xAI の音声認識モデル grok-voice-transcribe-1.0 は、2026年10月2日に end of life(提供終了)を迎えました。しかもエラーで止まるのではなく、同じモデルIDへのリクエストが「同額で」grok-voice-transcribe-2.0 へ自動ルーティングされます。公式リリースノートの「October 2」エントリに、1.0 は deprecated であり 2026年10月2日に end of life に達する、当該スラッグへのすべてのリクエストは同じ価格でより高精度な 2.0 にルーティングされる、と明記されています(2026年10月5日時点)。
つまり1.0 をピン留めしていた人も、今は 2.0 の出力を受け取っています。API は 200 を返し、課金額も変わらないため、障害としては一切検知されません。起こるのは「何もしていないのに文字起こしの結果が変わった」という、いちばん気づきにくい形の変化です。Speech-to-Text ドキュメントの Model Selection 表も、2026年10月5日時点で grok-voice-transcribe-2.0 の1行だけになり、「model を省略したときの既定」と書かれています。既定も 1.0 ではなく 2.0 です。
本記事は2026年9月18日の公開時点で「既定はまだ 1.0」「1.0 は数週間のうちに廃止予定」と書いていました。2026年10月5日にリリースノートと Speech-to-Text ドキュメントを取り直し、いずれも完了形に変わっていたため、該当箇所を訂正しています。
2026年10月2日に起きたこと
リリースノートの記述は3点に分解できます。いずれも予定ではなく、完了した事実として書かれています。
- 1.0 は deprecated になり、2026年10月2日に end of life に達した。日付が明示されています。
- 1.0 のスラッグへのリクエストは、すべて 2.0 へルーティングされる。エラーや 404 ではありません。
- 価格は同額で、精度はより高い(原文は at the same price, with higher accuracy)。請求書を見ても変化が分かりません。
あわせて Speech-to-Text ドキュメント側も入れ替わっています。Model Selection の表に残っているのは 2.0 の1行だけで、grok-voice-transcribe-1.0 という文字列は同ドキュメント全文を検索しても1件も出てきません(2026年10月5日時点で実際に全文を確認しました)。リクエストボディの表でも model の既定値は grok-voice-transcribe-2.0、WebSocket のクエリパラメータでも同様です。ドキュメント上は、1.0 はもう存在しないモデルとして扱われています。
ピン留めしていた人に何が起きるか
2026年9月の段階では、「出力の形を変えたくないなら grok-voice-transcribe-1.0 を明示指定してピン留めする」のが有効な時間稼ぎでした。この手は、2026年10月2日をもって効力を失いました。
具体的には、設定ファイルに grok-voice-transcribe-1.0 と書いたまま運用しているシステムでは、次の状態になっています。
見ているもの | 10月2日以降の挙動 |
|---|---|
HTTP ステータス | 200。エラーログには何も出ない |
リクエストの | 自分が書いた |
実際に応答したモデル |
|
請求額 | 同額。コスト監視でも検知できない |
文字起こしの中身 | 変わる(公式表現は higher accuracy) |
実務で怖いのは最後の1行だけです。精度が上がること自体は歓迎すべき変化ですが、出力の文字列が変われば、その文字列を前提に組んだ後工程は黙って挙動を変えます。数値・日付・通貨の整形、フィラーの扱い、話者ラベルの形式に正規表現を当てている箇所、要約プロンプトに「この形式で来る」と書いてある箇所が該当します。設定ファイルを grep しても異常は見つからないので、気づくきっかけは「要約がなんとなく変わった」「集計が合わない」といった曖昧な違和感になりがちです。
1.0 と 2.0 の差分
公式に書かれている範囲で、2つのモデルの違いを並べます。1.0 側はすでに提供終了しているため、過去の比較として残します。
項目 |
|
|
|---|---|---|
提供状況 | 2026年10月2日に end of life。リクエストは 2.0 へ自動ルーティング | 提供中。 |
ドキュメントの掲載 | Speech-to-Text ドキュメントから記述が削除 | Model Selection 表に唯一掲載 |
料金(バッチ) | 音声1時間あたり 0.10 ドル | 音声1時間あたり 0.10 ドル(同額) |
料金(ストリーミング) | 音声1時間あたり 0.20 ドル | 音声1時間あたり 0.20 ドル(同額) |
精度 | — | 社内評価で 1.0 の約2倍。短文の多言語コマンドで WER 20.6%→6.8% |
外部評価 | — | Artificial Analysis のリーダーボードでストリーミング32モデル中1位 |
話者分離・単語タイムスタンプ・キーワードバイアス | — | 追加費用なしで利用可 |
チャンネル | — | 最大8チャンネルを独立して文字起こし |
2.0 側で公式に挙げられている機能は、バッチとストリーミングの両対応、単語単位のタイムスタンプと信頼度、話者分離、最大8チャンネルの独立文字起こし、1リクエストあたり最大100語のキーターム指定、数値・日付・通貨・電話番号・メールアドレスの整形出力、フィラー(言いよどみ)の除去、ターン終了の検出です。会議録や電話ログのように「誰が・いつ・何を言ったか」を後から追う用途では、この整形まわりの差が実務の手戻りに直結します。
なお料金は据え置きとはいえ、他社の文字起こしAPIと横並びで見ると1時間あたりの実額はかなり幅があります。主要な文字起こしAPIの1時間あたり実額を並べた比較も合わせて見ておくと、棚卸しのついでに乗り換え先を検討しやすくなります。
何が変わらないか
変わった点ばかり書くと過剰に身構えてしまうので、公式で確認できる「変わらないもの」も並べておきます。
- 価格。リリースノートに at the same price と明記されています。バッチ 0.10 ドル/ストリーミング 0.20 ドル(音声1時間あたり)という水準は 2026年9月の 2.0 一般提供時から変わっていません。
- エンドポイント。バッチは
https://api.x.ai/v1/stt、ストリーミングはwss://api.x.ai/v1/sttのままです。接続先の書き換えは要りません。 - リクエストとレスポンスの形。Speech-to-Text ドキュメントのパラメータ表・レスポンス表は 2.0 を前提に書かれており、
file/url/language/format/diarize/keytermといったフィールドの構造は維持されています。
裏を返すと、コードを1行も触らずに済む代わりに、変化の検知も自分で仕掛けないと起こらないということです。ここが今回の肝です。
出力が変わったときの確認手順
すでに切り替わっているので、「移行するか/しないか」を選ぶ段階は終わっています。やることは、変化がどこに効いたかを後追いで確かめることだけです。次の順で進めるのが安全です。
- モデル指定を棚卸しする。コード・設定ファイル・環境変数・ジョブ定義を
grok-voice-transcribeで全文検索し、どこで何を指定しているかを一覧にします。1.0と書いてある箇所は、今は嘘の設定です。 - 既定に任せている箇所を洗い出す。
modelを渡していない呼び出しも、以前の既定(1.0)から今の既定(2.0)へ移っています。明示指定より見落としやすいので、こちらを先に見ます。 - 代表音源で再測定する。本番でいちばん困っている音源を3〜5分だけ切り出し、10月2日より前に保存していた出力と並べます。比較するのは全文の良し悪しではなく、数値・日付・固有名詞の書き方、フィラーの残り方、話者ラベルの形式です。
- プロンプトと後処理の前提を見直す。正規表現、分割ルール、DBのカラム長、要約プロンプトに書いた「この形式で来る」という記述を、新しい出力に合わせて直します。ここが今回いちばん壊れやすい場所です。
この「使っているモデルIDを台帳にして、告知が出たら期限を切る」という進め方は、xAI に限らずどの提供元でも同じです。手順の型はAIモデルの提供終了に備える6つの手順にまとめています。
私たち Mihata では、こうしたモデル切替の影響範囲の洗い出しや、切り替え後の出力差分のチェックを含めて、業務に入っているAIの面倒を見るお手伝いをしています。社内に専任の担当がいない場合はご相談ください。
予告から実行までは約2週間だった
この記事は2026年9月18日に、まだ 1.0 が既定だった時点の公式表現「in the coming weeks(数週間のうちに)」をもとに先回りで書いたものです。結果として、9月17日の 2.0 一般提供の告知から、1.0 の end of life(10月2日)までは約2週間でした。「数週間」という曖昧な表現が、実際には1か月も持たなかったことになります。
ここから引き出せる実務上の目安は1つだけです。提供元が「coming weeks」と書いたら、2週間で来る可能性を前提に段取りを組む。逆算の余地がない表現が出た時点が、棚卸しの着手タイミングです。告知を見てから動く運用だと、今回のように「気づいた時にはもう切り替わっていた」になります。
日付つきで先に出してくれる提供元もあります。たとえば OpenAI は音声系について realtime / audio 群を2027年1月20日、whisper-1 を含む transcribe 群を2027年2月26日に停止する予定を公開しています。whisper-1 の終了日と移行先の整理もあわせて確認しておくと、音声まわりの棚卸しを一度で済ませられます。
読み違えやすい3つの点
「エラーが出ていないから大丈夫」は成り立たない
提供終了と聞くと 404 や 400 を想像しますが、今回は同額・同形式で後継モデルが応答します。監視・アラート・コスト管理のどれにも引っかかりません。1.0 をピン留めしていた運用こそ、「ピン留めできているつもり」のまま出力だけが変わっているので、確認の優先度はむしろ高いほうです。
日本語は公式の対応言語表に載った
2026年9月の時点では、公式原文に日本語を名指しした記述が1つもありませんでした。2026年10月5日に Speech-to-Text ドキュメントを取り直すと、Supported Languages の表に Japanese | ja が掲載されています(Arabic〜Vietnamese の25言語の表)。ただし同表の注記は「language パラメータは以下の言語の整形(formatting)を有効にする。モデルは language の指定にかかわらずこれらの言語を文字起こしする」という趣旨で、載っているのは「数値・通貨・単位の表記整形が効く言語」の一覧です。日本語の WER は2026年10月5日時点でも公表されていません。この読み分けは公式の対応言語表に日本語がどう載っているかの検証で細かく追っています。
モデル一覧ページだけ見ていると追えない
2026年9月の時点では、モデル一覧ページに 2.0 がまだ載っておらず、「一覧に無いから使えない」と読み違える余地がありました。今回も同じ構図で、変更が最初に反映されるのはリリースノートと機能別ドキュメントです。棚卸しの定点観測先をモデル一覧だけにしていると、提供終了のような一度しか出ない告知をまるごと見落とします。リリースノートを購読対象に入れておくのが現実的です。
まとめ
今回の要点は3つです。第一に、grok-voice-transcribe-1.0 は2026年10月2日に end of life を迎え、1.0 宛のリクエストは同額で 2.0 へ自動ルーティングされること。第二に、model 省略時の既定も 2.0 になり、ドキュメントから 1.0 の記述そのものが消えたこと。第三に、エラーも値上げも起きないため、変化に気づくきっかけは出力の中身を見比べることしかないことです。
やることは、モデル指定の棚卸しと、代表音源での出力比較の2つに収束します。価格もエンドポイントも変わっていない以上、慌てて止める必要はありません。ただ、後工程の前提だけは一度確かめておく価値があります。
AIの導入や運用で、どこから手をつければいいか迷われている段階でも構いません。お困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
grok-voice-transcribe-1.0 はもう使えないのですか?
2026年10月2日に end of life を迎えました。ただしリクエストがエラーになるわけではなく、公式リリースノートによれば 1.0 のスラッグへのリクエストはすべて同額で grok-voice-transcribe-2.0 へルーティングされます。呼び出しは成功し続けますが、応答するモデルは 2.0 です。
1.0 をピン留めしていました。何か対応は必要ですか?
ピン留めは 2026年10月2日に効力を失っているため、設定上は 1.0 でも実際には 2.0 の出力を受け取っています。コードの修正は必須ではありませんが、数値や固有名詞の書き方・フィラーの扱い・話者ラベルの形式が変わっている可能性があるので、代表的な音源で 10月2日より前の出力と見比べて、後工程の正規表現や要約プロンプトが通るかを確認してください。
モデルIDを指定していない場合の既定はどれですか?
grok-voice-transcribe-2.0 です。Speech-to-Text ドキュメントの Model Selection 表には 2.0 の1行だけが載っており、model を省略したときの既定と明記されています(2026年10月5日時点)。以前の既定は 1.0 だったので、省略している呼び出しも中身が入れ替わっています。
料金やエンドポイントは変わりますか?
変わりません。リリースノートに同じ価格(at the same price)と明記されており、バッチが音声1時間あたり0.10ドル、ストリーミングが0.20ドルという水準は据え置きです。エンドポイントも https://api.x.ai/v1/stt と wss://api.x.ai/v1/stt のままで、リクエストとレスポンスの構造も維持されています。
日本語の精度はどのくらい上がりますか?
2026年10月5日時点でも日本語の WER は公表されていません。公式の Speech-to-Text ドキュメントの対応言語表には Japanese(ja)が掲載されていますが、この表は language パラメータで数値・通貨・単位の表記整形が効く言語の一覧であり、言語別の精度を示すものではありません。日本語で使うなら自分の音源で測る必要があります。