は取りこぼしているので比較対象がゼロである、要件が「用件と連絡先を聞いて記録する」に絞られて作り込みが浅くて済む、という3点が理由です。営業時間内の本線に入れるのは、営業時間外のログで誤認識の傾向と取りこぼしの率を確認してからで十分間に合います。実装パターンを先に把握したい方はAI電話自動応答の選び方を整理した記事が土台になります。
Mihata では、こうした音声AIや業務AIの導入を月1回のミーティング形式で一緒に進める支援も行っています。記事の途中で恐縮ですが、「どこから手を付けるか」で止まっている段階のご相談が一番お役に立てる実感がありますので、よろしければ合わせてご覧いただけたら嬉しいです。
導入前に見ておくべき制限:同時10セッションの壁
設計に直接効くのはレート制限です。同時セッションは1チーム10本、1セッションの最長は120分、リージョンは us-east-1。
この「同時10本」が、ピーク時の着信から逆算すると意外と早く当たります。平均4分の通話で1時間に150件の着信をさばく場合、必要な同時セッション数は 150件 ÷ 60分 × 4分 = 10セッション。既定の上限ぴったりで、1件でも通話が長引けば溢れる綱渡りです。自社のピーク時の着信件数と平均通話時間を掛けて、先に当たるかどうかを確認しておくべきでしょう。
リージョンが us-east-1 である点も、日本から使うなら押さえておきたいところです。公式が示す1秒未満というレイテンシに、日米間のネットワーク往復が上積みされます。体感の確認は、必ず実際に使う回線とデバイスで行ってください。
API が無変更であることの確認
「本当に書き換え1行で済むのか」を疑うのは正しい態度なので、形も示しておきます。接続は WebSocket で wss://api.x.ai/v1/realtime?model=grok-voice-latest の形になり、model はクエリパラメータです。ここに grok-voice-3.0 と書けばバージョンを固定できます。認証は、クライアントに置くなら Ephemeral Tokens、サーバー側だけなら API キーを使います。
session パラメータも 2.0 と同じものがそのまま使えます。主なものは reasoning.effort(high / none・既定 high)、voice、tools(file_search / web_search / x_search / mcp / function)、turn_detection.type(server_vad または null)と turn_detection.idle_timeout_ms、再接続時に会話を復元する resumption.enabled、audio.output.speed(0.7〜1.5)、読み間違いを直す発音置換の replace あたりです。
日本語で使うなら、認識精度を上げる2つは最初から入れておくことをおすすめします。audio.input.transcription.language_hint に ja(BCP-47)を指定し、audio.input.transcription.keyterms に自社名・商品名を登録します。keyterms は最大100語・各50文字までで、入れた語は優先的に認識されます。社名や型番を取り違える問題は、モデルを変えるより先にこの指定で解決することが多いです。
まとめ
- 2026年10月14日提供開始。価格は 2.0 と同額の1分0.08ドルで、API も無変更。
- grok-voice-latest を使っていれば、すでに 3.0 で動いている。やることは原則ゼロ。
- 2.0 をピン留めしている場合だけ、model を grok-voice-3.0 に1行書き換える。EOL は未発表だが、早めに済ませるのが無難。
- 性能は総合1位(86.9)だが2位との差は 3.7ポイント。効くのは同等精度でレイテンシ40%低いという速さのほう。
自社で使えるかの判断は、ベンチの順位ではなく「同時10セッション・us-east-1・無音待機の課金」という運用側の3点から入るほうが早く結論が出ます。音声AIの用途全体(日本語対応の実力、無料で試せる範囲、会話データの扱い)を先に押さえたい方は、Grok Voice の仕様と使いどころを総合的に整理した記事からお読みください。
どこから始めるべきか、自社の着信件数で費用がいくらになるかといったご相談は、お気軽にお寄せください。
よくある質問
Grok Voice 3.0 と 2.0 で料金は変わりましたか?
変わりません。音声は1分あたり0.08ドル(1時間4.80ドル)で2.0と完全に同額です。これに加えてテキスト入力が1メッセージ0.004ドルかかりますが、これも2.0と同じ体系です。
2.0 から 3.0 へ移行するために何をすればいいですか?
grok-voice-latest のエイリアスを使っている場合は何もする必要がありません。すでに自動で3.0にアップグレードされています。grok-voice-2.0 をバージョン固定している場合だけ、model の値を grok-voice-3.0 に書き換えてください。エンドポイント・session パラメータ・イベントはすべて同じです。
grok-voice-2.0 はいつまで使えますか?
2026年10月14日に非推奨(Deprecated)になりましたが、終了日(EOL)は公式に明記されていません。未発表のため確定した期限は分かりませんが、価格が同額で書き換えも1行で済むため、早めに3.0へ切り替えておくのが無難です。
性能はどのくらい上がったのですか?
Artificial Analysis の総合指標 AA Speech-to-Speech Index で 81.3 から 86.9 へ、5.6ポイント(約6.9%)上がり1位になりました。ただし2位の GPT-Live-1 との差は3.7ポイントで横並びの範囲です。実務で効くのは、τ-Voice が GPT-Live-1 と同等の71.6%でありながらレイテンシが40%低い点です。
導入前に注意すべき制限はありますか?
同時セッションが1チーム10本、1セッションの最長が120分、リージョンが us-east-1 の3点です。特に同時10本は、平均4分の通話で1時間に150件の着信をさばくとちょうど10セッション必要になるため、ピーク時の着信件数から逆算して確認しておくべきです。