Meta が 2026年10月12日に Muse Wonder と Muse Wonder Full を発表しました。公式のモデルページには Claude Fable 5.1・GPT-6 Astra・Claude Opus 5.5 と並べた14行のベンチマーク表が載っています。この記事は、その表を省略せずに全部出したうえで「どこで勝っていて、どこで負けているのか」を列ごとに分けて読み替えるものです。発表そのものの内容から押さえたい方は、発表当日に使える範囲を3層に切り分けた発表まとめから読むと前提が揃います。
先に結論を書きます。法務エージェント(Harvey LAB-AA)で 13.1 対 Opus 5.5 の 4.2 と3倍以上の差を付けた一方、公式表の総合行は Opus 5.5 の 58 が最上位(Muse Wonder Full は 56)、Artificial Analysis Index も Opus 5.5 の 70.5 が突出しています。つまり「新しいほうが全部強い」ではなく、用途を分けて選ぶのが正解です。価格も Muse Wonder は入力 $4.00・出力 $20.00(1Mトークン)で、既存の muse-spark-1.3 の入力 $1.25・出力 $4.25 から大きく上がっています。
前提:この表は発表元が自社向けに組んだもの
比較表を読むときに最初に確かめるべきは、誰が列と行を選んだかです。今回の表は Meta の開発者向けモデルページに掲載されたもので、行の並び順も、比較相手として選ばれた3モデルも、発表元が決めています。公平な第三者がそろえた条件での横並びではありません。
とくに1行目に置かれた Personal Superintelligence Index は Meta の内部の総合指標です。公式の説明でも、Muse Wonder シリーズは「パーソナル超知能に向けた大きな一歩」という位置づけで紹介されています。自社が定義した合成指標を表の先頭に置けば、読んだ人の最初の印象はその行で決まります。悪意の話ではなく、発表資料として自然な作りですが、読む側は意識して並べ替える必要があります。
そこでこの記事では、14行をWonder 系が先頭の行・他社が上の行・ほぼ互角の行の3つに分けて出します。行は1つも落としていません。数値はすべて公式表のまま(max 設定)です。
Wonder 系が先頭の行
法務、長期の自動化、ターミナル作業、ゼロからの実装で Wonder 系が先頭に立っています。差が小さい行ではなく、はっきり離している行がここに集まっているのが今回の発表の実体です。
ベンチマーク | Wonder Full | Wonder | Fable 5.1 | GPT-6 Astra | Opus 5.5 |
|---|---|---|---|---|---|
Harvey LAB-AA(法務エージェント) | 13.1 | 10.0 | 6.4 | 8.6 | 4.2 |
SWE-Marathon(超長期エンジニアリング) | 79.0 | 78.8 | 67.4 | 74.1 | 74.2 |
Terminal-Bench 4.0-AA | 85.5 | 85.6 | 79.0 | 81.4 | 81.5 |
ProgramBench(ゼロからの実装) | 57.5(xhigh 注記あり) | 53.1 | 45.6 | 42.5 | 46.3 |
AutomationBench-AA(業務ワークフロー) | 45.4 | 39.1 | 32.1 | 41.6 | 41.2 |
Personal Superintelligence Index(Meta の内部指標) | 59.1 | 54.3 | 49.9 | 54.5 | 55.2 |
読みどころは2つあります。1つは Harvey LAB-AA で、Wonder Full の 13.1 は Opus 5.5 の 4.2 の3倍を超えます。ただし素点そのものが13点台という低い水準なので、「法務エージェントはどのモデルでもまだ難しい領域で、その中では相対的に良い」という読み方が正確です。もう1つは AutomationBench-AA で、先頭は Wonder Full の 45.4 ですが、無印の Muse Wonder は 39.1 で GPT-6 Astra の 41.6 と Opus 5.5 の 41.2 に負けています。この行で Meta が勝っているのは、Muse Code のサブスク限定で提供される Wonder Full のほうだけです。そのサブスク側が手元で選べないときは、上位版が呼べないのは仕様かどうかを確かめる手順で先に切り分けてください。
他社が上の行
一方で、次の行では他社が上に立っています。発表のニュース記事ではほぼ触れられない部分なので、ここを確認しないまま乗り換えると、いま動いている処理が遅くなる可能性があります。
ベンチマーク | Wonder Full | Wonder | Fable 5.1 | GPT-6 Astra | Opus 5.5 |
|---|---|---|---|---|---|
Artificial Analysis Index | 59.0 | 50.0 | 55.5 | 52.5 | 70.5 |
OSWorld V2.1(コンピュータ操作) | 78.4 | 72.6 | 80.7 | 75.8 | 81.8 |
MemoryBench(文脈の記憶) | 39.4 | 34.3 | 43.1 | 34.3 | 値なし |
HealthBench Pro(健康の自由回答) | 62.3 | 60.5 | 62.1 | 65.3 | 65.6 |
DeepSWE 1.1(長期コーディング) | 57.1 | 52.0 | 52.0 | 59.1 | 59.6 |
GDP.pdf(専門業務) | 33.2 | 30.8 | 27.6 | 34.2 | 30.6 |
総合(公式表の最終行) | 56 | 52 | 53 | 53 | 58 |
最も目立つのは Artificial Analysis Index の Opus 5.5 の 70.5 です。2番目の Wonder Full の 59.0 に 11.5 ポイント差を付けていて、14行のなかで単独の差としては最大級です。そして公式表の最終行である総合も、Opus 5.5 の 58 が最上位で、Wonder Full は 56、無印 Wonder は 52 です。発表元が自社のページに載せた表の最終行で他社が1位になっている、という事実をそのまま受け取るべきところです。
コーディングも一枚岩ではありません。SWE-Marathon(超長期)では Wonder Full が 79.0 で頭ひとつ抜けているのに、DeepSWE 1.1(長期コーディング)では Opus 5.5 の 59.6 と GPT-6 Astra の 59.1 が上に来ます。「長く走るタスクほど Wonder が強く、区切られたコーディング課題では他社が強い」という形になっていて、どちらを使うべきかは手元のタスクの長さで変わります。
ほぼ互角で、価格で決めてよい行
差が 0.5 ポイント以内で、実務では区別がつかない行もあります。こういう行は「どのモデルでもできる」と判断して、価格と運用のしやすさで選ぶのが合理的です。
ベンチマーク | Wonder Full | Wonder | Fable 5.1 | GPT-6 Astra | Opus 5.5 |
|---|---|---|---|---|---|
Vals Finance Agent V2(財務分析) | 59.1 | 56.6 | 58.9 | 53.5 | 58.6 |
JobBench(業務でのツール使用) | 75.3 | 70.5 | 73.1 | 66.1 | 75.4 |
財務分析は先頭の Wonder Full 59.1 と Fable 5.1 の 58.9、Opus 5.5 の 58.6 が 0.5 ポイント差の団子です。JobBench は Opus 5.5 の 75.4 と Wonder Full の 75.3 が 0.1 差。この2行を根拠に「財務や業務ツール操作のために乗り換える」という判断はできません。
注記が付いている行は、条件が揃っていない
表を一次ソースで見ると、数値に注記が付いている箇所があります。注記の付き方が列ごとに非対称なので、単純な大小比較ができない行を見分ける手がかりになります。
- OSWorld V2.1 は5列すべてに partial の注記が付いています。全列が同じ条件なので列どうしの比較は成り立ちますが、満点条件での値ではありません。
- MemoryBench は binary の注記付きで、しかも Opus 5.5 だけ値がありません。先頭は Fable 5.1 の 43.1 ですが、Opus 5.5 が入ればどうなるかは分かりません。文脈の記憶を重視する用途でこの行を根拠にするのは危険です。
- ProgramBench は Wonder Full の 57.5 だけに xhigh の注記が付いています。他の4列に同じ注記はありません。この行の 57.5 と他社の 42〜46 を並べるときは、設定が同じかどうかを確認してからにすべきです。
安全性についても、公式は「現時点で最も強い安全対策」と書いている一方で、完全な安全性レポートは「近日公開」とされており、まだ出ていません。社内規程で第三者評価の確認を求めている場合は、レポート公開まで待つのが筋です。
用途別に「いま何を選ぶか」の判断表
以上を踏まえて、よく出てくる5つの用途について、根拠の行を示しながら現時点の推奨を書きます。中小企業の現場では、全部を1つのモデルに寄せるより、用途ごとに2〜3種類を使い分けたほうが結果的に安く速くなります。
用途 | いま選ぶもの | 根拠の行 |
|---|---|---|
法務・契約の調査エージェント | Muse Wonder(予算が出るなら Wonder Full) | Harvey LAB-AA 13.1 / 10.0 対 Opus 5.5 の 4.2・Fable 5.1 の 6.4 |
財務分析・経理の資料読み | いま使っているものを続投 | Vals Finance Agent V2 が 59.1・58.9・58.6 で団子。乗り換える理由にならない |
何時間も走る実装・移行タスク | Muse Wonder Full | SWE-Marathon 79.0・Terminal-Bench 4.0-AA 85.5。ただし短い修正サイクルは DeepSWE 1.1 で Opus 5.5 の 59.6 が上 |
ブラウザ・業務システムの画面操作 | Opus 5.5 か Fable 5.1 | OSWorld V2.1 で Opus 5.5 の 81.8・Fable 5.1 の 80.7 が Wonder Full の 78.4 より上(全列 partial) |
文脈を覚えておく秘書的な用途 | Fable 5.1(ただし実測で確認) | MemoryBench 43.1 が先頭。Opus 5.5 は値なしで比較不能 |
健康・一般知識の相談 | Opus 5.5 か GPT-6 Astra | HealthBench Pro で 65.6・65.3 が Wonder Full の 62.3 より上 |
画面操作の行については、Meta 自身が Advanced computer use(ブラウザ・デスクトップ・モバイルアプリを見て操作する)を目玉機能として挙げています。それでも OSWorld V2.1 の数値は Opus 5.5 のほうが上です。機能として搭載されていることと、ベンチマークで勝っていることは別だ、という典型例として覚えておくとよいと思います。
同じく Active Memory(会話をまたいで文脈を保持し、必要なときに取り出す)という機能も公式に明記されていますが、MemoryBench の先頭は Fable 5.1 です。機能名ではなく行を見る、という姿勢が今回はとくに効きます。
モデルの選び分けという考え方そのものは、同じ提供元のなかでも同じです。性能と価格の段を使い分ける話はClaude の Haiku 5.5 と Sonnet 5.5 をどちらに寄せるかの比較で整理しています。各社の新モデルがいつ何を出したかを一覧で追いたいときは2026年下半期のAIモデル動向のまとめが早いはずです。
価格:安いほうで足りる線引き
性能の話と同じくらい効くのが単価です。公式のモデルページと Muse Code のページから、1Mトークンあたりの金額を並べます。
モデル | 入力 | キャッシュ入力 | 出力 | コンテキスト |
|---|---|---|---|---|
Muse Wonder(muse-wonder-1.0) | $4.00 | $0.20 | $20.00 | 1M |
Muse Wonder Full(muse-wonder-full-1.0) | 従量単価の公開なし | 公開なし | 公開なし | 1M |
muse-spark-1.3 | $1.25 | $0.15 | $4.25 | 1M |
muse-spark-1.3-contributor | $0.10 | $0.002 | $0.20 | 1M |
Muse Wonder は muse-spark-1.3 に対して入力が 3.2 倍、出力が 4.7 倍です(上の単価から計算しました)。したがって線引きは「長く走るか、エージェントとして自分で判断して進む必要があるか」になります。単発の要約・分類・定型文の下書きのように、入力を渡して1回答えるだけの処理で Wonder を使うと、出力4.7倍をそのまま払うことになります。そこは spark 1.3 で足ります。どこから月額が重くなるかは、出力の比率で乗り換えコストがどこまで動くかの試算で数字を置いて確かめられます。
いちばん安い muse-spark-1.3-contributor には公式注記で「製品改善に使われる」と書かれています。非 contributor の muse-spark-1.3 は「製品改善に使われない」と明記されています。顧客情報や社外に出せない資料を通す処理で contributor 版を選ばせてはいけません。単価が 1/12 なので、コストだけ見て設定すると事故になります。Muse Wonder Full は Muse Code のサブスク限定で、Power Usage が月 $50.00、Maximum Usage が月 $200.00。この下に2段のプランが存在することは公式ページに書かれていますが、今回確認した時点で金額は読み取れませんでした。
どの用途にどのモデルを当てるかは、実際の業務の件数と文字数を置いて計算しないと決まりません。Mihata では AI 導入支援のなかで、処理ごとにモデルを割り当てて月額を見積もるところまでをお手伝いしています。
乗り換えるかどうかの決め方
すでに Claude や GPT-6 Astra で動いている処理がある場合、今回の発表だけを理由に全部を移すのは勧めません。公式表の総合行で負けているモデルに、動いているものをまとめて寄せる理由がないからです。順番としては次のようになります。
- いま回している処理を「長時間走るもの」「1回で終わるもの」に仕分ける。
- 長時間走るもののうち、法務・契約の調査と、何時間もかかる実装タスクだけを Muse Wonder で試す。この2つが今回いちばん差が出た領域です。
- 画面操作・記憶・健康知識の処理は動かさない。表の上では他社が上です。
- 1回で終わる処理は spark 1.3 相当の安いモデルに寄せられないかを見直す。乗り換え検討のついでにここを整理すると、効果が出やすいところです。
移行そのものの手間を見積もる観点はGPT-6 Astra へ移行するときに実際かかるコストの見方にまとめた考え方がそのまま使えます。Meta のモデル系譜がどう変わってきたかという背景はLlama 5 がいつ出るのか・何が載るのかの整理を参照してください。
なお Muse Wonder の重みが公開される予定については、公式に告知がありません。日本語対応の可否についても公式の記載はありません。社内に置いて動かすことを前提に検討している場合は、この2点が確認できるまで判断を保留するのが安全です。
まとめ
公式表の14行を分けて見ると、Muse Wonder は「法務エージェントと、何時間も走り続ける実装タスク」で明確に先頭、「画面操作・記憶・健康知識・区切られたコーディング・総合指標」では他社が上、という形になります。総合行は Opus 5.5 の 58 が最上位で、Artificial Analysis Index は 70.5 と突出。この2点を書いていない比較記事は、表の一部だけを見ていると考えてよいと思います。
自社の業務のどこに当てはめられるか判断に迷う場合は、処理の一覧を見せていただければ一緒に仕分けます。
よくある質問
Muse Wonder は Claude Opus 5.5 より強いのですか?
行によって違います。法務エージェントのHarvey LAB-AAではMuse Wonder Fullが13.1でOpus 5.5の4.2を大きく上回りますが、公式表の総合行はOpus 5.5の58が最上位、Artificial Analysis IndexもOpus 5.5の70.5が突出しています。用途ごとに選び分けるのが実務的です。
GPT-6 Astra と比べるとどうですか?
Muse Wonder FullはSWE-Marathon(79.0対74.1)やProgramBench(57.5対42.5)で上ですが、DeepSWE 1.1(59.1)、HealthBench Pro(65.3)、GDP.pdf(34.2)ではGPT-6 Astraが上です。総合行は56対53です。
ベンチマーク表の注記は何を意味しますか?
OSWorld V2.1は5列すべてにpartial、MemoryBenchはbinaryの注記が付き、MemoryBenchはOpus 5.5の値がありません。ProgramBenchはMuse Wonder Fullの値だけにxhighの注記が付いています。条件が揃っていない行があるという意味なので、単純な大小比較はできません。
価格はどれくらい上がりますか?
Muse Wonderは1Mトークンあたり入力4.00ドル・出力20.00ドルで、muse-spark-1.3の入力1.25ドル・出力4.25ドルに対して入力3.2倍・出力4.7倍です。単発の要約や分類は安いモデルで足ります。
Muse Wonder Full はどう使えますか?
Muse Codeのサブスク限定で、Power Usage(月50.00ドル)とMaximum Usage(月200.00ドル)のプランで利用できます。従量課金の単価は公開されていません。