2026年10月12日、Meta が新しいフロンティアモデル「Muse Wonder」と「Muse Wonder Full」を発表し、同日から提供を開始しました。公式ブログでは "A frontier model that leads on personal and professional agents" と位置づけられ、同社としては "our most capable models" という表現が使われています。
先に結論だけ書きます。今日から誰でも触れるのは「Muse Wonder」だけです。上位版の Muse Wonder Full は Muse Code のサブスク(Power Usage 月50ドル以上)に入っている人限定で、従量単価は公開されていません。そして、ふだん使う消費者向けアプリの Muse ではまだ使えません。公式の文言は "will soon power experiences in Muse, and will roll out first to subscribers"、つまり近日・サブスク優先で順次です。この3つを混ぜて読むと「新モデルが出たのに自分の画面に出てこない」という混乱になります。自分の環境に出てこないときの見分け方は、上位版が一覧に出てこないときの症状別の切り分けにまとめました。
今日から使える範囲は3層に分かれている
発表が同日提供だったため、どこで何が使えるのかが報道では一括りにされがちです。公式のモデルページ(developer.meta.com/ai/models/muse-wonder)に書かれている提供範囲を、そのまま3層に切り分けると次のようになります。
層 | 対象 | どこで使えるか | 今日の状態 |
|---|---|---|---|
第1層 | Muse Wonder(「muse-wonder-1.0」 と表記されるモデル) | Meta Model API と Muse Code | 発表当日から利用可。従量単価も公開されている |
第2層 | Muse Wonder Full(「muse-wonder-full-1.0」) | Muse Code のサブスクのみ("Access: Muse Code subscription only"・Power Usage と Maximum Usage プラン) | 利用可だが、1Mトークンあたりの従量単価は公開なし |
第3層 | 消費者向けアプリ Muse | Muse のアプリ・Web 体験 | まだ使えない。"will soon" とあり、サブスク契約者から順次 |
第2層の「従量単価が無い」という点は、見落とすと見積りが崩れます。Muse Wonder Full はトークン課金で買うものではなく、月額サブスクに同梱された枠として使うものです。公式の Muse Code ページでは Power Usage が月50.00ドル("Access to the most powerful Muse models, including Muse Wonder Full" と明記・Everyday Usage プランの20倍の使用量)、Maximum Usage が月200.00ドル(同80倍)となっています。この下に Everyday Usage と High Usage の2段があることは本文に書かれていますが、金額は今回確認できなかったため、ここでは触れません。
Muse Wonder の単価は Spark 1.3 より一段高い
第1層の Muse Wonder は、1Mトークンあたり入力4.00ドル・キャッシュ入力0.20ドル・出力20.00ドル、コンテキストは1Mです。同じページに並んでいる既存の 「muse-spark-1.3」 は入力1.25ドル・キャッシュ入力0.15ドル・出力4.25ドルなので、単価から計算すると入力が約3.2倍、出力が約4.7倍になります。出力が多い使い方(長文生成、エージェントの思考ログ)ほど差が開く構造です。この差が月額としてどこまで効くかは、月間トークンから請求額を出す試算式とケース別の計算で確かめられます。
なお同ページには 「muse-spark-1.3-contributor」 という激安の枠(入力0.10ドル・出力0.20ドル)もありますが、こちらには "Used to improve our products." という注記が付いています。非 contributor 版は "Not used to improve our products." です。顧客情報や社内資料を通す処理で安い方を選ばせない、という線引きは最初に決めておくべきところです。
Active Memory と Active Focus は業務で何を変えるか
今回の中核として挙げられている機能は2つです。公式の固有名詞のまま覚えておくと、あとで設定画面やドキュメントを探すときに迷いません。
Active Memory は "carrying important context about you across conversations and actively retrieving the details relevant to the task at hand" と説明されています。会話をまたいで文脈を持ち越し、必要になった時点で関連する情報だけを取り出す仕組みです。現場の言葉に直すと、「前回の打ち合わせで決めた前提を、次に聞いたときにも覚えている」状態です。毎回のプロンプトに自社の前提条件を貼り直す手間が、そのまま減る方向に効きます。
Active Focus は "continues working toward a challenging goal: trying alternative approaches, working through blockers, and adapting to new information" と書かれ、さらに "it asks for clarification when needed and checks in before taking important actions" と続きます。つまり詰まったら別の手を試し、重要な操作の前には人に確認を入れるという動き方です。社内の自動化でいちばん怖いのは「途中で止まって何もしていない」と「確認せずに実行してしまった」の両方なので、この2つに手当てが入っているのは実務寄りの変化だと感じます。
そのうえで公式は、複数手順のタスクを数時間単位で任せられること("Hand off multi-step tasks that run for hours, uninterrupted.")、長いタスクを計画してサブエージェントへ委譲すること、ブラウザ・デスクトップ・モバイルアプリを見て操作する "Advanced computer use" も挙げています。モデルの訓練はギガワット級の Prometheus データセンターで行われたと説明されており、"Fourteen months ago, we began a ground-up overhaul of our artificial intelligence efforts." という振り返りも添えられています。Meta のモデル系譜がどう変わってきたかは、Llama の行が消えた経緯をたどった記事と合わせて読むと流れがつかめます。
安全性については、CBRN とサイバー誤用に対して "our strongest safeguards to date"、"our most aligned model to date" とされ、防御目的のサイバー能力は Meta Superintelligence Scaling Framework に沿って残すとあります。ただし完全な安全性レポートは "available soon" で、まだ公開されていません。社内規程で第三者評価レポートの確認を求めている会社は、そこを待つ判断もあり得ます。
公式ベンチの読み方:勝っている列と負けている列がある
モデルページには、Muse Wonder Full / Muse Wonder / Claude Fable 5.1 / GPT-6 Astra / Claude Opus 5.5 を並べたベンチマーク表が載っています。これは発表元が自社を有利に見せる前提で作った表なので、全部の行を追うより「どこで勝っていて、どこで負けているか」を分けて見るのが実用的です。要点だけ抜くと次のとおりです。
見方 | ベンチマーク | Wonder Full | Wonder | Opus 5.5 |
|---|---|---|---|---|
総合(公式表の最終行) | 総合スコア | 56 | 52 | 58 |
Wonder 系が先頭 | Harvey LAB-AA(法務エージェント) | 13.1 | 10.0 | 4.2 |
Wonder 系が先頭 | SWE-Marathon(超長期エンジニアリング) | 79.0 | 78.8 | 74.2 |
Wonder 系が先頭 | AutomationBench-AA(業務ワークフロー) | 45.4 | 39.1 | 41.2 |
他社が上 | Artificial Analysis Index | 59.0 | 50.0 | 70.5 |
他社が上 | OSWorld V2.1(コンピュータ操作・全列 partial) | 78.4 | 72.6 | 81.8 |
他社が上 | MemoryBench(文脈の記憶・binary) | 39.4 | 34.3 | 記載なし |
読み取れることは3つです。第一に、「全部で勝った」わけではありません。自社指標である Personal Superintelligence Index(Wonder Full 59.1・Opus 5.5 は55.2)や法務・長期コーディング系では Wonder 系が先頭ですが、Artificial Analysis Index は Opus 5.5 の70.5 が突出しており、公式表の総合行でも Opus 5.5 の58 が最上位です。
第二に、注記が付いた列は条件が揃っていません。OSWorld V2.1 は全列が "(partial)"、MemoryBench は "(binary)"、Wonder Full の ProgramBench 値には "(xhigh)" が付いています。横並びの数字に見えても、同じ条件で測った結果とは限らないということです。第三に、Active Memory を推すモデルの MemoryBench が他社より低い列があるという、見出しと数字のねじれもあります。機能名と実測値は別に見た方が安全です。勝ち負けの分かれ方を行ごとに最後まで追いたい場合は、公式ベンチの全行を勝ち負けで分けて読み替えた比較記事にまとめています。
公式は汎化についても主張しています。post-training で狙った課題と狙っていない課題を比べると、Muse Wonder Full は Muse Spark 1.3 の傾向線が予測する以上に未知の課題で良い、というもので、理由として "build on larger, stronger base models" を挙げています。ここは自社の業務で試して確かめるしかない部分です。
中小企業としては、どこから触るか
新モデルが出たときに全社で乗り換える必要はありません。今回の3層を踏まえると、順番はかなりはっきりします。
- すでに Meta Model API で何かを動かしているなら、Muse Wonder を1つの処理だけ差し替えて精度と費用を実測する。出力単価が Spark 1.3 の約4.7倍なので、出力の長い処理から順に効きます。
- 長時間まわる自動化(調査、資料の下書き、画面操作をともなう作業)を試したいなら、Muse Code のサブスクで Muse Wonder Full を触る。従量単価が無いぶん、月額の枠内でどこまで使えるかを見るのが現実的です。
- 消費者向け Muse に出てくるのを待つ前提の計画は、いま立てない。公式の表現は "will soon" だけで、具体的な日付は示されていません。
もう1つ忘れたくないのが、Muse Wonder はオープンウェイトではない点です。重み公開の告知はありません。社内のネットワークから出せないデータを扱うなら、別の選択肢を並べて比べる必要があります。Meta 系で社内に置けるものとしては、オープンウェイトの Muse Glimmer 30B を社内で動かす話が現実的な比較対象になります。各社の新モデルがいまどう並んでいるかは、2026年下期のモデル一覧をまとめたハブで俯瞰できます。
どのモデルを使うかより、どの業務をどこまで任せるかを決める方が先です。Mihata では自社の業務フローに合わせた AI 導入の設計からお手伝いしています。
まとめ
Muse Wonder シリーズの発表で押さえるべきは、性能の見出しよりも提供範囲です。Muse Wonder は Meta Model API と Muse Code で今日から使え、Muse Wonder Full は Muse Code のサブスク(Power Usage 月50.00ドル/Maximum Usage 月200.00ドル)限定で従量単価が無く、消費者向け Muse はまだ使えません。機能面では Active Memory と Active Focus が実務寄りの変化で、ベンチは勝ち負けが列ごとに分かれています。日本語対応の可否や安全性レポートの中身は、現時点の公式資料には記載がありません。
自社のどの業務にどのモデルを当てるか、どこまでを人の確認に残すか。このあたりは実際の業務を見ないと決められない部分です。迷っている段階でもご相談いただけます。
よくある質問
Muse Wonder は今日から使えますか?
Muse Wonder は Meta Model API と Muse Code で発表当日(2026年10月12日)から使えます。上位版の Muse Wonder Full は Muse Code のサブスク(Power Usage または Maximum Usage)限定です。
消費者向けの Muse アプリでも Muse Wonder は使えますか?
まだ使えません。公式には近日提供とあり、サブスク契約者から順次展開されると説明されています。具体的な日付は公開されていません。
Muse Wonder の料金はいくらですか?
1Mトークンあたり入力4.00ドル・キャッシュ入力0.20ドル・出力20.00ドルで、コンテキストは1Mです。Muse Wonder Full は従量単価が公開されておらず、Muse Code のサブスクに同梱されています。
Muse Wonder は他社モデルより全面的に優れているのですか?
いいえ。公式のベンチ表でも、法務エージェントや超長期エンジニアリングでは先頭ですが、Artificial Analysis Index や総合行では Claude Opus 5.5 が上位です。列ごとに勝ち負けが分かれています。
Muse Wonder の重みは公開されますか?
重み公開の告知はありません。オープンウェイトではないため、社外に出せないデータを扱う用途では別の選択肢と比べる必要があります。