先に結論です。掛け時計が遅れる原因でいちばん多いのは電池の電圧低下です。カシオの公式FAQも、電池が消耗すると「時刻の狂いが目立ったり」「アナログ時計は、針が止ったりします」と書いています。つまり完全に止まる前に、まず遅れとして出ます。ですから最初にやることは一つで、使用推奨期限内の新しい電池に交換し、リセットボタンがあれば押すことです。それで直らなければ針の引っかかり、設置場所の温度と磁気を順に疑います。なお一般的なクオーツ掛時計の精度は仕様そのものが平均月差±20秒前後(セイコーの製品仕様では「クオーツ(±20秒/月)」)なので、ひと月で十数秒のズレは故障ではありません。
症状別・いちばん疑うものと最初にすること
1か月で15秒なのか、1日で10分なのかで原因はまったく違います。どれなのかを決めてから手を動かしてください。
症状 | いちばん疑うもの | 最初にすること |
|---|---|---|
1か月で10〜30秒ほどのズレ | クオーツの仕様上の誤差(故障ではない) | 何もしない。気になるときだけ合わせ直す |
1日で数分〜数十分遅れる | 電池の電圧低下 | 新しい電池に交換し、リセットボタンを押す |
数日〜数週間で止まった/また動き出す | 電池の消耗、または電池端子の汚れ・接触不良 | 端子の汚れを落としてから新しい電池を入れる |
秒針が同じ場所で震える・行って戻る | 電圧不足か針の引っかかり | 電池交換。直らなければ針が触れていないか見る |
毎回同じ針の位置で止まる | 針どうしの接触・文字盤への干渉 | 時刻合わせつまみで針を1周させ引っかかる位置を探す |
進むこともあるし遅れることもある | 強い磁気、または高温・低温 | 設置場所を変える(後述) |
電波時計で時刻が大きくずれる | 受信できていない(遅れとは別問題) | 電池交換とリセット、置き場所の見直し |
電波時計は「クオーツが遅れている」のではなく「標準電波を受信できず、受信前の時刻のまま進んでいる」ことがほとんどです。切り分け方は電波時計が受信しないときの直し方にまとめています。
原因の大半は電池。止まる前に「まず遅れる」理由
アナログのクオーツ時計は、水晶振動子で1秒を作り、その信号でステップモーターが針を1秒ずつ送ります。電池が弱ると、回路を動かす電力はまだ足りているのに、針を動かすトルクが先に足りなくなります。すると針が送りきれず1歩ぶんが抜ける。正しく数えているのに針だけが置いていかれる。これが「止まる前にまず遅れる」の中身です。パナソニックの公式FAQいわく乾電池は「機器が作動する領域の間、電池を放電(使用)するに従って電圧が徐々に下がっていきます」。この徐々に落ちる期間が、そのまま「動いているのに遅れる」グレーゾーンになります。
対処はこれだけです。
- 動いていても、まず新しい電池に交換する(残量計で測るより早い)
- 交換前に端子の汚れを落とす。カシオの公式FAQも「電池と時計の端子(接触部)の汚れを落としてから入れてください」としています
- リセットボタンがある機種は交換後に必ず押す。セイコーの公式FAQも「指定の新しい電池(使用推奨期限内のもの)と交換の上、リセットボタンを押してください」と案内しています
- 新旧・種類の違う電池を混ぜない
アルカリ・マンガン・充電池のどれを入れるか
ここは各社の公式が明確に書いています。結論は「取扱説明書の指定どおりにする。指定が読めないならアルカリ、ただし推奨期限より前に替える」です。
電池 | 公称電圧 | 掛時計での向き不向き |
|---|---|---|
アルカリ乾電池 | 1.5V | 多くの製品が指定(セイコーの掛時計仕様に「単2アルカリ×1」など)。マンガン指定機に使うと寿命が延びすぎ、液漏れの入口になる |
マンガン乾電池 | 1.5V | パナソニックが「時計やリモコンなど小さな電力で動く機器」の選択肢に挙げている。指定がマンガンならこれが素直 |
ニッケル水素充電池 | 1.2V | 向かない。カシオが「初期電圧が低く電池の特性が合わない」として、正常に動作しない/寿命が極端に短くなる場合があるとしている |
オキシライド乾電池 | 1.5V(初期電圧が高い) | 向かない。セイコーは「初期電圧が高く時計用には適しておりません」、リズムも正常に動作しない場合があるとしている |
マンガン指定の製品にアルカリを入れる話は直感と逆なので補足します。カシオの公式FAQは、アルカリを使うと「電池寿命が延びてしまい、電池の使用推奨期限を超えて使用される場合があり、電池の液漏れ等による周囲の汚損や製品故障の原因となる場合があります」と説明しており、リズムもほぼ同じ注意を書いています。長持ちすること自体が危ない、ということです。アルカリを使うなら年1回など期限を決めて替えてしまうのが安全です。充電池が向かない理由も放電特性にあります。パナソニックのFAQによれば充電池は「機器が作動する領域の間1.2ボルト付近で電圧が一定となり、電池の容量がなくなりますと、電圧が一気に低下していきます」。予兆なく落ちるので、止まったら困る機器とは相性が良くありません。
月差±20秒は故障ではない。ではどこからが異常か
クオーツ時計の精度はカタログに書かれた仕様です。セイコーの掛時計の製品仕様には精度として「クオーツ(±20秒/月)」と記載されています。±20秒/月なら、半年で最大2分前後ズレても仕様の範囲内です。切り分けの目安はこう考えてください。
- 1か月で30秒以内……仕様の範囲。直す対象ではない
- 1週間で1分以上……仕様から外れている。電池か環境を疑う
- 1日で5分以上……ほぼ電池、または針の引っかかり
比べる相手は、ネットワーク同期で常に正しいスマホの時計で構いません。ただし「秒まで合わせたい」という話は精度とは別の論点なので、時計の1秒のズレと精度の考え方を参照してください。月差の実数は製品ごとに違うので、手元の機種は型番で取扱説明書を引くのが確実です。
針が引っかかる・秒針が同じ所で震える
電池を替えても直らないときに多いのが、物理的な引っかかりです。症状に特徴があります。
- 秒針が一か所で前後に震え、先へ進まない
- いつも同じ針の位置(たとえば分針と時針が重なるあたり)で止まる
- 日に数十分も遅れるのに、電池は新品
考えられるのは、針どうしが触れている、針が文字盤や風防に当たっている、軸がわずかにずれている、のどれかです。確かめ方は裏の時刻合わせつまみでゆっくり針を一周させること。重くなる位置があれば、そこが原因です。軽い接触なら針を指でそっと上下に曲げて隙間を作ると直ることがありますが、この手順はメーカー公式の文書では確認できていません。力加減を誤れば軸を痛めるので、気に入っている時計なら修理窓口に出すほうが確実です。
内部の汚れも近い症状を出します。セイコーの「ご愛用上の注意」は、ほこりの多い場所で「空気中に舞い上がったごみが歯車や接点に挟まって時計が止まったり」すると書き、台所など油煙のある場所についても「霧状になった油分が機械の歯車等に付着し、時計が止まることがあります」としています。キッチンの時計が数年で駄目になるのは、わりとこれです。
温度と設置場所。磁気は進みにも遅れにも出る
設置場所は公式の注意書きがそのまま答えになっています。
- 高温・直射日光……セイコーは「温度が+40℃(40度)以上になる所や直射日光のあたる所」、リズムは「温度が+50℃(50度)以上になる所。例えば、長時間直射日光のあたる所。暖房器具等の熱風や火気に近い所」を避けるよう案内しています
- 低温……セイコーは「温度が0℃(0度)以下になる所」を挙げています。冬の廊下や玄関、物置は要注意です
- 磁気……セイコーは「大型テレビ・スピーカーのそばや、強い磁気のある所。(磁力の影響で進み、遅れを生じたり、時計が止まることがあります。)」、リズムも「テレビ・OA機器・オーディオのそばなど、強い磁気が発生する所。(磁力の影響で、時計の進みや遅れが生じたり、止まることがあります。)」と書いています
「掛け時計が進む」で来られた方も原因の候補はほぼ同じで、磁気は進みにも遅れにも出ます。スピーカー、ワイヤレス充電器、磁石付きのフックのそばに掛けていないかを見てください。なお何センチ離せば安全かという距離は公式資料では確認できていません。置き場所を変えて1週間ズレ方が変わるかを見るのが現実的です。
エアコンの風が直接当たる場所も避けたほうが無難です。温度が振れますし、吹き出し口の近くはほこりも多いためです。
置き時計の電池と、電波時計のリセット手順
置き時計も原理は同じですが、単3・単4など容量の小さい電池が多く、アラームや液晶表示の消費も重なるため電圧低下が早く来ます。「置き時計が遅れる」ときは電池交換の優先度がさらに高いと考えてください。電波時計のほうは、リズムのFAQが「電池を全て外す。リセットボタン或は強制受信ボタンを2回~3回押す。30分ほど放置する。電池をセットしリセットボタンを1回押す。20分ほど窓際に置く。」という手順を案内しています(正確な手順は手持ちの取扱説明書に従ってください)。
「もう直らない」の見極めと、画面で済ませる選択肢
次が重なったら、修理か買い替えの判断に移ってよいと思います。
- 端子を清掃して新しい電池に替え、リセットも押した
- 置き場所を変えて1週間見たが、ズレ方が変わらない
- 針を一周させても引っかかる位置はない
- それでも1日で数分以上遅れる
この状態はムーブメント(駆動部)側の不調で、外から触って直る範囲を超えています。愛着のある時計ならメーカーの修理窓口へ。量販品ならムーブメント交換か買い替えのほうが安く済むことが多いはずです。
そもそも「正確な時刻が見たいだけ」なら、壁の時計にこだわらない手もあります。画面に時計を出せばOSがネットワーク同期で時刻を合わせるので、遅れる・電池が切れるという問題自体が消えます。デスクワーク中心ならサブモニターに常時表示する時計、文字盤の見やすさが好きならブラウザで使えるアナログ時計、ご家族が遠くから見るなら大きく表示できる時計が近い選択肢です。
私たちもブラウザで動く時計を作って、自分たちの仕事で使っています。記事の途中で恐縮ですが、電池交換の手間から離れたいときの候補として、よろしければ覗いてみてください。
なお壁の時計を残したいけれど秒針の音が気になる場合は、秒針のカチカチ音が気になるときの対処も合わせてご覧ください。
まとめ
順番が決まっています。①1か月で30秒以内なら仕様の範囲なので触らない(セイコーの掛時計仕様は「クオーツ(±20秒/月)」)。②1週間で1分以上ズレるなら、端子を清掃して使用推奨期限内の新しい電池に交換し、リセットボタンを押す。③電池は取扱説明書の指定どおりにし、ニッケル水素充電池とオキシライドは使わない。④それでも遅れるなら針を一周させて引っかかる位置を探す。⑤直射日光・熱風・0℃以下・強い磁気から離し、1週間ズレ方が変わるか見る。⑥電波時計なら受信の問題として切り分ける。⑦なお遅れるならムーブメントの不調で、修理・買い替え・画面の時計への切り替えを検討する。この順に潰せば、だいたい②で終わります。
よくある質問
掛け時計が遅れるとき、最初に何をすればいいですか?
端子の汚れを落としたうえで、使用推奨期限内の新しい電池に交換し、リセットボタンがある機種は押してください。カシオの公式FAQも電池が消耗すると時刻の狂いが目立つと説明しており、動いていても電池が原因のことが大半です。
1か月で20秒くらいズレるのは故障ですか?
故障ではありません。セイコーの掛時計の製品仕様には精度として「クオーツ(±20秒/月)」と記載されており、月に数十秒のズレは仕様の範囲内です。1週間で1分以上ズレる場合に原因を探してください。
掛け時計に充電池を使ってもいいですか?
向きません。乾電池の公称電圧1.5Vに対しニッケル水素充電池は1.2Vで、カシオは初期電圧が低く特性が合わないため正常に動作しない・寿命が極端に短くなる場合があるとしています。オキシライド乾電池も初期電圧が高く、セイコーが時計用に適さないとしています。
マンガン指定の時計にアルカリ乾電池を入れてはいけないのですか?
使えますが注意が要ります。カシオとリズムは、電池寿命が延びて使用推奨期限を超えて使われ、液漏れによる汚損や故障の原因になる場合があると案内しています。入れるなら年1回など期限を決めて交換してください。
秒針が同じ場所で震えて進みません。
電圧不足か、針の引っかかりです。まず電池を交換し、直らなければ時刻合わせつまみで針をゆっくり一周させ、重くなる位置がないか探してください。なお針を曲げて隙間を作る手順はメーカー公式の文書で確認できていないため、大切な時計は修理窓口に出すほうが安全です。