結論:合わないのは故障ではなく「標準電波を受信できていない」
電波時計が合わない原因は、ほとんどが故障ではなく受信の失敗です。日本の標準電波(JJY)は2局しかなく、福島県のおおたかどや山標準電波送信所が40kHz、佐賀県・福岡県境のはがね山標準電波送信所が60kHz、いずれも空中線電力50kWで送信されています(NICT「JJY - 標準電波」)。この電波が手元まで届いていなければ、電波時計はただのクオーツ時計として動き続けます。
NICTが公開している切り分け手順も、最初にくるのは置き場所です。送信所の方向に近い窓際に置き、強制受信モードにしてから20分以上そのままにする。それでも受信しなければ2〜3日据え置き、その間に1度でも受信すれば時刻は1秒以内に合っている、とされています(NICT「電波時計が受信できない時のヒント」)。つまり目指すのは「常に受信し続けること」ではなく、1日1回受信できる場所を見つけることです。
受信できていない間の精度も公表されています。シチズンは、標準電波が受信できない場合でも時計は月差±15秒以内の精度で動き続けると明記しています(シチズン「電波受信について」)。ずれ方が数十秒なら受信していない期間が積もっただけ、数分〜1時間単位なら受信の失敗や誤受信、と当たりをつけられます。秒単位のずれの考え方は時計が1秒ずれる原因に整理しました。
最初に確認すること:いま標準電波は出ているか
自分の時計を疑う前に、送信側を見たほうが早い場合があります。NICTは年に1回、数日間の定期点検のため停波を行い、そのほかに天候(落雷回避など)の理由で短時間の停波をすることがあると説明しています(NICT「標準電波に関するQ&A」)。停波中は、どんなに受信環境を整えても受信できません。
現在の送信状況と停波予定は、NICTの送信情報ページで状況が変わるたびに更新され、変化がない日も1日1回更新されています。NICT「標準電波送信情報」では、この記事の確認時点(2026年10月2日)で40kHz・60kHzのどちらも「正常送信中/停波予定無し」と表示されていました。合わない日が何日も続いているなら、まずここを開きます。
症状別|考えられる原因と、最初にやること
ひとくちに「合わない」と言っても、症状によって原因が変わります。NICTとメーカー公式の記述から整理しました。
症状 | 考えられる原因 | 最初にやること |
|---|---|---|
買ってから一度も受信しない | 置き場所・置く向き・鉄筋や金属の遮蔽 | 送信所の方向に近い窓際で強制受信し、20分以上動かさない |
今までは合っていたのに合わなくなった | 電池残量の低下、周囲の家電の増減、電波伝搬の季節変動 | 電池を新品に交換し、元の場所で2〜3日様子を見る |
受信マークが出ない・消える | 受信の失敗が続いている(マークの消え方は機種差あり) | 取扱説明書でマークの仕様を確認し、117などで実時刻と突き合わせる |
受信するのに時刻がずれている | アナログ針の原点位置ずれ、サマータイムや海外時刻の設定 | 取扱説明書で原点位置と各設定を確認する |
1時間だけ進んでいる・遅れている | 電池不足、近くのノイズ源、時差やサマータイムの設定 | 電池交換とノイズ源からの距離を確保し、設定を見直す |
「時」だけ・「分」だけがまったく違う | 周期性のノイズによる誤受信 | AMラジオでノイズの有無を確かめ、発生源から離す |
日付が1日ずれている | うるう年情報を手動設定する機種で設定を誤っている | 取扱説明書に従って年情報を再設定する |
いずれもNICTのヒント集とQ&Aに書かれている内容です。時計そのものの不具合や操作方法は、NICTでは回答できないとされているため、最後はメーカーか販売店が窓口になります。
原因1:置き場所と向き — 鉄筋と金属が電波を止める
最も多いのがここです。NICTは、鉄筋の建物内や地下街など電波を遮蔽する建物内では受信が困難で、その場合は1日1回程度屋外に出して強制的に受信させる以外の対処方法はないと述べています。マンションについても「可能・不可能と断定できない」としながら、送信所の方向を向いた窓際に置くといった工夫で受信できるようになる、という書き方です。
送信所の方向を向いた窓際に置く(東日本は福島、西日本は佐賀)
NICTのヒント集は方向をはっきり書いています。東日本では福島県の方向、西日本では佐賀県の方向に近い窓際に置く。加えて、置く向きでも受信のしやすさが変わるので取扱説明書のとおりに向きを合わせる、とされています。リズム時計も同じ案内で、窓の近くに置くのがポイントで、送信所の方向(東日本は福島県側、西日本は佐賀県側)に近い窓際に置いて様子を見るよう説明しています(リズム「電波を受信しない原因と対処法」)。
見落としやすいのが金属です。窓際でもサッシのすぐそばなど、金属のそばには置かない。窓際に移したのに改善しないときは、数十センチ内側へずらすだけで変わることがあります。送電線の近くや鉄道の近くも、ノイズの影響で受信が困難になることがあると書かれています。
家電ノイズの有無はAMラジオで確かめられる
ノイズ源としてNICTが名前を挙げているのは、テレビ、パソコン、蛍光灯、LED照明、エアコン、充電器などのACアダプタです。LED照明と充電器は「静かそうに見えるのに効く」ので要注意です。対処は単純で、できるだけ(数m以上)離すこと。
そのうえでNICTは、簡便な確認方法として電池式のAMラジオを使う手を紹介しています。AMラジオを放送波の入らない一番低い周波数に合わせ、「サー」という一定のノイズ音が聞こえる状態にする。その状態で家電に近づけると「ブーン」「バリバリ」「ガー」といった音が大きくなるので、発生源の見当がつく、という方法です。電波時計を置きたい場所でノイズ音が小さいことを確認してから置けば、やり直しが減ります。あくまで簡便法で確実な方法ではない、とも明記されています。
天候の影響もあります。落雷や空電のある気象条件下ではノイズが多くなり受信が困難になるため、受信確認は天候が落ち着いた日に行うほうが確実です。
原因2:電池は「時計は動くが受信はできない」水準になる
これはかなり多い見落としです。NICTのヒント集は、時計として動作するレベルの電池残量でも、電波受信はできないことがあると書いています。針が普通に動いているから電池は大丈夫、という判断が通らないわけです。取扱説明書に書かれた電池寿命を過ぎていたら交換し、最初に付いてきたテスト用電池は寿命が短い場合があるとも補足されています。ソーラー電池タイプは十分に充電し、ソーラー電池自体にも寿命があることを前提にします。
電池交換のあとの一手も公式に案内があります。セイコークロックは、電池交換後は先の細い棒などでリセットボタンを押し、電波を受信しやすいようになるべく窓の近くで行うよう説明しています(セイコークロック「よくあるご質問」)。交換しただけで元の場所に戻すと、受信動作に入らないまま止まってしまうことがあります。
原因3:受信は深夜に起きる設計になっている
「昼間に置き場所を変えたのに合わない」という相談の多くは、ここが原因です。電波時計は常時受信しているわけではなく、深夜に自動受信する設計が一般的です。カシオは、ホームタイム都市が東京(TYO)の場合、時刻モードの時刻が午前0時から午前5時にかけて段階的に受信を試み、自動受信は1日最大6回と説明しています(カシオ「電波時計について モジュール番号5161」)。シチズンは定時受信を一日に一度、夜間に自動で受信と記しています。
だから置き場所を変えた日の判定は、翌朝までは出ません。NICTが2〜3日の据え置きを勧めているのも同じ理由です。夜のあいだ時計をノイズ源の横に戻してしまうと、せっかく見つけた窓際が意味を持ちません。
夜間に受信しやすいのは、電離層の反射波が強まるから
理由も公式に説明されています。長波の標準電波は、地表に沿って伝わる地表波と、電離層(D層)で反射されて伝わる空間波が合成されて受信されます。送信点からおおむね200km以内では空間波が地表波より弱いため受信強度は安定しており、夜間に空間波が増えても変動はそれほど大きくなりません。そこから先700km程の範囲では両者の強度がほぼ同等になり、さらに遠方では空間波のほうが強くなるため、日中・夜間を通して変動が大きく観測されます。
そしてNICTは、D層の見かけの高さが日中と夜間、夏と夏以外で変わることを踏まえ、夏以外の期間のほうが変動は増えるものの空間波の強度が増すため、電波時計は夜間に受信しやすくなると結論しています。「去年は受信できていたのに今年の夏は合わない」が起こるのは、この季節変動の範囲内です。
原因4:40kHzと60kHz、どちらの局で受信するか
2局あるのは冗長化のためではなく、カバーする地域を分けるためです。NICTは、同じ周波数を使うと電波の干渉でまったく受信できない地域ができてしまうため別の周波数にした、と説明しています。公式に確認できる2局の諸元を並べます。
項目 | おおたかどや山標準電波送信所 | はがね山標準電波送信所 |
|---|---|---|
周波数 | 40kHz | 60kHz |
所在地 | 福島県田村市都路町/双葉郡川内村の境界 | 佐賀県佐賀市富士町/福岡県糸島市の境界 |
空中線電力 | 50kW | 50kW |
アンテナ効率 | 約25% | 約45% |
運用開始 | 1999年6月10日 | 2001年10月1日 |
向きを合わせる方向 | 東日本では福島県の方向 | 西日本では佐賀県の方向 |
西日本・東日本の目安と、迷ったときの選び方
目安は単純に「近い送信所のほう」で、東日本は40kHz、西日本は60kHzです。ただし両局対応の受信機なら、どちらの標準電波も受信できます。中間地点の例としてNICTは京都市を挙げ、両送信所からの距離がほとんど同じになる地点だとしたうえで、送信電力は同じでもはがね山(60kHz)のほうがアンテナ効率が良く実効輻射電力が大きいため、1つ目に両局(2周波)対応、2つ目に1周波なら60kHz対応をすすめています。
東京での受信の様子も参考になります。NICTは、小金井では福島送信所に近いため地表波が常に強く電離層の影響を受けにくい一方、九州送信所からは約900km離れていて空間波が定常的に強い状態になるため、太陽フレアなどでD層が乱れると受信電界強度が急に低下したり大きく変動したりする、と説明しています。遠い局に頼っている場所では、同じ部屋でも日によって結果が変わります。
沖縄や海外では受信できないことがある
距離が離れると単純に厳しくなります。NICTは沖縄での40kHz受信について、送信所からの距離が遠いため受信はかなり困難で、これまで受信できていたのは夜間の条件の良い時間帯だろう、日中の受信は難しい、と回答しています。
海外も前提から違います。アメリカのWWVBは日本のはがね山と同じ60kHzですが、タイムコードと変調の方式が異なるため互換性がないとNICTは明記しています。時刻表示がJJYは地方時でWWVBはUTC、正しい秒の位置がJJYは電波の立ち上がり・WWVBは立ち下がり、といった違いです。米国向けの電波時計は日本国内では受信できず、日本国内向けも米国では受信できません(両国対応の製品は市販されています)。また、国内専用の電波時計を海外で使うと、手動で現地時刻に合わせても、まれに日本の電波を受信して日本時刻に戻ってしまうことがある、とも注意されています。
こうして見ていくと、電波で合わせるのは「場所と時間の条件が揃ったときだけ成立する仕組み」だと分かります。私たちが公開している集中時計は、電波ではなくネットワーク経由の時刻で動くブラウザの時計で、電波が届かない部屋でも秒まで表示が揃います。作業用の全画面時計なので置き時計の代わりになるものではありませんが、手元で正しい時刻を確認する用途なら使えると思います。
強制受信のやり方と、何分待てばいいのか
手順は機種ごとに違うので取扱説明書が優先ですが、共通する作法と待ち時間は公式情報から押さえられます。まず置き場所を決め、送信所の方向を向いた窓際で強制受信(手動受信)を開始し、受信中は時計を動かさない。NICTはこれを明示しています。
待ち時間の目安はメーカーごとに公表されています。NICTのヒント集は強制受信モードで20分以上そのままにするよう案内しています。セイコークロックは、受信に成功したあと現在時刻に合うまで機種により5分〜最長42分かかる場合があると説明しています。シチズンの腕時計は受信完了まで最大約15分、カシオのモジュール5161は標準で3〜8分程度、周波数を変えて再受信する場合は最大16分とされています。数分で諦めると、成功していたはずの受信を打ち切ってしまいます。
受信マークが出ない・消えるときの読み方
受信マークの挙動には機種差があります。NICTは、受信完了時にマークが表示される機種でも、1回受信しないと消えるものと、何回か連続で受信できないと消えるものがあるとして、取扱説明書での確認を求めています。マークが消えた=いま時刻が狂っている、とは限りません。
セイコークロックによると、デジタル式は受信マークが表示されていれば受信している状態、アナログ式は受信確認ボタンを押すと過去24時間以内に受信していればLEDライトが緑色に点滅する、という確認方法です。そして時刻が正しく修正できたかどうかは、NTTの117時報サービスなどで突き合わせるのが確実だとNICTも案内しています。
リズム時計は、受信ランプが点灯しない場合の手順として、電池をすべて外してリセットボタンまたは強制受信ボタンを2〜3回押し、30分ほど放置してから電池をセットし、ボタンを1回押して窓際に20分ほど置く、という流れを案内しています。ここまでやって屋外でも受信しないなら、NICTが書いているとおり故障も考えられます。
どうしても受信できない場所での代替手段
鉄筋の建物の奥や地下では、NICT自身が「1日1回程度屋外に出して強制受信させる以外の対処方法はない」と書いています。毎日時計を持ち歩くのは現実的でないので、割り切り方を決めたほうが早いです。
選択肢は3つあります。1つめは、電波受信機能をオフにして手動で合わせ、普通のクオーツ時計として使うこと。シチズンの機種は月差±15秒以内で動くので、月に1回合わせ直せば実用上は足ります。2つめは、地下など電波を受けにくい場所で使う前提のアンテナ分離型の受信装置を選ぶこと。これはNICTが代替として挙げている方法です。3つめは、基準になる時計をネットワーク側に移すこと。日本標準時はNICTの公開NTPサーバ ntp.nict.jp からも配信されており、パソコンやスマートフォンはこの経路で時刻を合わせています(NICT「公開NTPサービス」)。
3つめを選ぶなら、まず手元の端末の時刻が本当に合っているかを確かめるのが先です。パソコン側の設定でずれる場合の直し方はパソコンの時計がずれるときの対処に、ブラウザで秒まで見る時計の選び方はWebでリアルタイム時計を秒まで正確に見る方法にまとめています。壁の時計は深夜の自動受信に任せ、確認用の表示は集中時計のようなブラウザの時計に寄せる、という二本立てが現実的です。
受信しているのに時刻がずれているとき
受信は成功しているのに表示が違う、というパターンは原因が別です。NICTはアナログ表示(時針表示)タイプについて、針の原点位置がずれると受信しても時刻がずれて表示されるため、取扱説明書を読んで原点位置を修正する必要があると説明しています。電池交換や落下のあとに起きやすい症状です。
設定由来のずれもあります。サマータイム設定機能のある機種はその機能で表示がずれることがあり、海外時刻表示機能のある機種は別の時刻表示になることがあります。日付が1日ずれる場合は、うるう年情報を手動設定する機種で設定を誤っていると、うるう年の2月29日以降1日ずれ続けます。
なお、電波の伝搬そのものによる遅れは問題になりません。NICTは、電波の速度は光と同じなので1200kmの伝搬遅延は約4ミリ秒だと示しています(別に受信機内部の信号処理の遅れを考慮する必要はあります)。「遠いからずれる」という説明は、少なくとも時刻表示の桁では成立しません。
まとめ:目標は「1日1回受信できる場所」を見つけること
やることは順番が決まっています。NICTの送信情報で停波を確認する。電池を新品にする。東日本なら福島、西日本なら佐賀の方向に近い窓際で、金属から少し離して置く。AMラジオでノイズ源を把握して数m離す。強制受信してから20分以上動かさない。それでも分からなければ2〜3日据え置いて、1度でも受信するかを見る。
この6手で大半は切り分けられます。1日1回受信できていれば時刻は1秒以内に収まるので、受信マークが点いたり消えたりすることまで気にする必要はありません。逆に屋外に1日以上置いても受信しないなら、受信環境ではなく時計側の問題として、メーカーか販売店に相談する段階です。
社内の時計や勤怠の基準時刻がずれていて困っている、といったご相談があればお気軽にどうぞ。業務側の仕組みで解決したほうが早いケースもあります。
よくある質問
電波時計が合わないのは故障ですか?
多くは故障ではなく受信の失敗です。標準電波を受信できていない間は普通のクオーツ時計として動くため、ずれが積もります。送信所の方向に近い窓際で強制受信し、20分以上動かさずに様子を見るのが最初の一手です。
強制受信は何分待てばいいですか?
NICTは強制受信モードにしてから20分以上そのままにするよう案内しています。メーカー公式では、セイコークロックが現在時刻に合うまで5分から最長42分、シチズンが最大約15分、カシオのモジュール5161が標準3から8分・再受信時は最大16分としています。
40kHzと60kHzはどちらを選べばよいですか?
東日本は福島県の40kHz、西日本は佐賀県の60kHzが目安です。両局対応の受信機ならどちらも受信できます。両送信所からほぼ等距離の京都市についてNICTは、両局対応、次に1周波なら60kHz対応をすすめています。
電池を替えたばかりなのに受信しません。
時計として動作するレベルの電池残量でも電波受信はできないことがあり、付属のテスト用電池は寿命が短い場合があります。新品に交換したうえで、セイコークロックが案内するようにリセットボタンを押し、窓の近くで受信させてください。
どうしても受信できない部屋ではどうすればよいですか?
NICTは、鉄筋の建物内や地下では1日1回程度屋外に出して強制受信させる以外の方法はないとしています。現実的には電波受信をオフにして月1回手で合わせる、アンテナ分離型の受信装置を使う、ネットワーク時刻で動く時計を基準にする、のいずれかです。